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2.再開期
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しおりを挟む王宮の静けさに反するザザッと砂嵐の音に違和感を感じたノルマンは違和感の先に伸びた影に目を向ける。
『王妃様ヨリ伝令、警備兵出兵願ウ、聖女負傷、公主暴走鎮静、該当生徒捕縛要請』
影から突如として聞こえた声は例えがたいガサガサ声。しかし内容は一言一句漏らすこと無く聞こえた。
ノルマンにとって王妃、つまりはマリアからの願いに背くことは決してあり得ない。
影に向かって「あい分かった」と伝えてすぐに行動に出る。
王国の警備兵は王の言うことしか聞かない。というよりかは、イレギュラーな行動をするマリアに嫌悪感を抱いている者が多く、別途で詰まれた仕事に飽き飽きしていることは遠目でも理解できた。
ただマリアに害をなさない、それだけの理由で放任してきたが今回はきっと害になり得る。
ノルマンの考えは的を得ていた。
警備兵の指揮をとっていたヤーマンは宿舎にやって来たノルマンにはビシッと決まった声で返事をし頭を下げたが学院へという指示でマリアが絡んでいると分かった瞬間にその言葉を濁らせた。
「陛下、学院は我々の管轄外。王妃様が勝手に向かった件で我々の手が加わるのはいかがなものかと」
ヤーマンはノルマンの返事を待たずに王妃への愚痴に捉えられる悪態をついた。勝手に行ったことで我々の手を煩わせるのは可笑しくないか、自分で対処できないのならやるべきではないと思う。これだから女は。
ノルマンは全てを聴いた上でヤーマンに「で?」と聞き返した。冷たい声でたった一言。
ヤーマンはノルマンの言葉で我に返ったように少し動揺したが言ってしまった言葉は取り返しがつかない。
「我々警備兵は王妃様の伝令には従えません」
ハッキリと無理だと断ったヤーマンにノルマンは表情を変えること無く「そうか」と言い切って警備兵のいる宿舎から出た。
そして、流れるようにノルマン一人で馬に乗り学院へと出向こうとした。
その行動を黙って見過ごせるほど王宮の者達は愚かではない。
王が動くのならばと出兵の準備をして動いてくる。ヤーマンも然り。
馬に乗りいつでも動けますというアピールで数十人の警備兵がノルマンの後ろに集ったことを確認したノルマンは馬から降り、静かに先頭で指揮を取るヤーマンの元へ行きズボンの裾を引っ張り馬から引き摺り下ろした。
突然のことで唖然となる空間でヤーマンも驚いた表情を見せたがノルマンは一切表情を変えることなく、懐の刀を抜いてヤーマンの口元へと刃先を向けた。
恐怖で達者になる口に容赦なく刃を突き立てたノルマンは、同様に恐怖で黙り込んだ集った警備兵全員に向かい淡々と言葉を告げた。
「…俺はマリアの為にこの椅子にいる。王として、国民の為に、なんて考えたこともない。少なくともお前ら風情が王妃を侮辱し命令に背いた現実は変わらない。ヤーマン含めお前達の普段の陰口を知らぬと思ってたか?口がきけなくなった程度で済んだことを喜ぶべきだな。
出兵後、処罰は別途で与える。まずは王妃の命に従いさっさと動け」
あまりの変貌ぶりに流石の警備兵達も怯えきり、馬を急いで走らせ学院へと向かった。ノルマンも後ろからついていき、学院のもの達への説明を軽くした上でマリアの元へと向かった。
マリアはあまりに怯えた警備兵を見て疑問を持ちはしたもののノルマンはマリアの視点で何も変わっていないことから杞憂かもしれないと目を逸らした。
ノルマンが来た直後暴れてエルメと力比べをしていたアウスの力がストンと抜けまるで気絶したように静かになったことで場は騒然となった。
マリアはウィリエールを疑い何かしたのかと問うたがウィリエールからしてもこの状況は想定外しかなく、何もわからないのですとだけしか言うことが出来なかった。
ノルマン、マリアを含むその場の全員が理由もわからずに失神したアウスに目が離せなかった。
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