龍人の愛する番は喋らない

安馬川 隠

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1.回帰

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 使用人断罪より一週間。
多くの使用人が解雇され、路頭に迷うのも束の間。公主邸では新たな求人広告が貼り出された。

 デフィーネ含む使用人の中での上に立つものが忙しくしている時、アウスもまた忙しかった。
エトワール家来訪より四日、早くも動き出した伯爵を向かい入れる準備だった。当主であるオズモンドはラウリーの件を聞きシャルロットと同じ様に泣いたらしい。詳しい話は聞いていないが手紙には『娘が生きているだけで涙が止まらない』とあった。



 シザーが戻る予定日が明日と迫る日。
何故かその日、シックスの面々がラウリーのいる部屋でラウリーの動きを見ていた。
豪華絢爛でありながら派手すぎない茶色を基調としたとても優しい部屋の端っこに敷かれた二つ折のベッドシーツがラウリーの居住区。その居住区をシックス達に見られながら掃除を永遠としているのはラウリー本人。
 そしてシックス達に状況説明を求められているラムル、なんとも晴れやかで綺麗な空の下とは思えない淀んだ空間。しかしながら、説明できるのは一つだけ。

 彼女が一番安心できる生活がこれだということ。

 ラウリーが来てから半年と経つが、起きて意識のある状態での生活はまだ数日しかない人間に対し、この場に順応し生活しろ。というのは酷な話でしかない。

 会話に戸惑ったキディは近くにあった本を手に取り、話の種にでもならんかなと開いて読んだ。


 『 騒がしいホール内。
色彩様々な世界、煌めき、そして笑顔が溢れるその場所。
 ヒールのコツン、コツンという音が無数に鳴ってはそれを受け止めるように革靴の地面と擦れる音がする。
 その場にいる誰もが着飾りそして色めき立つ。
そんな夢のような美しい世界が広がる視界で今。


 「ツェツィレリア・バレンシー、今この時を持ちお前との婚約破棄を宣言する。
そして、俺の愛したアルマリ嬢への陰湿な嫌がらせ、未来の王妃に対する侮辱は許されるものではない。
よって、お前の貴族位剥奪ならびに国外追放とする」


 私は断罪されている。



 ヤーロンドル大陸という大きな大陸に四つ存在する国。
その中の一つ、四方を深い森に囲まれた孤高の国。

 アルバンテス王国

 この国は他の国と比べても小さくはあれど、それはそれは活気溢れる国であった。
しかし、一番の特徴はそこではない。

 この世界において、魔族や天族、魔法を使えるものたち、モンスターなどが存在し常日頃から保たれた均衡を脅かしている。
それらの対抗手段故に、他の国では大きく厚い壁で国を囲い守っているのだが、アルバンテス王国は四方を深い森に囲まれており、なおかつこの国に存在する『聖女』というものの加護があるために壁なくして平穏な生活を送っているのだ。………』


 キディは、内容に心底驚いた。随分とこの隣接する三国に近しい内容。手心加えられているとはいえ、親近感すら湧く。
魔法と呼ばれるような高度な技術はあまり無いが、この世界にだって魔族や天族はいる。龍人や獣人も人によっては魔族と言われるのだから間違いではない。
 王国のみではあるが、確かに聖女と呼ばれる万物の声を聞けて加護を受けている者も会ったことはないがいるらしい。

 そういえば、とふと思い浮かんだ疑問。
最近というよりかはここ半年ではあるが国境にて魔物が現れたという情報を聞いていない。
魔物にだって増える時期と減る時期はあるが、ここまで静かなことは珍しい。


「……お嬢さんって実は聖女サマだったりしますゥ?」
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