23 / 116
1.回帰
23
しおりを挟むラウリーが目覚めるまで、ラムルは危険物の確認のためシザーから預かった袋の中身を開けて出した。
親が娘の現状を知り、汚点となり得る可能性を見つけた途端に排除しようとする家庭もあると風の噂で聞いていたからこその警戒。
袋の中身は手紙が二通、少しだけ色が褪せたブランケット、そして小さな石のネックレス。
ネックレスはアウスもラウリーにプレゼントしていたがそういった贈り物というよりかは家紋の入った代々受け継がれるような代物。
安易にラムルが触って汚してはならないものだと判断し、ハンカチで包み指紋や汚れがつかないよう置き場も考える。
『愛されている可能性』を感じれば感じるだけ奴隷になった経緯がわからない。
余程憎まれていたのか、はたまた。
…
「…長旅ご苦労、報告を」
アウスの執務室、アウスの机から見て正面に設置された低めの革製のソファと椅子にはシックスの三人が座りシザーは入り口の扉付近で立って報告をする。
ユルはアウスに最も近い側の椅子、キディは一番離れたソファに、ネスタはその間でありながらユルとキディの向かいにそれぞれ座り話を聞く。
ラウリー・デュ・カルデラ・エトワール=リリアリーティ
王都にある完全孤立した貴族姓のみが通う学院。高等部一年の夏手前頃より行方不明。
神よりリリアリーティの名を貰う加護を受けた聖女。
四歳で皇太子との婚姻が決まり、行方不明の折皇太子より破棄を申し出たそうですが皇后ならびに国王が其を却下。現状まだ彼女は『次期皇后』である。
既に出立はしてあるとは思うが、エトワール家よりラウリーが本当に娘かどうかを確認しに来訪が確定済。
シザーの言葉にアウスは怒りがどうしても現れてしまう。
番は本能からのもの、聖女というだけで結ばった縁など弱いにも程がある。
まだ彼女は自由ではないのかと舌打ちすら出る。
次にアウスが問うたのはラウリーの婚姻の相手である皇太子。
フィロシスコヘデン・アンテベート・ウィリエール
モディフス王国第一王子であり、ラウリーと同じ学院に在籍。
ラウリーとの婚姻は彼が望んだからと、エトワール家の者から聞いている。
女と権力が好きらしく、風の噂では学院内に愛人と呼べる存在が四人はいるとのこと。
学院は孤高で、陸の孤島とさえいえる程に封鎖されていて情報も殆ど取れないのが現状のため中で何があったかは詳細は不明。
ラウリーの行方不明における学院内からの説明は『説明の日より二ヶ月前のこと故に説明が出来ない』とのこと。
エトワール家の窶れ具合は『何もわからない』ことによる焦燥と無情に過ぎ行く時間ゆえと言われれば深く納得がいく。
全員の顔が歪む。
学院という封鎖された空間で、彼女がどのような立ち位置に居たのか。
想像するだけで心臓が傷む感覚を得る。
学院の中を知るには学院に入らねばならないというのに、どうにも情報を得ることが出来そうにはない。今のこの時期に転入なんて不自然極まりない。
嫌な気持ちに支配されながら、下げた視線の外れから鳴り響く電話のベル。
こんな時に仕事の話しか、と更に気が重くなったが電話の向こうの相手は国境警備の担当者で帝国皇帝が約束があると来たのだが通して良いかの指示を仰いだ時、アウスは初めてセンガルを歓迎するように国に招き入れ電話を代わるように指示を出した。
『気持ち悪いこともあるんだね、アウスが私を国内に入れてくれるなんて』
「センガル、お前の夫の一人王国で留学中だよな?王都の学院なら協力を要請したい。調べたいことがある」
センガルとしては入れた恩を即座に返せと言われているようで、変わらないなとクツクツ喉が鳴る。
詳しい話は邸で、と電話を切り警備隊に笑顔でお疲れさまと言い進む一行を見て誰も皇帝とは思えなかった。
1
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説


【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

欲に負けた婚約者は代償を払う
京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。
そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。
「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」
気が付くと私はゼン先生の前にいた。
起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。
「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる