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 マリアが見た今回の学院は想定していたものとズレた方向で歪んでいた。
ラウリー、ウィリエール、メイア達入学してから数ヶ月程度のものたちですらハッキリと決められた貴族位を無視した独自のカースト。
二年児から確固たるカーストへと代わり、弱者と決めつけられレッテルを貼られたものには人権を与えない。残酷で最も現実味のある世界。


 マリアが介入したことで表に出ているある程度が改善したが、根本的な改善は見られなかった。


 とある教室の一つ。
教室は各々大学の講義室のように広く床に設置された長机に動かせる椅子がたくさんあり好きな席に座り授業が出来る。
後ろの扉に近い席に、ラウリーは座っていた。隣にはあの卒業パーティーでラウリーを守ったうちの一人であるシェルヒナだけが座る。
 まだあどけなさの残る一年次でありながら、ラウリーの落ち着き方は大人じみている。


「まだが登校しているわ、早く追い出してよ」


 静かに座るラウリーの後ろからラウリーを『嘘つき』と呼んだ者を通常であれば白い目で見られるべきであるこの場にて、周りにいるものは一切否定も否定的な視線も送らず、肯定的にラウリーの方を蔑視する。
まるで、本当にラウリーが嘘つきであるかのように。


「喋れない聖女、なんて言われているけど喋れずにどうやって加護を頂くの?瞳なんて魔法具でいくらでも偽装できる。さっさと本性だしなさいよ」

「………何も知らないのに、その言い方は失礼ではなくて?ミルワーム嬢」


 前回帰の際では友人として、守りたいと王と王妃に果敢に証言した者同士が争う。
今回もまた友人としてラウリー守ろうとしているシェルヒナとは真逆の道を進むミルワーム。
互いに記憶を有している訳ではないだろう、罪悪感も友人としての自覚もない。見えるは敵意と嫌悪。


「…シェルヒナ嬢、その嘘つきを守りたいと貴女が言えば言うだけ貴女のお家は名を汚していくことをお忘れかしら。
この学院には既にちゃんと誉れを頂いたがいるというのに」



 ラウリーが喋れないのは幼い頃に熱病で喉を酷くやられたことによる後遺症だと数人の医者は言った。
熱病による喉の痛みはまるで沸騰した煮えたぎる水を飲まされるのと同等だと医学書には記載されていたことで、エトワール家の者はラウリーが話せなくなったことにも決して後ろ向きにはならず、ラウリーがとても強く必死に生きているだけだと前向きに変わることなく愛情を注ぎ続けた。

けれど、そんな家族という関係性が無い者たちが集う場でラウリーの前に自分は聖女だと言い回っている者がいたら……弁解も説明も出来ないラウリーは自ら聖女だと名乗ったこともそういった雰囲気でいたことも無いのだけれど、孤立した空間では嘘つきというレッテルを貼られ居場所など失くなっていた。

 そんなラウリーの中でどうしても疑問だったのは、この学院で初めて逢ったはずのシェルヒナがラウリーに率先して話しかけ、何かあれば庇い守ろうと動いてくれること。
どこかで一度でも顔を合わせ、挨拶を交わしていれば覚えているであろう彼女の名前も顔もこの学院に入学するまで知らなかったのだから。


「……例えどれだけの方が嘘つきだと言おうとも、エトワール嬢は一度たりとも聖女を騙ったことも自分が聖女だとも言ったことはない。貴女お得意の『喋れない聖女』なのですから。
これ以上否定的になるのなら、私も動きますので」


 シェルヒナが怒りを露にし言った言葉は、周りの者たちへも釘を刺すには十分だった。
喋っていない、この言葉は多くが知っているはずの情報であるのにいつしかラウリーは嘘つきだと広がり、喋っていないのに嘘つきという矛盾が生まれているのにも気付かず皆でラウリーを嘲笑った。

 ラウリーがこの国中で伯爵位の者であるということも忘れて。

 思い出したかのように、今までの言動を少し青ざめたように辞めた周りにミルワームはひどく不愉快だと言わんばかりの顔をして「今に見てれば良いのよ、断罪は近いのだから」と吐き捨てて普段の定位置である真ん中の席の方へと歩いていった。

 ラウリーはとても申し訳なさそうにシェルヒナに、小さな手紙を渡しとても綺麗な字で『ありがとう、けれど貴女が標的になってしまっては元も子もない。どうか御身を大切にして』と伝えた。


「…大丈夫です、エトワール嬢にはちゃんと味方がいます。もうすぐ絶対に救いに来てくれるはずだから」
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