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1.回帰
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しおりを挟むリュド公国とラスティート帝国の境に大きく存在する森。
龍であるアウスが上から見た時、外側から内側にかけて強く濃くなる霧に覆われた場所。まっすぐに入り歩いていても入った場所と同じ場所に出てしまうことから迷いの森とさえ言われるその森は、妖精が身を清めるためにあることをアウスとセンガルは知っていた。
妖精の家である森は例えどんな理由があろうとも、決して害することがないよう帝公両国安寧立法によって伐採も禁じられている。
『可愛い我が子が人間に虐げられている、と?』
霧の奥深く、多くの妖精の光に包まれた泉の真ん中。小さな人一人分の足場にするには心許ない浮き島に立つ者は周りの妖精と会話をする。
優しい風が吹き、時に瞬間的に光が翳る。まるで感情を表すようにコロコロと変わる景色は人間であれば不安を覚えるほどであろう。
『我が子の御霊は幾度苦しめられれば赦されるのだ、彼の御方は未だ……』
苦しそうに下を向く者に光が寄る。
緑のまるで蔦のように長くしなやかに伸びる髪、細く枝のように長き四肢、身長は百八十を越えるほどの高身長、淡く白みがかった蒼い瞳、薄い唇は仄かに紅に染まり鈴蘭のような綺麗さがあるその者は、光に目を向け耳を傾ける。
『……ほう。連れて帰ってくる、と。この場所が我が子にとって癒しになるとは限らんのだぞ?苦しめては…ん?い、いや…はぁ分かった、我が子に会いたいのは俺も同じだ』
柔らかな光は嬉しそうに飛び回り天高くへと昇っていく。
周りの光りも嬉しいのかくるくると動き回っては楽しそうにしている。
妖精にとって、王国は絶対的な悪である。
我が子を独占するだけには飽きたらず何百年と、輪廻転生を繰り返させる呪いを植え付けた。
公国、帝国がこの妖精の泉を中心とした森の加護によってある程度の瘴気から守って貰えるのに対し王国にはその術がなかった。
たった一人の子を聖女として奉り立て、祈りという力を持って力ずくで国力にしたのは人からすれば画期的であり妖精たちからしたら絶望的であった。
『帰ってきたら癒せると良いのだが……』
…
公主邸は大騒ぎであった。
メイド長であるデフィーネに呼び出されたラムルと一時的に交代をしたルイカとファルメの二人がおやつを置いた庭のガゼボの中にラウリーを一人にし、忙しいからと自分の仕事に行き数十分放置し戻ってきた時には居なくなっていた。
ちょっとしたラウリーの嫌がらせだと、忙しさから苛立ちすら覚えた二人だったがそこから何分探せど姿を見ることが出来ず、更にそこに呼び出された用事が終わったラムルとデフィーネに会ってしまい事が大きくなった。
門番、巡回兵はもちろんの事多くの者が動き回りラウリーを探したが見つからない。
デフィーネは最終手段とし、アウスに報告を。と口に出した。
ルイカとファルメはノバの一件あった後、残れたというのにここで命途絶える恐怖に駆られ必死にデフィーネに頭を下げて止めようとした。
そんな二人の対応にデフィーネは心の底から見下し言葉を紡いだ。
「…自らの落ち度を認めることすら出来ず、公主夫人になる御方に対しこの失態……恥知らずにもほどがある。
公主様に伝わる伝わらない以前に、貴女達は自分の保身ばかりなのね。ならば言いますが、『探すことをやめ公主に命乞いだけをする』か『誠心誠意探し続け公主に誠意を見せる』か。貴女達が決めなさい。
公主様には伝えることは必須事項です」
二人はとても悩ましい表情を見せた後、もう一度探しに行きます。と駆け出すように去っていった。
二人が動いてすぐ、デフィーネは一人の名前を呼んだ。
「……ユル、そこにいる?」
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