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 王国は公国と帝国と分かれた後も広大な土地を有し、大陸という大きなスケールで考えても一番に大きな国。
自然によって囲われるように国が幾つか存在し、国と呼べないほどに小さな集落も数えきれないほどに存在する。

 要は大陸の覇者が王国と言っても過言ではないのだ。

 そんな王国から抜け出すには相応の犠牲と相当の覚悟が必要で。王族派であれば同派閥の罵詈雑言に耐え、貴族派は有りもしないことを言い立てられ士気を高める道具とされる。どちらがどうであろうと変わらない。醜い闘いの道具にされる未来は確定したも同然。

 エトワール家は珍しいことに中立の立場で決してその領域に踏み込むことはない。
だからこそ保たれた平穏がある、がもしも王国から出ると決めればこの一角が崩れることで起きる騒ぎは小さくない。


「……ランゼルの言いたいことは分かる、王国がどういう対応をするか私にだって容易に想像が出来るのだから。だがなランゼル。自分の家族を害した可能性のある者が納める国などに居れないのだよ。
 派閥に関しては、エトワール家の信念に則って決して揺らいではならない。
守るために逃げる、別国に属するなど容易なのだ。領民や使用人の問題はエトワール家と良い繋がりの家門に相談する。この国で私たちに貴族位はないも同然、もう一度一からやり直すのも良いのではないだろうか」


 オズモンドの言葉には曲げない信念があった。
ランゼルが折れるのを待つ、そんな風にも聞こえる言葉に悩む心は更に沼にハマったように答えを見つけられなくなる。

 アウスを無視した空気感は、アウスにとっては居心地が悪い。エトワール家のアレコレに口を出せる立場でもない。
 コンコンッと場の空気を読んだかのようになった扉のノック音にラウリーが飛び起きる。この瞬間ですらラウリーは人として落ち着くことが出来ないのか、と現実を叩きつけられたような気持ちになる。
 入ってきた使用人は少し戸惑った様子で「帝国の方が……その、いらっしゃいました」と言ったがアウスはまたセンガルが使用人を振り回していることを悟る。

 いつもそうなのだ、センガルは勝手に遊びに来ては皇帝であることを隠して至るところへ行く。
今回も電話があってから数日は経過している。理由もわからないまま何処にいるかがわからないが一番困るのだと何度言ってもやめようとしない。


 小さくため息をついてからアウスは立ち上がりラウリー達に休んでいてと声をかけセンガルがいると思われる玄関へと向かった。


 アウスが居なくなった空間では、ほんの少し戸惑いと話を上手く切り出せないもどかしい時間が流れる。
けれど、オズモンドは決心したようにラウリーに近づく。
 両親ですら怯えてしまう現状を直したい、けれど王国に連れ帰れば今度は命を狙われる可能性もある。


「……ラウリー、父さんはまだ迷っているんだ。ラウリーを苦しめこんなにも追い詰めた者を許せない反面、復讐によって今まで積み上げてきたものを壊すのも怖い。
けれどね、父さんも母さんもラウリーを守ってあげられなかったことを心の底から悔やんでるんだ、贖罪の為ならなんだって出来る。だから、ラウリーがこれからどうしたいか、教えてくれないか」


 オズモンドの言葉は優しかった。
ラウリーに全てを選ばせ、人間として扱うという気持ちも込めた。
ラウリーは困ったように視線を泳がせたが、床を見ながらなにかを考え、近くにいたラムルが言葉を受信したように「……そっか」と呟いた。



 アウスが玄関に到着した時、そのあまりにも多すぎる荷物と何故か丁重に運ばれてきた魔獣の首に言葉など出なかった。
久方ぶりのセンガルはお洒落な淡い色のワンピースを魔獣の青紫の血液で染め上げ動きながら、アウスに気付くと「久しいね、元気にしてたかい?お土産、ね」と笑った。
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