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1.回帰
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しおりを挟む応接間のテーブルを挟んでシャルロットとランゼルが座る位置の向かいにシザーは座った。
話を始める前に「突然の来訪となりご無礼を申し訳ない」と謝罪した。
そんなことはないので大丈夫ですと謝罪を受け入れた二人にシザーは続けて「お願いになりますが、これからする話を上の方には内密に願えますか」と言った。
ランゼルたちからして上の人、つまりは王族。
貴族位のカーストでいえば伯爵の上にはもう二つほど爵位はあれど隠す必要がある所がない場合必然的に階級は上がる。
王族に隠さねばならない話とは何なのだ、と苛立ちすらあったが話を聞けないことが一番あってはならないことだったため「わかりました」と渋々ながら許諾した。
その許諾の言葉を聞いたシザーはゆっくりと話せる範囲で話をはじめた。
事の始まりは半年ほど前、戦争の為一年以上国を空けていた公主が国に帰還したことから。
その日は帰還した公主を讃えるパレードのようなものがありお祭り騒ぎだったのだが、貴族が一人の人を撃った事件があった。
被害者は国内で存在があってはならない奴隷で、結果的には百名以上の奴隷を保護し撃たれた一人は公主によって即座に医療的ケアを行えた。
その奴隷だった者が半年後である昨日、意識が戻り目を覚ましたのだがその者がまず調べて欲しいと頼んできたのが『エトワール家の存在があること』『エトワール伯爵の者全員の無事と安全の確認』の二点であった。
故に私がここに来た、ということを伝えていく内にある程度の内容が理解できたからこそ二人は下を向く。
シャルロットはポロポロと涙を拭うことなく瞳から溢し、手を震わせる。
「……心苦しいお願いではありますが、先ほど仰られていたラウリー嬢の姿絵などを見せていただくことは可能でしょうか?、本人だと確認できれば……」
シャルロット、ランゼルは躊躇うことなく使用人にラウリーの姿絵をと言えばパタパタと廊下が忙しなくなる。
数分の沈黙は普段の倍以上時間経過が遅く感じた。
バタバタと動く音が聞こえ、勢いよく扉が開けば少しだけ歳を重ねたメイドが絵を抱き締めている。
「失礼よ、ヨーコ。お客人に謝罪を」
シャルロットが叱咤すれば、ヨーコと呼ばれたメイドは深々と頭を下げて「申し訳ございません」と謝った。
さほど気にしていなかったが、大丈夫です。といえばヨーコは少しだけ悲しそうな顔をして再度頭を下げた。
「……お嬢様、ラウリーお嬢様の乳母をしておりましたヨーコと申します。お嬢様の姿絵は此方に…」
コトンッという音を立て少しだけ大きい額縁に目をやれば、写る姿にシザーの心臓は掴まれたように息が上手く出来なくなる。
自分にまだこんな慈悲があったのか、心があったのかなんて乾いた笑いすら出そうになる。
テーブルに置いた通信機の電源を入れ、カチカチとスイッチを押せば数秒ほど砂嵐の音がしたがすぐに『シザーか?』と男の声がした。
意味がわからないままに進むシザーの姿を目で追うことしか出来ない三人を前にしながら、シザーはハッキリと通信機の向こうの人物に向かい言葉を落とした。
「……あの方のお名前が分かりました。王国内伯爵家が一人、ラウリー嬢に間違いありません」
通信機の向こうの人物は張り詰めた息づかいをしていたが、名前を聞きフゥッと息を吐けばわかったと声をかけ、改めて向き直るように言葉を紡いだ。
「……ご挨拶が遅れましたこと申し訳御座いません、リュド公国が主、アウス・リュドヴィクティーク・ド=シュヴァイス・フィークと申します。
不躾を承知で単刀直入にお伝え致します、彼女…ラウリー嬢は私の番であるという事実がありますが、それを抜きにしたとて、彼女を王国内に帰すことは不可能と捉えていただきたい」
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