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2.再開期
01
しおりを挟む永い夢を見ていたようだ。
慌ただしく走るメイドや貴族達の愛想笑いの音が響く。
あの卒業パーティーの会場とは比にならないほど大きく広い会場にいる者のすべての視線が刺さるように集中する。
豪華絢爛でなければならない、そう言われ着飾っていたドレスも重くて足が動かない。きらびやかな宝石は光の屈折で輝くようにと大きさもスパンコールのように小さいものではなく、存在感がある大きなもの。
全て、自分達ではない過去のものたちが栄華を誇るための飾りにしか過ぎないと言うのに。
……記憶が戻った。
喜ばしい出来事ではあるものの、思い出したタイミングが些か良くない。学院に入学したウィリエールを祝うというなんとも無意味なパーティー会場、来賓がマリアやノルマンに挨拶をしている真っ最中。
過度に流れてくる『今までの情報』記憶通りであればこのパーティーで長老の面々が次期王は誰かを訊く。その質問にウィリエールと答えることで、ウィリエールは愚かになるのはもちろんのこと、マリアの苦しみは更に増えることになる。
堪えようにもじわじわと溜まる涙を溢さぬようにしていると、ノルマンはマリアの前に立ち「すまない、王妃が気分が優れぬようで休ませて頂きたい。私は後程戻るゆえ楽しんでいてくれ」とその場を離れる口実を作り、更には決して顔を見られぬように会場から出るまで隠していてくれた。
休憩室ではなく王妃の部屋まで丁寧に送り、ゆっくり休むと良いと言い離れていこうとしたノルマンの腕を引きマリアは自身の部屋にノルマンを連れ込んだ。
マリアはノルマンの記憶がどの程度あるのか、わからなかった。
何かでスカビオサの花のマークは無かったか、マリアは脳をフル回転させて思い出すまでの時間を辿ったけれど思い出せる限りでノルマンはまだ思い出せていない。
「………の、ノルマンッ、きっと困らせてしまうだけかもしれないけれど、私ね……私、ウィリエールを王には出来ないと思うの。
それに……学院も……内部調査を……それと………長老たちに……」
マリアも馬鹿ではない。突拍子も無いことを言っている自覚もある。それでも言わなければならない気がしてしまっては声は気持ちとは裏腹に溢れてしまう。
もう、ラウリーのような子を生んではいけない。腐りきった王国を建て直せるのなら…
ノルマンはマリアの言葉を聞き返すこと無く、うんうんと頷きつつ全て聴き終えたら「わかった、そうしよう」と微笑んだ。
マリアからしたら、いつだって全肯定のノルマンの意思はちゃんとそこにあるのかわからなかった。
いつだって、ノルマンの本当の心はわからなかった。
一目惚れしたと近付いて来た時からずっと、何十年、繰り返される中も合わせればもう数えきれない程の時間を過ごしても尚わからない。
どうして、なんの躊躇いもなくいいよと言えるのか。そして何も聞き返さないのか。
「……ノルマン、私は貴方がわからない。ウィリエールが私と貴方の子でないとしても貴方は『私たちの子』と言う。それなのに王には出来ないと言えば聞き返すこともなく『わかった』と……貴方の本心はどこにあるの」
マリアの言葉をノルマンは絶対に遮らない。
あの卒業パーティーで、ウィリエールにノルマンは兄だと告げたあの時にマリアですら初めて荒ぶる姿を見たくらいで。それもマリアの心を守るためと言われればとても、美談になりそうな。
「………マリアが望むなら。俺はどんな世界だって良い。マリアが俺の傍にいて笑ってくれる未来があるのなら息子を蹴落とすことも父の命を奪うことも厭わないんだ。
マリアには望むことをして欲しい、皇后という権限を使い自由にやりたいようにして欲しい、それを否定する者がいるのならその首を君に差し出そう。
安心して。もう二度とマリアが苦しむ結果にはしないから」
ノルマンの真っ直ぐすぎた言葉はマリアには嬉しいものではなかった。
けれど、その言葉に記憶があってもなくてもノルマンはマリアの味方であることを強く伝えていることだけは理解できた。
ならば………
「…ノルマン、私今までの罪を清算しようと思うの。手伝ってくれないかしら」
ノルマンは柔らかな笑顔をマリアに向けた。
「わかった、君が望むのならいくらでも」
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