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2.再開期
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しおりを挟む空を飛んでいたアウスが異変に気付いたのは、石を投げつけられ額に傷が出来た辺りだろう。
流石に隣国ではその血の匂いを嗅ぎ分けるのは難しい。
しかし既にアウスが王国の上空にいたこと、ラウリーが番だという確証が既に得られていることからアウスはラウリーの微かな血の匂いの色の線を辿って空を動く。
途中でその色の線が濃くなり、明確にラウリーが出血していることがわかった瞬間。怒りが脳を飛んでいる内に少しだけ落ち着いた状態から更に興奮させ前より微かにしかなくなっていた理性など完全に崩壊した。
着陸してからのアウスにはもう人間としての理性が存在せず怒りに狂った人間の脅威でしかなかった。
唸り声は人々を畏怖させ、殺意は確かなラウリーの血の血の匂いをつけたミルワームや周りに集う者へと向いた。
「……黒龍だ……不吉のシンボルだ」
ザワザワとアウスをアウスだと認識していない学生たちはアウスにも石を投げる勢いでアウスのことを『悪』だといいそれを呼んだラウリーは『魔女』だと騒ぎ立てた。
アウスは、怒りでもう人間の言葉すら理解できないほど龍化が進んでいたが周りから溢れる敵意だけは感じ取りラウリーは守ろうと蜷局を巻き壁を作った。
追いかけてきたエルメやシックスたちが空から状況を見た時に、突然黒龍が降りてきたことにパニックになっていると勘違いした。
ただ、降りている途中ネスタがラウリーの存在に気付いたことでアウスの言う番がその蜷局の中心に居るものだと明確ではないにせよ仮説は立てることができ、その場で敵とし攻撃を受けていたのをアウスが守っている可能性を最有力の仮説として加勢しようと降り立った。
学院の生徒達からしたら知らぬ勢力が空から黒龍に続いてやって来たことに動揺が隠せない。
しかもやって来たのが色は違えど龍、上に乗っていた人と思われる人形の何かであれば疑問と動揺は波紋のように広がり騒ぎへと変わる。
たなたまた
理性を完全に失ったアウスを確認した全員は場を制圧するべきか様子を窺う。
広場にいた一人、アウスの姿に恐怖した者が足下にあった石を拾いアウスに向かって投げた。
広場にいたもう一人、ふとポケットの中にあった紙に気付いて生唾を飲む。
大勢が統率も無しに集まった空間。
虐めでは『群れに害なすものと判断された者』が対象となるように、この場では異質な者達が敵とされ的にされる。
一人が投げた石がアウスに当たる直前、ラウリーに逃げろと指示され離れていたシェルヒナがマリアを連れて戻ってきた。
硬い鱗に石が当たりアウスの唸り声が響く、投げた方向に鋭い眼光向ければ怯んで動けない男子生徒が一人。
彼が石を投げたかどうかは確認の術が無い、それに理性がなければそれを確認しなければと脳が働きかけることも無い。
自然界でのルール、やられる前にやるという本能。
「………ッッ、アウスッ!ダメッ……」
マリアの声がその場に響き渡り、エルメが龍化しアウスを押さえつける。
龍の色である程度の強さの序列は決まり、エルメよりアウスの方が序列で言えば上ではある。がそれは理性があって頭脳戦も交えた場合のみ。怒りで我を忘れ猪突猛進になっているアウスを押さえつけるだけならばシザーでも出来ることではある。
エルメが押さえつけたことを確認したマリアは見回しキディをみつけると、ノルマンに警備兵を呼べるだけ呼ぶように伝えて欲しいと言い、その場の生徒達にこの場からの移動を固く禁じた。
ユルは陰からキディの話を聞き、即座にシックスの陣形を変え逃走経路を全て封鎖することを徹底した。
キディも逃走経路の封鎖に動き誰もノルマンのところにいっていない様に見えたが言及しようとしたマリアにキディは「大丈夫」と微笑みながら言った。
その場を公国の者達に任せ、マリアは振り返り生徒達の顔を見た。ウィリエールを見つけた時の絶望はマリアにとって卒業パーティーでの愚行を見つけた時以上のものであった。
「……ウィリエール、この場の代表として私に教えてちょうだい。ここで何があったのか」
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