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1.回帰
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しおりを挟むセンガルがお土産と渡してきた物の一つ。
重い本が入った袋にアウスはイラつきを隠せなかった。どうして本を投げたんだから始まり、本をいれてある袋が本にはそぐわないまで。
いつもの小言と割りきり適当に返事をしながら荷物の整理をするセンガルに呆れながらもアウスは袋から本を開き一ページから目を通す。
整った綺麗な字、日付け時間帯細かく記された場所と名前。
「……日記か?」
「言ってただろ?『王都にいる夫に調べて貰いたいことがある』って。その答えになるかはわからないけど彼が書いた日記見ればある程度は答えを見つけられるでしょ?感謝してよね、夫のまとめ方上手いのよ」
センガルのやってやったぞという顔が無性に腹立たしいのを隠して日記の数ページ目にあった端の折られた項を捲る。
『 ○月×日
エトワール嬢が木陰でミルワール嬢、シェルヒナ嬢達複数人で本を読みながら談話する。
内容はいたってシンプル。
最近のサロンで流行り始めたドレスの話題、新たに出来た口紅の話題、そして恋愛事情。
ただ、談話の途中でエトワール嬢の使用人が走ってやってきて、ウィリエール様、詰まるところは皇太子殿下がお呼びだと血相を変えて言いに来た。
ミルワール嬢たち複数人はまたか、という顔をしてエトワール嬢を心配したが、当人は至って落ち着いて少し席を外しますと呼ばれた方へ向かっていった。
戻ってきたエトワール嬢は背中を庇いながら座って、また本を読み始めた。
他の嬢たちは何があったのかを知っているからこそ聞きもしなければただ隣で通常通りに振る舞うことしか出来なかった。』
書かれた内容にアウスは怒りを忘れて驚いた。まとめ方の巧さだけではない。誰がいつ誰とどうやって、まで事細かに記載されている。
王都には吐いて捨てるほど貴族がいるというのに。まるで全員を理解した上で書いているような。
「すごいな」と言葉を滑らせれば、センガルはとても嬉しそうにでしょ、と言い笑った。
王国、第一継承者である皇太子。ウィリエールの愛人は併せて四人。アンヒス家のメイアという女生徒が一番らしいが、エレン、フィーナ、メルローナという文字もある。
この三人は定期的に名前が出てきていることから、愛人内におけるカーストは低いが妾程度として遊ばれているといったところだろう。
「……想定よりも糞みたいな奴なんだな。ウィリエールとかいうのは」
「んふッ、アウスと意見が合うとむず痒いね。ただ同感。ウィリエールはそれまで現王が守ってきた文化を容易に壊せる典型的な権力に溺れたクズだよ。
自らの権威にヒビが入ることを何よりも嫌い、排除に余念がなくなる、たかだか十代が作れる人格ではない。
それにさ、似てるんだよ。このウィリエールは。
この世界の奴隷制度を組み上げ獣人や異種族を虐げる世界の理を作り上げた我らが敵の先代国王に、さ」
文字を見ていて感じることは、センガルもアウスもさして変わらない。
アウスの両親が掲げた奴隷解放で世界の均衡は揺らぎ、帝国公国、その他小国集落…さまざまな形でやっと築き上げた新たなこの場所をも奪おうとする独裁者。
見た目は見たことも無いが、きっとアウスの幼い記憶の先代国王の瓜二つな気すらする。
「……奴の時代は異種族のみを奴隷とした。少しでも人間と違うものを嫌悪し忌み嫌った。
だが今はまるで幼稚な我儘ではないか。種族を問わず気にくわないものを片っ端から奴隷としては。聖女を奴隷とするなんて妖精王も怒り心頭ゆえ協力は惜しまないはず、被害が広がれば彼女は心を更に痛め救えなくなる。
センガル、この皇太子を長には出来ない。落とせるだけの証拠が欲しい、出来れば……」
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