龍人の愛する番は喋らない

安馬川 隠

文字の大きさ
上 下
47 / 116
1.回帰

47

しおりを挟む

 ギルティアは、ルドゥムーンから託された祝福の証をアウスをはじめとした四人に渡した。


「君たちの誰かが祝福により、軌道を変えてくれるかもしれない。これは私たちの我儘なのだが、リリアリーティ……彼女を幸せにしてくれ。助けてと彼女が手を伸ばせる存在に、君たちが」


 アウスやセンガルたちは、理解が全て追い付いたかと聞かれれば半分も理解できていなかった。けれど、自分達が出来ることはここから先には無いことだけは強く理解できた。


「……ギルティア様、メイアの中にいる別の人はどうなるのです?元の世界に還ることは可能なのですか」

「…どうだろうね、彼女がどの世界から来てその世界でだうなったことで空白の魂になったのかもわからない。この世界ではウィリエールを早くから手駒とすることで主導権を握り、ラウリーが戻ってくる未来を消そうとしたり…ウィリエールに想いが強いことは見えていた…この世界を本として読んだことがあるのは確かだろうから、元に戻れれば僥倖だね」


 訊ける時間は今しか無い、強くそう思えば頭をフル回転させて訊ける内にと焦りも生まれる。
『ラウリーはどうなりますか』『リリアリーティはもうこの世には居ないのですか』『ウィリエールは止められるんですか』『この世界のルールはなんですか』『何をすれば修正が入ろうとするのですか』……考え始めれば留まらず、声にならぬまま頭の中をグルグルとする。


「……もうそろそろ、強い眠気が来るだろうから身を任せればリセットが入る。物語上、誰がどう何時のタイミングで祝福で目覚めるかわからないし、本当に目覚められるかはわからない。けれど、誰かが変えてあげて。
……メイア、君は私と共に還るべきところへ行こう」


 ギルティアの力はセンガル、アウスたちには理解できもしない非現実的であまりにも強すぎた。
メイアが嫌だと騒いで暴れようとした瞬間、意識を飛ばすように倒れるのだから、何をどうしたことでメイアがこうなったのか……訊けるような場でも無い。



 ギルティアの願いは一つ一つ声として落ちる。

 ノルマンにはマリアを幸せにしてあげてほしい。デクドーによって潰された本来あるべき未来を創り出すことは現実的に難しいと。それでもノルマンだけはマリアを見捨てることがないようにと。

 マリアには諦めないでいてほしい。物語の性質上過去は一文程度、こうであったとしか語られずスタート地点からでしかギルティアたちも干渉が出来ない。だからこそ、今度だけはノルマンと手を取って笑ってほしいと。


 センガルには決別してほしい。復讐心は悪ではない、それによって生きる糧になるものも多く居るからこそ否定はしないが、シシリア家そして王国を憎む心に侵食され周りを見れなくなってしまっては君をセンガルと呼ばぬ者たちに顔を向けられまい。次こそは彼らを見てあげてと。


 アウスにはラウリーを託すと。リリアリーティとの過去はラウリーには何一つ関連性は無い。時があまりに流れすぎた、誰も何も保てぬほどに無情な時間が過ぎて今になっている。だけど、彼女は自己犠牲で他人の幸せを優先してしまう癖がある。これは昔から変わらない、だから……君がラウリーから「助けて」と言われる人であれと。


 眠気が少しずつ、増えていく。
ふわふわと意識が遠退いていく気がする。


「……マリア、ノルマン、アウス。もし、誰が最初に目覚めるか、わからないのだとしたら……何かのマークでもスカビオサの花をモチーフにしてくれない?私が知ってる花がそれくらいだから……」


 スカビオサの花、華奢な茎に繊細な花びら。 だけど芯は、とてもつよい。 スカビオサがもつやさしさと強さがあり花言葉は『再出発』
この花はセンガルが奴隷から抜け出し新しく帝国を作ると決めた時に夫たちが用意した花束にいた花。ここからもう一度と、心に決めた時必ずこの花をと決めていた。


 マリアはノルマンに寄りかかるように端に座り瞳を閉じた。
センガルも既に眠っている夫の元へ行き眠り。
アウスは会場全体を見回して、全員の顔を確認する。

 そしてギルティアに「また、会いましょう」と挨拶をし、深く沈むような眠気に身を任せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

比べないでください

わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」 「ビクトリアならそんなことは言わない」  前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。  もう、うんざりです。  そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……  

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

処理中です...