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2.再開期
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しおりを挟む王国を中心とし右側に属す公国、帝国。では左側は?と問われると数多くの小国や、王国に吸収されるかどうかの戦いに身を置く国が多い。
そんな小国の一つ、ランブル聖国。宗教的な思想が強いランルという神を信仰するものが集う国。
王国と最も右側諸国で近い国にも関わらず一切の交流もないのには信仰しているランルの教えが原因としてあった。
『弱きは滅び強きが生きる、死は弱きを証明し救いとなる』
弱いものは生き延びれない、弱肉強食の世界では当たり前とされることだがこのランルの教えでは弱き者には死を以て救いとするという考えがある。
つまりは、弱いものは生きる価値は無いと言いきる国なのだ。
王国には奴隷がいる。デクドーの思考ではランルの教えには近いものがあるが、死はそこに無い。弱き者は何をしても良いという考えとはいささか相違が生まれてしまったことで、ランブルと王国には親交が生まれなかった。
そんなランブルの長である男は、アウスに狂信的な感情を向けていた。
龍人族の中でも特出して秀でている黒龍の血を継ぎ、龍の姿で威嚇でもすれば多くの人間の心をへし折るだろう。
強いものが長をするべきという考えのランブルはアウスが当主になってからというもの、なかなかに熱いアピールをしては冷たくあしらわれている。
「……王国と公国が戦争になれば、間違いなく公国が勝つ。黒龍に幻獣種、それに魔物の臓物を食べて生まれたバケモノまで取り揃えた公国に王国の弱い人間は勝てない」
王国や公国でも中々に珍しい鮮やかな赤い色。
キディが赤茶色の髪をしているが、それとはまた違う原色そのもののような色。
ドレッドのように三つ編みで纏められた髪は、夜にも溶け込めぬ異色。
黒い瞳はタトゥーによって染められたもので、元の色は覚えているものも少ないがアルビノと同じ白であった。
百九十を越える高い背丈も、人間らしかぬ強靭な肉体も全てが無意味になるほどに男からしたらアウスは理想そのもの。
「マスカリートとの戦争は早く見積もってもあと数ヵ月は必要だった。だがあまりに早すぎる終結、最小限の犠牲で終わらせたリュドヴィクティーク殿はやはり凄い。
王国の新しい王になりそうだった者は見立て違いで玉座には程遠い。今は公国を追うことが一番楽しそうだ」
…
シザーが王国の学院に足を踏み入れるという異質さ。
突然の来訪者に学院の教員含め全員が戸惑いを隠せない。窓や至るところから人の目が刺さる。
受付で事務員と思われる年配の女性に『王妃様と生徒のエトワール嬢に手紙を渡してくれまいか』と頼むと、なんで私がしなければいけないの?と強く返され、他人と喋ることに秀でていないシザーは、咄嗟に謝罪の言葉を口にし、二人を呼んでほしいと再度頼んだ。
学院の中に素性の知れないものを入れるわけにもいかない事務員の女性は嫌々受話器を取り、指名の二人の名前を電話の向こうの相手に伝える。
シザーは敢えて、自身の身の上を明かさず『郵便の配達』と告げたが、いかにも軍人の見た目の人間がくれば事務員とて信用が中々に生まれない。
生徒が授業中であったことでマリアはすぐに反応を見せた。
使者を連れて受付の辺りに来たマリアはシザーを見るなり「…戦はまだ終わらぬはずでは?」と言葉を漏らし反応したシザーは「すぐに終わります、あの方はもうチェックメイトに繋がる手を知っているようです」とゲームに負けた子供のような悔しいけれど楽しそうな表情を見せた。
手紙をマリアに手渡しした際、手紙の封を見たマリアがひどく悲しそうにしたのをシザーは見逃さなかったが何がそうさせるのかわからなかったから敢えて触れなかった。
けれどマリアの方からシザーの持つもう一通の手紙についての質問をする。
「それはもしかしてエトワール嬢に?」
シザーは驚いたように、そうですが何故ご存じで?と訊くがマリアは答えずに「アウスが知れば怒るでしょうね」と目線を下げて表情を曇らせた。
「……手紙は私が預り、必ず渡すとお約束するわ。だから、貴方はアウスの元に行き伝えてほしいの。『彼女はまだ人ではない』と………」
シザーには言葉の意味がわからなかった。
あり得ないほどに悲しい意味があること位は理解できても、言葉にするには難しすぎる。
わかりました、と言い残しシザーは公国への帰路へと着いたが、どれだけの時間があってもマリアの悲しい顔だけは、拭える気がしなかった。
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