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しおりを挟むノバが目を覚ました時、殺意にまみれた空間はノバの目にどう映ったことだろう。多くの使用人たちが恐怖に戦き、ノバと関わりが無い使用人は巻き込むなと言いたげな冷たく軽蔑を含んだ視線を向けている。
意識が覚醒したばかりの舌足らずな言葉で目の前にいる殺意の塊に慈悲を乞う。
「……私は何故このような場にいるのですか」
まるで被害者であるかのように。なにも知らないと身の潔白を示すかのように。
最初に尋問を始めたのはメイド長。「今日は番様付きの夜番だったのでは?」という在り来たりな質問から。
ノバは「今日は休みです」と言い、エリとムンヒは違うと言いたげに視線を泳がせたがノバには何も言えず口ごもるだけだった。
「貴女が休みなら誰が夜番を?」と動揺など一切なく話を進めたメイド長にはノバの方が動揺した。もう少しなんか無いの?と言いたげな表情を瞬間的に見せたが、すぐに迫真の演技で「わからないです、私はシフト表確認できてないので……」と言ってみせた。
忘れてしまいそうになるが、ノバがいるのは公主の城といえる場所。そして今ノバが断罪の為の尋問を受けているのは紛れもなく公主が目の前にいる応接間なのだ。
そんな場所でコロコロと演技で意見を変え、返答を変えるノバには感嘆の声すら出そうだ。
だが、そんな公主の地雷を踏み抜いた時空気が一瞬で変わることなどその時のノバに知ることは出来やしない。
「貴女に番様の所持品横領の疑いもある、その懐のものも出しなさい」
メイド長に言われ渋々出した、丸いコインのような形で小さな赤い宝石を真ん中に付けた小ぶりのネックレス。そのネックレスを見てメイド長も、アウスも、同空間にいたシックスたちもノバが横領した罪は確定したことを把握した。
しかし、認めるはずもないノバはそのネックレスを「母から貰ったものです」と言った。
言葉を聞いた瞬間、アウスはパキパキッと額やこめかみの鱗を怒りで鳴らし空間を怒りと殺意で埋める。
「……ほぉ、それがお前の『母君から貰った物』か。とても良いな。俺の魔力と血液で出来た番の為にわざわざオーダーメイドで創ったこの世に一つしかない魔石のネックレスと全く同じ魔力、形、色の物をお前の母君が、ねぇ。
男爵邸を売り払い、民衆の税を狩り尽くそうとも買えることの無い金額のソレを貰う、とは。愚かにも程がある。
……デフィーネ、コイツの罪状を読み上げろ」
「はい、公国法ならびに帝公両国安寧立法に基づきノバは未遂とは言え『龍人の番の生命を脅かし』『他の私財を奪取し』『公国の主に虚偽を連ねた』以上の三点、加算しまして斬首または絞首刑が妥当かと」
淡々と告げられる言葉に背筋が凍る気持ちになる。ノバからすればたかだか番とかいう寝てるだけの女の食事や服や趣向品はあるだけ無駄なもの。それを有効活用したにすぎない。それなのに罪状が重すぎる。
「……お、お言葉ですがッ、横領や虚偽が例えあったとしても番の生命を脅かすなどッ、事実無根ですッ」
事実無根、その言葉をノバが口から出した途端。
ノバの皮膚がまるで木のように硬くなり割れていく、ノバの悲痛な叫び声に周りの使用人は当主は魔法も使えたのかと脂汗が止まらなくなる。が、アウス自身もこれまた想定外のことでふとノバの周りを飛ぶ妖精の色が普段と違うことに気付いた。
「お前は知らなかったのだな……彼女は『妖精や神に愛され加護を受けている』。この言葉の意味が紛いなりに龍人の末端の血を継いだ者ならわかるだろう。
……お前は俺だけではなく、怒らせてはならない方々を怒らせたということだ」
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