龍人の愛する番は喋らない

安馬川 隠

文字の大きさ
上 下
42 / 116
1.回帰

42

しおりを挟む

 卒業パーティの会場とは思えない、ウィリエールの弁明の声が響く場。
四方豪華絢爛な空間で、彼女たちの勇気はアウスやセンガルの背中を押し心の闘志を更に燃え上がらせた。

 流石に頭を抱えるしかなくなった国王皇后両陛下は、言い訳の為に口を開き続けるウィリエールの口を閉ざすように指示を出し天を見上げ深く大きなため息をついた。


 国王皇后両陛下からしたら、自分達の息子が跡取りとなるための社会勉強も含めた大きな学院という土地で学び成長することを切に願っていた。
望んでいたのはこんな断罪パーティーではない。

 皇后は震える声で息子に問う。

「貴方は何をこの学院で学んだのですか」




 皇后陛下、マリア・レ・テシリアはテシリア家の長女で、ブロンドの髪を長く伸ばし流行の前髪や髪型をせず常に纏めて冷酷と呼ばれ続けた女性。
教学に秀でていて、いつも本を手に持ち学生時代は友人と喋るより本を読んで静かに過ごすことを好んでいた。

 十三歳、進学した学院でノルマンと同級になり、ノルマンの一目惚れで常にアピールされ追われていたが、それまでの学生時代を誰かと過ごすことをしてこなかったマリアにはその明るさ、会話をしようと追ってくるノルマンが理解できず怖さすらあった。

 ノルマンが王族だと理解した上で、愛の告白を断り続けた。ノルマンは諦めず、何度も何度も告白をし続けた。

「貴方が言うように私が好きだと言い続け、私が折れもし結婚したら私は王族に入ることになる。いつか生まれてくる子がその王権争いに入り、平穏など何処にもなくなる。子が貴方に似れば良いかもしれないけれど、私に似れば王の器ではなくなる」

 ふと、告白を断りつつマリアの言った言葉にノルマンは悪意なく「そこまで俺との未来を考えてくれているなんて嬉しい。諦める気はないからね」と笑ったことでマリアはそれまで四年の間逃げていたことを諦めるようにその告白を受け入れることを決めた。
 マリアとノルマンの間に生まれる子が、どちらに似ようともきっとノルマンとなら大丈夫だと信じていた。


 十七歳で王宮入りしたマリアには今日に至るまでまさに地獄のような時間だった。
婚姻は交わしたものの、ノルマンの王権争いに巻き込まれて立場は安定しない現実。そして、ノルマンの父である先代国王デクドーからの執拗な嫌がらせ。

 二十三歳で子を、ウィリエールを身籠ったマリアは自身の子を喜べなかった。絶対に、喜んではならなかった。
ノルマンは例えどんな理由があっても『俺たちの子』と言い張ったが、マリアは……マリアだけはその言葉すら辛かった。

 だからこそ、マリアは絶対に悪夢を繰り返さぬよう必死になった。
エトワール家に産まれた子が聖女の現れだと言われ、ノルマンがエトワール家当主オズモンドと学友であった繋がりがあった故に王座に就いた。たったそれだけの理由。
 すぐにでも壊れる儚い玉座にノルマンもマリアも一時たりとも油断したことはない。
息子であるウィリエールには安定した未来を、約束したかった。


 まさか自分たちの目が入らない学院という場で。
ウィリエールがノルマン、マリアに似てもにつかぬデクドーと瓜二つの容姿で性格で独裁国家を立ち上げていたなんて。


「……答えなさいウィリエール、貴方はこの学院で何を学んだのです?人を陥れる方法?人を蹴落とし登り詰める方法?自分より弱く守らねばならない人を踏みにじり嘲り笑う方法?………貴方が先代国王に似ていること、私はずっと憎くて愛せずにいた。ノルマンがどうであろうと我々の子だと言い続けてくれたからこそ諦めずにいれた。けれど、私にはもうその責を負えるだけの覚悟はないのです」


 誰も声をあげられない、豪華絢爛なホール内。
国王であるノルマンの周りのものが聞いたことも無い怒号が響く中、マリアはウィリエールに対し「……貴方はであるノルマンをどれだけ踏みにじれば気が済みますか」と冷たい言葉で告げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

欲に負けた婚約者は代償を払う

京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。 そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。 「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」 気が付くと私はゼン先生の前にいた。 起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。 「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」

処理中です...