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2.再開期
03
しおりを挟む生徒との個人面談。
教師であれば違和感なく出来るであろう一対一の空間が、王妃と一貴族の子息令嬢となれば萎縮しか生まれないはずであった。
マリアは萎縮する生徒であっても決して言葉を間違えることのないよう神経を最大に使った。
留年した生徒にはした理由を聞き、格差による虐めで進級を諦めざるをえなかった者には躊躇い無く頭を下げた。
虐めをしているような上流階級のものでも王妃という立場に臆せぬ者には知恵を貸し、階級を見て態度を変える者には強く出た。
一年次から順にであった為にウィリエールと顔を合わせるのも早かった。
「母上、今まで手付かずの場所に手を出すのは多くの貴族の反感を買い足元を掬われます」
ウィリエールの言動は王位継承の候補にもならなかったという事実をもってしてもデクドーと同じように余裕がありまさに不屈の精神ともいえた。
昔の回帰前であればそんなウィリエールに強く出れずデクドーの影を見ては怯えていたけれど、今はもう。
「……その発言は少なくとも現王の息子としては恥ずべきものでしょう。なんのための国で、なんの為の学院なのか……貴方は履き違えているのよ、ウィリエール」
ウィリエールはその後話すこと無く面談室を出ていった。
その出ていく様でさえデクドーに似ていて、背筋に嫌な汗が流れていくのを感じていた。
ウィリエールの次に呼ばれた者の名前が『メイア』であると知った時、何故だかマリアも背筋が伸びる感覚であった。
前回のメイアは幼稚そのもの、子供の癇癪のように騒ぎ立て最後まで敵として存在していた。今回が果たしてどの立場なのか。
「ご機嫌麗しゅう、アンヒス家次女メイアと申します………無礼を承知で伺います、王妃様は回帰者ですか」
メイアの姿は前回とはうって代わり、質素、清純の言葉がよく似合う。これが計算ずくしだとしたら素晴らしいものだと思うが、メイアは回帰者とハッキリと言ったことでマリアの疑問は少し緩んだ。
「…ということは、貴女は憑依者?」
「………いえ、彼女は元の世界に戻りました。ギルティア様に全てを聞いて、自分でも別の世界でこの世界を客観的に見て来ました。
前回しかり、私がどれだけ愚かな子供であったかを知り、更にはその世界に戻ってきたとなれば繰り返すわけには行くまいと…そう思って」
メイアの話によれば、前回メイアに憑依していた者は別の世界で笹野知奈という名前で魂が交換されたようにメイアの魂は彼女の身体に居たらしい。
魔法や人外、異形種が存在しない世界。
スマホというなんでも出来る機械を一人一つは持ち歩くという慣れない事を学んだが、憎悪や嫌悪のような負の感情はどの世界でも溢れていて潰し合いなどがスマホのせいで表面下に出ず潜むのは此方の世界より多かったと感じたと。
「この世界を本として読みました。多くのハッピーエンドの物語を読みましたがこの本は異質でした。
主人公は皇太子殿下という記載は何処にもないのに最終的なハッピーエンドは皇太子殿下の目線。
決して描かれることのなかったこの世界の三大柱の一角。
……それに皇太子殿下の出生は物語では描かれていないのにギルティア様は教えてくれた。
それに、本の最後の文章は………」
メイアは違う世界で見たものを記憶していた。
本来この本での主人公はメイアとして書かれていたのに、後半からウィリエール視点が増え、最後はメイアすら断罪される。
ギルティアがメイアも命からがら助かったと言っていたが、晒し首になっただけで命はそこには無かった。
同じ未来をもう歩みたくない一心でメイアはウィリエールとの出会いのシーンで拾うはずのハンカチを別の人に託した。修正が入ればもう諦めるつもりでいたけれど、入ること無く今まで一線を越えることもなかった。
「……まだ、全員が目覚めるまでに時間がある。今度こそ、皆が笑える世界にしたいの。メイア嬢、助力願えないかしら」
メイアはマリアの話を聞いて、必ずやお役に立ってみせます。と頭を深々と下げた。それには今までの愚行と入れ替わっていた彼女に代わる謝罪も込めて。
この後に来るラウリーやセンガルの夫のように知っている者達にもちゃんと伝えられるようにマリアは深く深呼吸をした。
「再出発は必ず意味のあるものに」
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