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1.回帰
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しおりを挟むエトワール家は元からのエリート一家ではなかった。
現当主であるオズモンドの曾祖父母の代で、当主であった曾祖父が平民だった曾祖母を娶った事で社交界では地に落ちたとさえ言われたそうだ。
『とても綺麗な柔らかな陽だまりの色をした瞳をしている彼女に惚れない理由などなかった』
曾祖父は当時の事を日記にこう書き記していた。
そんな曾祖母を迎え入れたことで一時は社交界や様々な世界で多くの困難や苦痛にあってきたが、平民だからこその求めているものは領民達の心を癒し更に多くの発展を遂げ、たゆまぬ努力をしてきたからこそ実力で伯爵位まで登り詰めた。
そんな経済発展に大きく準じるエトワール家が更にその立場を大きく変えたのはラウリーの存在が大きいのだろう。一族から聖女を出すなんて、余りにも光栄で現実味の無い話で。
王国では聖女は神に選ばれた子がなるものであり、決して偏ることのない公平の上に産まれる存在。
ラウリーの前の聖女は、ルティッツ家という農家の元に産まれた子供であったとされている。ルティッツ家は平民であったが、聖女を産み育てた家族として爵位を与えられた。
しかし、平民から突如として努力もしていないのに富と名声を手に入れた彼らは堕落し早い段階で潰えた。
そういった話があったからこそ人一倍、エトワール家はラウリーを普通の子として育て決して聖女という名前で呼んだりはしなかった。
けれど聖女として皇太子との婚姻は否応なく結ばれたし、学院に進学も決められたように……
シャルロットは未だにアウスの通信機越しの言葉が引っ掛かってならなかった。
『奴隷の刻印を例え有していても赦される立場の人間の犯行』
ラウリーが行方不明になってある程度が経ち会った皇后陛下は本当にラウリーを心配していたような記憶があるが、それが演技だとしたら。冷や汗が気持ち悪くなる。
聖女を独占しようとする心が運んだ現状だとするのならば。
『この国なぞ滅んでしまえば良いのに、』とさえ考えてしまう。
公国への来訪日程を決めて、移動の馬車に荷を詰め込む。片道急いだ早馬で寝ずに走り三日と掛かるのだ、のんびり馬車に乗りであれば一週間近く掛かる。
メイドの多くが一緒に行きたいと懇願したが王族に悟られることなく動くにはそもそもが不向きな爵位である。不用意に大勢を連れてはいけない。
私たちはお嬢様を思っていますので此方を、ともらった寄せ書きを大切にしまい見慣れた景色から流れた。
「……面白い依頼もあったもんだ、王国のしかも伯爵に恩を売れる機会なんて早々無い。奴隷が見つかったり、粛清に移動の理由付けとは……私も公国に行く理由が出来たみたいだ」
無駄に丁寧に書き添えられた王国より届いた偽造文書の作成の依頼。『行方不明の娘に特徴の似た人間を見かけた』というもの。
その文書と同様に届いた公国からの手紙にも近しい内容が記載され頼まれている。
余程国王達に知られなくない会合といったところなのだろう。
王国には計り知れない憎悪がある。騙し蹴落とすためならばどんな協力も惜しまないが、此方にも黙秘すると知りたくなるのが世の常というところだろう。
そう考えれば、『彼の番は奴隷』だったはず。
もしこれがエトワール家の息女で、奴隷印など持っていないはずの王国の王族が勝手に印を作り打ち与えたとすれば……
奴隷が、奴隷だったものが息をすることをやっと掴めたばかりだというのに。まだ増やすのか。
まだ愚かなことを王国は続けようとしているということ?
「……公国に行く、書面を直接渡すわ。用意をお願い」
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