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 ラムルは七人兄弟の長女である、母は公国内でも屈指の宿屋にて料理を作る料理人として働いている。
父は騎士だと聞いているが、会ったこともない。
 母は七人も子をもうけ、長女であるラムルが十八となっても父親については話に挙げることはなく、居ないものとして笑う。
けれど子を作って帰ってくることに宿屋の裏を見たような気がして。妹弟たちだけでも真実を知ることなく、食べたいものを食べて元気に育ってほしいと公主の使用人として働き始めた。


 テレパシーは自分を守る唯一無二のラムルの武器。
ただオンオフを自分自身で選び出来るものではなく、常にオンの状態のため頭の中にいつも他人の意見があって返事をしなくても良いのに定期的にその意見に救われたり追い込まれたりすることがあった。
嫌だなと思っても、この能力が失くなれば良いのになんて思ったことは一度もなかった。


 公主の番の専属として配属され、やれることをしようと意気込んだが仕えた彼女は奴隷が染み付いた人間扱いされないことに慣れたモノ。
そんな彼女が初めて、頼ってくれた『エトワール伯爵家を調べてほしい』という言葉には心から打ち解けて貰えた可能性が見えて嬉しかったのだ。



 この世界には電話や多くの電子機器に囲まれ、不便などしたことがない。ただ国を跨げば瘴気に害され繋がらないこともある為に魔道具という電子機器の上位種が生まれ使われる。
 彼女の暮らしていた生活では、電子機器など端から存在していなかったのだろう。
家族が異国で、無事かどうかもわからないまま。不安ばかりが募って、募って。奴隷の生活の一辺でも垣間見ることが出来ればこの疑問やらが解ける瞬間が来るのだろう。

 人として扱われることがなくなった世界が、これほどまで人としての尊厳を当たり前を奪うものなのならば……



 眠ったように意識を戻さぬ彼女を見守りながら、ラムルは公主に嘘をついたことを猛省した。

「……妹さんのこと、言っても良かったのかな」

 アウスと部屋に入った時、部屋の中で強かった感情と『お前も妹と一緒で命令がなければ死ぬのか』という強く嫌悪すら混じった言葉。
それが何を意味するのか、嫌でも彼女の傍にいればわかる。

 公国、帝国は奴隷だったものが人間としての尊厳を護られるために作られた国で、創立からまだ数十年という時しか経っていない。
奴隷の名残が強いものも多いのが確かだが、数十年で色褪せる記憶も多くある。
 『なぜ人間風情より優れた我々が迫害されなければならないのか』と牙を剥くものを公主や皇帝は止めて抑えていることにも意見するものが増えてきていると聞く。


 龍人や獣人の純血種は長命ときく。まだ記憶に新しい事柄とさえ感じるものもいるのだろう。
公主邸ですら、奴隷の印があるだけで同族にだって虐げられる可能性があるのに奴隷印を他人になど見せられないだろうし……


「……お嬢さんは、どう過ごしてきたのですか。奴隷になる前は幸せでしたか。今の生活では安心できないですか。苦しめるものは無いと私は思っていますが、お嬢さんにとって不安や苦しくなるものは一体なんですか。
 私に、私にだけは教えてくれないですか」


 ラムルは見たいのだ。自分よりも歳上なのかもしれない彼女が年相応に笑う姿を。辛い時に辛いのだと泣く姿を。

 そんなことを考えながら目覚めを待っていると、暗くなったはずの空は明るく朝を告げ始め、鳥が朝を喜び鳴く時にはシザーが帰還し荷物を持ってラウリーのいる部屋へとやってきた。

「……お嬢さん、帰りました。事情はある程度聞きましたが荷物だけ置きに……主さんのとこ行きますので起きたら渡してあげてください」
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