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1.回帰
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しおりを挟む意識が覚醒した場所はアウスには馴染みのない見たこともない場所。ただ豪華絢爛に飾りが施されすれ違う者たちのデザインされた制服は王国のものと推定できた。
何故石を掴むだけで王国の学校だろう場所に来たのか、と辺りを見回して状況整理をしているとふと女生徒が三人で歩いているのが視界に入り逸らせなくなった。
優しい笑顔で両隣にいる友人であろう者たちに微笑みながら歩いている出逢った頃と比べ物にならないほど綺麗で美しくまさに妖精のような容姿。
腰の辺りまで伸びた艶のある黒髪は風に靡き、学院の靴を履いているからこそ比較が出来るが両隣の二人より頭一つ分は抜けて高い背の高さ。
それが奴隷となる前のラウリーの姿だと、この世界を映す両方の瞳が教えてくれた。
「本で読んだのですが、公国の公主様は黒龍の血を引くそうで。黒龍は龍人族の中でも一際力が長けているそうですね」
「戦が起これば一溜りも無いでしょうね、恐ろしい」
「……そうなのかも知れませんね、ただミルワール嬢、シェルヒナ嬢。覚えていて欲しいのです。どんな情報にも言えますが『嘘』があることを。
リュド公国の公主様は黒龍であり、奴隷解放の英雄となられた方のご子息ですが、奴隷解放の英雄の子供が同思想とは限らない。自らの目で見たことを信じるべきですからあまり噂を信じすぎぬよう」
初めて聴いたラウリーの声。優しく柔らかく静かにそして穏やかに流れる川のように澄んだ声。
友人たちがそうですね、惑わされぬよう努めますと笑顔を見せた時それは現れる。
「ウィリエール様がお呼びです」
この言葉は三人から笑顔を奪い、ラウリーは大丈夫だから先に行っていてくださいと二人に告げると二人は俯き悔しそうにわかりましたと離れていった。
ラウリーが連れていかれた場所は空き教室だろうか。
「…毎回のことながら愚図で鈍間ね、さっさとそこに跪きなさいよ」
傲慢な言葉を発しているのは子どもっぽさが残る女生徒。話に聴いていたメイアというのはこの者の事だろうと瞬時に理解できるほどに幼稚な思想と我儘で傍若無人な態度。
頷くタイミングが遅いと打たれ、返事を求めてないのに喋ったと蹴られ、後ろでメイアとラウリーを見ていた男が動くまでそれはもう虐めと言える空間に怒りが募るばかり。
ラウリーの頬が赤く腫れ始めた頃、ウィリエールが動き出しメイアを後ろから抱き締めながら跪き打たれたラウリーを見下し「汚いな」と嗤った時、アウスはこれが現実ではないとわかっていてもウィリエールの喉元に腕が伸びていた。
「ラウリー、お前は愚かで人間以下の塵のようだ。何故塵が俺の婚約者なのか理解が出来ないとは思わないか?明日、お前は断罪される。可愛いメイアを著しく虐げたとしてな。必ず来るように、命令だ」
瞬きをした瞬間にアウスの視界は変わり、神の像が立つ教会のような空間にいた。王国では聖女を信仰しているだけあって神への信仰心は高いのかもしれないが、そんなことはどうでも良い。
神の乗る台に座るは、メイアとウィリエール。
今まで出てきたことも見たことも無い女生徒が三人がかりで抵抗一つでしないラウリーを抑え込んでいる。
先ほど見た空間で言っていた『断罪』がこの場所て行われているのが見てとれた。
「ラウリー・デュ・カルデラ・エトワール、お前との婚約をこの場にて解消する。
理由は、俺の愛した健気なアンヒス嬢を侮辱し貶めた挙げ句、命を狙ったからだ。
卑怯で陰湿で、聖女の様なことを言われているがとんだホラ吹きも居たものだ。
罪の重さから、貴族位を剥奪の上で奴隷の紋でも刻み国外追放だ」
まるで予めこうすると決めていたのだろう。
熱せられた奴隷の刻印を愉しげに持ち、ラウリーの額に押し当てるメイアとそれを嬉しそうに嗤いながら見ているウィリエールはラウリーの悲鳴も相まってさながら悪魔だった。
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