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2.再開期
05
しおりを挟むメフィーナ・アンテ・シシリア。
王国内でラウリーと同じ位、シシリア伯爵家の三女として生まれた。
王国では今でも厳しい中ではあるが、昔は今以上に伯爵位までいく貴族は少なく、本当に何かしらの功績を積んだ実績がなければ地位は得られなかった。
シシリア家が最も力を入れていた事業こそ『奴隷売買』
王デクドーにも奴隷を売れるほどの仲介まで出来る奴隷売買の要になった人物でもある。
そんな家の三女として、日の目を浴びる事なく過ごしていたメフィーナは姉妹達のなかでも特出して勉学に興味を持った。本の虫となり、一日中本を読んで過ごすほどであった。
父から娘として、ではない視線を受け始めてからは強い違和感を覚えつつも気にしなければ何も変わらない日常があると信じて疑わなかった。
たった一回、父親が寝室へやってきたとき拒否さえしなければ。
競売にかけられ、一番目に買った貴族はメフィーナを馬小屋に置いた。掃除から始まり、食事もまともに与えぬまま衣服を用意せず繋がれた馬小屋で酷いことも受けてきた。
逃げようと思っていたのは買われてから一週間程度だろう、気付けば失態でも犯せば息の根を止めてはくれないだろうかと考えるようになっていた。
馬が天寿を全うしたことで新しい馬の調達の小遣い稼ぎとして売り飛ばされ、買われた二番目の家では主人の趣向でとある部屋の壁に繋がれた。
本当に言葉に出来ぬ程の恐怖がそこにはあった。
『拷問』が何よりの趣向で、断末魔を聴くことで幸福に満たされる思考の主人は多くの残虐行為を行った。
それらが非人道的だと非難されなかったのは、奴隷が当たり前に存在し奴隷には人権がなかったからであろう。
例えどんなことをされても叫ばない、を貫き通したことで面白くないと捨てられ競売にかけられた。
最後となる三番目の家は、メフィーナが生まれ育ったシシリア家であった。
それまでの七年以上、人以下としてありとあらゆる屈辱を受けてきたメフィーナにとって、父親にそういった目的で扱われることも諦めて受け入れられるようにすらなっていた。
姉や妹達には『生き方を間違えたのよ』『強者に媚びへつらい、弱者を踏みにじることこそ生き永らえる』と言われた。
姉妹達も父親から酷く手を出されてきたが、拒否をしたメフィーナがいたからこそ恐怖で縛られ、父からの嫌がらせのストレスを買った男達で晴らす他手段がなかったのだろう。
一年と半年程たった頃、リュドヴィクティーク家を含めた奴隷の主な種族であった人間種以外の者達が結束して反旗を翻し、戦いを始めた。
多くの奴隷を解放し、奴隷だった者達を虐げる多くの障害を排除して見せた。
その一つとして、奴隷売買業で最も力を持つ一家であったシシリア家の陥落は必須だった。
颯爽と空から現れ、銃を持つ警備隊をなぎ払い、メフィーナの父の首を掲げ自由を宣誓した時の音は忘れられない。
アウスの母は、シシリア家に繋がれた全ての奴隷の状態を見て息がある者動けるものを優先して手を差し伸べた。
もう動けず、息も弱るものにはこれからの動きを言い望んだ方法で……
そんな中で、メフィーナは姉妹達が繋いだ男達を外へ連れ出し治療をしてほしいとリュドヴィクティーク夫妻に懇願した。
新しい名前には、元の名前が多く残っている。それは決して彼らを苦しめ続けたシシリア家の血を不可抗力にも継いでしまった者としての責務を果たすための戒め。
「………ィー?メフィー?寝ているの?」
重い瞼を開けてみれば外は明るく、薄く囲んでいるカーテンの中からでも昼間になっていることか見えた。
声の主はフェイで、明日ダリオが帰ってくるよ、手紙が来ていた。と優しく告げて、帰ってきたら話をしてね。と深く語らずに仕事に戻っていった。
夫達は皆、メフィーがここまで不安になる原因が知りたいと詰め寄った。答えが貰える、貰えないは二の次で心配していることを最大にアピールしてみせた。
メフィーは全員が集まったらと話をそらしたが全員が納得しているわけではなかった。
嫌な夢をみてしまったと苦虫を噛み潰したような顔をしていたメフィーの元に手紙が届いたことを知らせる使用人の姿。
ありがとうと受け取ったものの送り主はまだ戦場にいるはずのアウスからで、あの花が付けられた封筒が酷く重く感じる手紙であった。
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