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1.回帰
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しおりを挟む『王国内に帰すことは不可能と捉えていただきたい』
この一言がどれだけの意味を成すか、アウス自身は痛いほど理解できていた。それでも言った。
「……帰せない、とはどういうことですか。さ、三年……娘は三年もの時間行方不明で私達は探しておりました。番だかなんだか知りませんが娘が帰ってくる場所はこの家ですッ」
シャルロットの怒号も皆が理解できるからこそ否定出来ない。けれどあえてハッキリと言ったアウスの考えをランゼルは少しだけ汲み取れたようで考え込んでしまう。
シザーはその様子を見ながら、ランゼルの次の言葉を待った。
けれどアウスの方がその時間を待つわけにはいかなかった。
「……番だから彼女が公国に残らなければならない、なんていう法律はありません。
ですが、彼女を害し帝国が全て所有し管理しているはずの奴隷の刻印が王国内で打たれた以上、彼女を帰せば何が起きるかわからないのも事実でしょう。
上の方には内密にと申し上げたはず、理由は簡単。『奴隷の刻印を例え有していても赦される立場の人間の犯行』であること。
彼女がエトワール家を心配していたからこそ使者を送りこうして顔を合わせてはいないながらも声を交わしていますが、俺は王国の事など忘れ人間としての尊厳を取り戻しながらこの公国で平穏に過ごして欲しいと思っております。
彼女は、聖女なのでしょう?」
アウスの言葉にその場の三人は核心を突かれたように言葉に詰まる。その通りだと納得してしまったから。
けれどもそれを理由に家族に会わせて貰えない、では本末転倒ではないのか。と喉元まで出かかったが、アウスの『奴隷の刻印を有していても赦される立場の者の犯行』という言葉は喉元の言葉を塞き止めるには大きかった。
王族の犯行なのだとして、何故聖女を害する必要があったか。
王族の権力の誇示の為に利用されたのだとしたら、もしかしたら何かしらの王族からの命を断っての理不尽な断罪だとしたら?悪い予感は良い予感より遥かに思い浮かぶ。
「……む、娘はラウリー・デュ・カルデラ・エトワール=リリアリーティと言います。神からの加護を受けリリアリーティという名前を頂き、幼い頃から優しく万物の声を聴き、多くを愛し多くに愛された子に育ちました。
四歳で皇太子との婚姻が決まり、妃教育から聖女としての巡礼など多くの荷をあの子に背負わせてしまっていた。
行方不明と学院より通達を貰った時、既に居なくなってから二ヶ月が過ぎており絶望したのを鮮明に覚えています。
公主様のお言葉、正しいことでしょう」
シャルロットは涙を溢しながらも、嗚咽で言葉が止まろうともアウスにラウリーという人間の話をした。
奴隷、という人間以下の刻印を植え付けられていたとしても家族に間違いないのだと、私達は彼女を害する立場ではないということを一つでもアウスに理解して貰い面会の機を貰うために。
ずっと考え込んでいたランゼルが言葉を発した時、アウスの考えは纏まり、シャルロットもまたその考えを確立させようとしていた。
王都に住まう者として、あってはならないことやも知れぬということを重々理解していても現状出せる答えは一つだけ。
「……父が戻り次第準備をします。事業の視察という名目にて公国内へ行くこと、そしてラウリーに会わせて頂けると幸いなのですが御許可願えますか」
アウスは「勿論です」と答え、シザーは事業の書類を届けたという事としてエトワール家に対処して貰い、その場はお開きということになった。
シザーは一日だけの滞在で即座に帰路を辿った。
ラウリーに渡して欲しいとシャルロットに頼まれた袋を大切に抱えながら。
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