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1.回帰
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しおりを挟むこの世界の三大柱。
妖精王ルドゥムーンを含む三人の神に等しい存在の一角。
卒業パーティーに参加する一人を除いてすべての者を支配することのできる絶対的な者。
少年の姿のその人を、センガルは「ギルティア様」とそう呼んだ。その言葉でたった一人、支配されなかったメイアだけがその存在の正体を理解した。
この物語のプロローグに描かれた始まりの物語。
万物に愛されたリリアリーティと呼ばれる天使とその隣で彼女と同じ指輪を薬指に嵌めるギルティアと呼ばれる人が共に並んでまだ王国になる前の自然の中を歩くシーンからスタートする。
リリアリーティと多くの者の前で宣誓する。
「今ここに建国を宣誓する、王となるは……」
「……ぎ、ギルティア・ルドゥビルボーデン=ヘイム…」
メイアの言葉に少年はとても驚いた表情を向けた。
久方ぶりにその名前で呼ばれたな、と苦い笑顔をしたが、すぐに表情を直しメイアに向き合った。
「君はこの世界の住人ではないね、ずっと異質だとは思っていたけれど人格がある以上は想定外の動きは許容しなければならなくてね。
君がこの世界の住人ではないことを知る必要があった。
龍の子のお陰で、君がこの世界をある程度把握した『憑依者』であることがわかった。
教えてほしい、君はどのルートに行こうとしていたのかを」
アウスを含めた者たちはギルティアの言葉の意味がわからなかった。理解の範疇を越えたことを理解できる脳は持ち合わせてなどいない。
少年の口から出る言葉のどれもが非現実的すぎて、メイアとギルティアの会話を聞き漏らさないようにすることに必死であった。
「……そうか、君はあの子の正体を知った上で。であれば彼女の命を消すことが君にとっての勝利条件だったんだね」
「ッ、え、えぇ。この物語の主人公は紛れもなく私とウィリエール様の二人よ。彼女は絶対的な悪でならないといけないのに……あの物語の結末はそうではなかった。それを知ったからには、私は私を守らないとッ!」
口を挟めるような状態ではない。理解できる状態でもない。
卒業パーティーが今だかつて無い状況であること以外の感想はだれも思い付きはしなかった。
ギルティアはメイアとの会話をある程度把握するととても深いため息をついた。
そして、首もとにある鈴を鳴らすとパーティー会場にいるアウス、センガル、メイア、マリア、ノイマン以外のすべての者の意識を失くし静寂を更に深いものに変えて見せた。
「…さて、此処からは私の仕事をしなくてはならないね。
ここに来たのはこの物語がここで終焉を迎えるからだ。その後の物語は『こうして二人は幸せに暮らしましたとさ』で締め括られた後に語られることはない。
ただ、この物語の制作者はこの後を少しだけ描いてみせたらしいが……ここから先は勝手に我々が作ることは許されていない」
ギルティアの言葉にやはり理解できず、センガルはではこれから我々はどうなるのです?と聞けば全てを始まりに、リセットされる。と淡々と答えた。
リセットとは、と声を出したのはマリアで、ギルティアはその言葉に優しくあやすような口調で「本は読み終わればまた最初にループで戻るだろう?」と答えた。
理解できたリセットが行われれば、ラウリーが奴隷としての日々を無かったことに出来る。
ウィリエールがメイアとしてきたことが無かったことになる。
アウスがやっと得たこの気持ちすら、失ったまま戻ってくることすらなくなるということ。
「………それは必ずしも行わなければならないことですか」
アウスの言葉にギルティアはとても悲しそうにそうだね、と答え逆らった代償がこの世界だからね。もう失態は犯せないんだ。と言った。
意味がわからなかったアウスは代償さえあればこのまま続けられるのですか、であれば俺の命を捧げれば…と言ったがギルティアは宥めるように無理だよ。と断言した。
「…守ろうとしてしまったんだ、だから君がここに来た」
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