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2.再開期
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しおりを挟むシザーは決して空を飛ばない。
一度抜けた鱗は治療してもほぼ治ることはなく、シザーの過去のように無理やり鱗を剥がされたとなれば、傷痕もしっかりと残り空を飛ぶ為に龍化するたびに残った鱗が皮膚に刺さり痛みでそれどころではなくなるだろう。
けれどそんなシザーが空を飛び王国に、しかもノルマンに会いに来たのはアウスが王国に来ることを切望し、こともあろうに興奮ゆえか龍化し飛び去ろうとしてしまうという非常事態ゆえ。
色ありのエルメしか対抗が出来ず、その場にいた王国に最短かつ最も時間の掛からぬ方法で行ける者がシザーしか居なかった。
シックスの中でも一際シザーはアウスへの忠誠心が強い。
ユルのようにある程度の年齢の時から共に過ごすようになれば情が湧いて親しくなるのかもしれない。
けれど、シザーは違う。多くの者が見て見ぬふりで過ぎ去った中でアウスだけが過ぎ去らずに手を差し伸べてくれた。行き場も無くなり空もろくに飛ぶことが出来ない役立たずと言われてきたシザーにシックスという居場所もくれた。
シザーにとってアウスに見限られることは死を意味し、アウスが望むことこそがこの世界でもっとも優先されるべきことだと。
ノルマンは空から飛んできたシザーに嫌な顔一つせず応対をした。
アウスが龍化し暴走している為に書面等の正規の手続きが難しかったこと、空から突然で申し訳ないことを謝った上で、アウスの暴走を止める為にアウスが望む『学院への来訪許可』を求めた。
「……良いよ、暴走している龍が落ち着くのなら。ただし理性を取り戻したアウスが王宮に来ることを条件に」
ノルマンは返事をさらっとした後、一枚の書面になにかを書き込みシザーに渡した。
龍となったアウスの元へ急いであげな、と見送ったノルマンにシザーは深く頭を下げて再度龍となり強烈な痛みの中、公国へと飛んだ。
この世界で最も早い者は龍だろう。
地上で早い獣人も障害物だらけでは時間を有するが空には遮蔽物も障害物も無い。ただ一直線に目的地に飛べる、予想より早く到着が可能。だからこそ奴隷だった龍人族は移動手段として使われることも多かった。
奴隷の時代は終わったのだ。
「……はぁ…はぁ、っ。エルメさん貰ってきました」
背中に走る痛みは暴走して押さえつけられているアウスを見れば気にしてなどいられない。
龍人の番に対する異常な執着心、アウスの暴走はまさにそれであることはこの場にいるシザー、エルメ、ネスタには分かっているが、アウスの番に関しては何も知らない。
ただ、アウスの譫言のように言った『王国』『学院』でマリアがいるあの学院だろうと想定を立てて許可を取りに行ったがそもそも間違えていたら今回のシザーの働きは無駄になる。
「…ありがと…って、アウスッ」
エルメが第一段階がクリアできたことに安堵し緩んだ力を振りほどくように黒く大きな巨体が天へと向かい昇り雲に飲み込まれ消えていく。
エルメは大きな溜め息を吐いて、これは直ぐに向かわないとだな。と困った表情を見せシザーに連れ出せる者は向かうように伝えてくれと一言残し、アウスを追って天へと昇って行く。
シザーはとても悩んだが、デフィーネの方へ行きユルに状況を説明しシックス達の動けるものを王国へと向かわせる。
キディやネスタはとても愉しげに王国にあるとある食べ物を買えるかなと旅行気分ではしゃぎながら準備を進める。
ユルは誰も居なくなったことを確認し、地面の影に向かい「行くぞ、御当主の大事だ」と言えば影が微かに揺らいだ気がした。
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