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1.回帰
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しおりを挟むアウスの笑顔は多くの者の心臓を恐怖で鷲掴みにした。アウスとセンガルの予定が全て、順調に動いている。
「そんなはずない」その言葉の意味は、その時その場にいた関係者以外が口から出ることはないのだから。
二階の来賓たちには見えない、卒業生たちの中からでも憎い顔はすぐに見つけられる。
真っ赤な顔をして怒りを顕にし、こちらを睨み付ける。
会いたかった、アンヒス家令嬢。
ズンズンッと無礼であることも無視し、ウィリエールの元に来たアンヒス嬢に王や皇后も流石に眉を潜める。彼女は誰だ、そんな声も来賓からちらほらと聞こえはじめる。
センガルは、煽ったところで出てこないはずよ。と計画を練っている時に言ったがアウスが出てくると断言した気持ちがわかるほどに、初めて合わせた顔なのに幼稚さが嫌でもわかる。着飾った姿は派手を追求しすぎて五月蝿さすらある。
「…人外風情がッ!!嘘つくんじゃないッ!!」
アンヒス男爵家の令嬢が公国公主に敬意もなく罵声を浴びせる姿は流石の王達も開いた口が塞がらない。
「あの女は何様のつもりだ」と来賓席がざわつき始めてやっと、アンヒス嬢は自分の発言がしてはいけなかったものだったことに気付いてウィリエールにすがり付く。
「……ウィリエール、どういうことか説明を」
王も黙り込むことが得策ではないと声を上げたが、アンヒス嬢が怒りのままに侮辱の言葉を浴びせたばかり。何を言っても言い訳にしかならないことを頭の回るウィリエールは理解して黙るしかない。
小さくアンヒス嬢にだけ「黙っていろ」そう言えば、爽やかな表情で「父上。何かの手違いや勘違いがあったのでしょう。私には公主殿が何を仰っているのかわかりかねることです」と胸を張って言いきった。
ここまでの清々しい知らんぷりは中々見れないと、センガルやアウスは声を上げて笑った。
そして全て否定したことを、確認した上で「証拠を見せてやろうか」と微笑みポケットからルドゥムーンから貰ったあの石を掌に乗せ、龍人の力で石を握り割った。
アウスやセンガルが見た光景がホールを包むように再生される。
この石がルドゥムーンの王国に対する復讐だと、気付いた時。これをこの場所で割り記憶を全員に見せることもひとつの為さねばならない計画になった。
「ラウリー、お前は愚かで人間以下の塵のようだ。何故塵が俺の婚約者なのか理解が出来ないとは思わないか?明日、お前は断罪される。可愛いメイアを著しく虐げたとしてな。必ず来るように、命令だ」
「ラウリー・デュ・カルデラ・エトワール、お前との婚約をこの場にて解消する。
理由は、俺の愛した健気なアンヒス嬢を侮辱し貶めた挙げ句、命を狙ったからだ。
卑怯で陰湿で、聖女の様なことを言われているがとんだホラ吹きも居たものだ。
罪の重さから、貴族位を剥奪の上で奴隷の紋でも刻み国外追放だ」
所々で女生徒の悲鳴がホールに響き、来賓も流石に許容範囲を越えた情報に何も言えずにただ広がった世界を見ているだけ。
王や皇后が「偽りの幻影」と言えなかったのは、この力がこの世界の三大柱になっている一つ妖精王の力であることを知っているから。
知らぬはずが無い、ラウリーが妖精王ルドゥムーンのたった一人の娘リリアリーティの生まれ変わりであり、リリアリーティもまた自身の記憶を石として他者に共有出来る能力を持っていることを知っていたから。
けれど偽りだと思う者が居ないというわけではなかった。
「こんなものッ!!人外ならいくらでも捏造できるッ!!」
アンヒス嬢、ウィリエールはこれが偽造されたものだと騒ぎ立て、記憶の映像でラウリーを押さえつけていたウィリエールの愛人達は自らの命や家族の地位がこれによって脅かされることに絶望しその場に尻餅をつく。
「……この映像は本物です、私はその全てを見ていたので証言できます」
「……私も彼女と共にこの映像が本物であると提言します」
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