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しおりを挟む使用人は全員合わせて百ほどにはなるがその殆どが怯えて視点が定まらなくなっているなんて随分と異質な空間。
公主の番は元奴隷であり、怪我も含めて半年もの間意識を戻すことなく眠っていることは周知の事実。
何処から来たのか、どういう経緯で奴隷となったのか。何もわからない、誰より何よりも素性が明らかになることがない人物。そんな人を未遂とはいえ手に掛けようとするとは、余程の怖いもの知らずか阿呆くらいなものであろう。
ノバを探しに行ったシックス達を待つ間の空気は常人では耐えられなくなるほどの電流が流れているかのようだった。
…
アウスが使用人達に問いただす時間とほぼ同系列の時間帯。
シックスが一人、シザーと人のお世話という仕事に就いた事の無いラムルは非常に困惑していた。
ラウリーのことを頼む、と部屋に連れて帰ってきたは良いものの何をして良いのかがわからない。
シザーは常に気付かれぬように隠密の上での監視がメイン、同じ様にラムルも普段洗濯場と宿舎の行き来のみのような生活では所謂メイドと呼ばれる仕事は経験ごと皆無。
戻って寝かせて、そこから無の時間が流れるだけ。
シザーとしてはメイド長を呼んでこい、と言われ実行しそれで終わりかと思っていたところで彼女を護衛しろと重ねて言われてしまえば断れるはずもなく。
さらに二人を困らせたのはラウリーが奴隷としての仕事をしようとしてしまうことだった。
どんな生活を、がある程度読み取れてしまうほどに染み付いた行動は無意識で行われてしまう。
治療し医師が最善を尽くしてもなお、傷だらけの素肌が見える度に心臓が掴まれるような気持ちになる。
焼印の意味はどんな仕事であろうがわかってしまう。
焼けて微かに開いても見えていない目や切られたり刺されたり抉られたりして戻らない皮膚の凹みや歯、どうしても治療では限界があって、魔法と呼ばれるような存在があっても彼女を完璧に治せないという事実がラムルからしたら我慢できないことだった。
「痛みは無いですか?」
素朴で真っ直ぐな質問。さらっと撫でられた額はもうラウリーからしたら少し皮膚が張る気がする程度で感覚はないに等しい。痛いと思って泣いていた頃もあったな、位の感覚でしかない。
『痛くはないです』と出ない声に代わって頭で考えれば、ラムルは少し悲しげに笑いながらそうですかと言った。
そんな二人を見て、シザーは会話の切り出しやこの絶妙にぎこちない空間を変えたくて考えに考えた言葉を纏めながら二人と目を合わせないようにしながら伝える。
「お嬢さんは奴隷になって長いんですかい?…あ、いやッえっとぉ…会いたい人や報復したい相手がいたら言ってくれれば調べられますんで……そのぉ……」
シザーの中での最大の気を利かせるが、場を更に凍らせるように沈黙に包まれた時流石のシザーも帰りたいと思った。ラウリーの表情がどんどん暗くなっていくのも見てしまえばやってしまった、と誰だって思うはずだ。
けれど、そんなラウリーの隣でテレパシーによって言葉を聴いていたラムルは突然慌てたようにシザーの元へ駆け寄る。
「あ、えっとッ『エトワール伯爵邸』にて全員が無事かどうか……邸宅にいるかどうかを調べてほしい、そうです。
伯爵位があるということは、ここじゃなくて王国ですよね。……彼女は王国の人ってことですかね」
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