58 / 116
2.再開期
10
しおりを挟むマリアが見た今回の学院は想定していたものとズレた方向で歪んでいた。
ラウリー、ウィリエール、メイア達入学してから数ヶ月程度のものたちですらハッキリと決められた貴族位を無視した独自のカースト。
二年児から確固たるカーストへと代わり、弱者と決めつけられレッテルを貼られたものには人権を与えない。残酷で最も現実味のある世界。
マリアが介入したことで表に出ているある程度が改善したが、根本的な改善は見られなかった。
とある教室の一つ。
教室は各々大学の講義室のように広く床に設置された長机に動かせる椅子がたくさんあり好きな席に座り授業が出来る。
後ろの扉に近い席に、ラウリーは座っていた。隣にはあの卒業パーティーでラウリーを守ったうちの一人であるシェルヒナだけが座る。
まだあどけなさの残る一年次でありながら、ラウリーの落ち着き方は大人じみている。
「まだ嘘つきが登校しているわ、早く追い出してよ」
静かに座るラウリーの後ろからラウリーを『嘘つき』と呼んだ者を通常であれば白い目で見られるべきであるこの場にて、周りにいるものは一切否定も否定的な視線も送らず、肯定的にラウリーの方を蔑視する。
まるで、本当にラウリーが嘘つきであるかのように。
「喋れない聖女、なんて言われているけど喋れずにどうやって加護を頂くの?瞳なんて魔法具でいくらでも偽装できる。さっさと本性だしなさいよ」
「………何も知らないのに、その言い方は失礼ではなくて?ミルワーム嬢」
前回帰の際では友人として、守りたいと王と王妃に果敢に証言した者同士が争う。
今回もまた友人としてラウリー守ろうとしているシェルヒナとは真逆の道を進むミルワーム。
互いに記憶を有している訳ではないだろう、罪悪感も友人としての自覚もない。見えるは敵意と嫌悪。
「…シェルヒナ嬢、その嘘つきを守りたいと貴女が言えば言うだけ貴女のお家は名を汚していくことをお忘れかしら。
この学院には既にちゃんと誉れを頂いた聖女がいるというのに」
ラウリーが喋れないのは幼い頃に熱病で喉を酷くやられたことによる後遺症だと数人の医者は言った。
熱病による喉の痛みはまるで沸騰した煮えたぎる水を飲まされるのと同等だと医学書には記載されていたことで、エトワール家の者はラウリーが話せなくなったことにも決して後ろ向きにはならず、ラウリーがとても強く必死に生きているだけだと前向きに変わることなく愛情を注ぎ続けた。
けれど、そんな家族という関係性が無い者たちが集う場でラウリーの前に自分は聖女だと言い回っている者がいたら……弁解も説明も出来ないラウリーは自ら聖女だと名乗ったこともそういった雰囲気でいたことも無いのだけれど、孤立した空間では嘘つきというレッテルを貼られ居場所など失くなっていた。
そんなラウリーの中でどうしても疑問だったのは、この学院で初めて逢ったはずのシェルヒナがラウリーに率先して話しかけ、何かあれば庇い守ろうと動いてくれること。
どこかで一度でも顔を合わせ、挨拶を交わしていれば覚えているであろう彼女の名前も顔もこの学院に入学するまで知らなかったのだから。
「……例えどれだけの方が嘘つきだと言おうとも、エトワール嬢は一度たりとも聖女を騙ったことも自分が聖女だとも言ったことはない。貴女お得意の『喋れない聖女』なのですから。
これ以上否定的になるのなら、私も動きますので」
シェルヒナが怒りを露にし言った言葉は、周りの者たちへも釘を刺すには十分だった。
喋っていない、この言葉は多くが知っているはずの情報であるのにいつしかラウリーは嘘つきだと広がり、喋っていないのに嘘つきという矛盾が生まれているのにも気付かず皆でラウリーを嘲笑った。
ラウリーがこの国中で伯爵位の者であるということも忘れて。
思い出したかのように、今までの言動を少し青ざめたように辞めた周りにミルワームはひどく不愉快だと言わんばかりの顔をして「今に見てれば良いのよ、断罪は近いのだから」と吐き捨てて普段の定位置である真ん中の席の方へと歩いていった。
ラウリーはとても申し訳なさそうにシェルヒナに、小さな手紙を渡しとても綺麗な字で『ありがとう、けれど貴女が標的になってしまっては元も子もない。どうか御身を大切にして』と伝えた。
「…大丈夫です、エトワール嬢にはちゃんと味方がいます。もうすぐ絶対に救いに来てくれるはずだから」
1
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説


【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

比べないでください
わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」
「ビクトリアならそんなことは言わない」
前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。
もう、うんざりです。
そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる