8 / 116
1.回帰
8
しおりを挟む半年と六日目。
時計の針がカチカチと鳴り日を跨ごうとしている。
跨いでしまえば、半年と一週間になる。
この世界でたった一人の番である彼女の素性を目覚めるまでどれだけ調べてもわからなかった。
奴隷の印は背中や腰にかけてが一般的であり、多くがその付近に刻まれているのに彼女だけは額に。
痛々しい焼き印が眉を焼き、きっと片眼は熱でほぼ見えていない可能性があると聴いた時にはどんな拷問よりも辛い道を歩んでいるのだと。
彼女と共に虐げられてきた奴隷を何名か保護し話を聞いた時、彼女はどこかの元貴族なんじゃないかと言われ絞ってはみたが早々にみつかるものでもなかった。
目覚めて貰わねば知り得ない情報もある。
誰が君を追い詰めてここまでの身体にしたのか、なぜこの世に決まった数しかないはずの奴隷印が容易に使用されているのか。
奴隷印を保管している帝国には即座に連絡がいったはず、電話が鳴り止まないのだと弱音を吐いている使用人たちを見ていれば多少慰めの気持ちも生まれる。
日を跨ぎ時計のボーンボーン、という音が鳴る頃。
星空輝く外側よりコンコンッと窓を叩かれる。音は決して大きくなくロマンチックに言えば小人が叩いているかのよう。
正体のわからないアピールにアウスはいつでも剣を抜けるように警戒しながら窓辺へと向かいカーテンを勢いよく開けた。
「おぉっと、想定外。妖精か」
キラキラと羽根を動かし空を飛ぶ、より小さい個体もいるが平均して掌サイズの希少生物。
妖精の加護があり、好かれた者にしか見えない本当に奇跡のような存在。
アウスは生まれてすぐ加護を貰ったが、妖精の全てが見えるわけではなくぼやぁっとした光の玉に時より羽根が見えたりする程度。
そんな妖精が突然来訪してくるなんて、なんの前触れだ。と緩んだ力は再度籠る。
『おいで』
耳にではなく、頭に直接聴こえた声は妖精なのか。
確認も出来ぬままに妖精はゆっくりと移動を開始する。
アウスの部屋は三階の奥、妖精が向かうのは階下。
護衛にも何も言わず、待ってくれと小さく言葉を洩らしつつもアウスは窓から妖精の向かう方へと足を進めた。
妖精が連れていった先でアウスは息を飲んだ。
木の枝に引っ掛かり垂れ下がるシーツの隙間から人の手と足が動きも力もなく出ていた。
その腕に残る刀傷は、自身のやっと見つけた番にあったものと一緒で心臓が想像以上に脈をうつ。
震える手で腕に触れればひんやりと冷たい。
最悪の事態を想定し血の気が引くが、トクントクンと脈を感じたことで平静を保てた。
平静を、といっても龍の鱗は浮き出て怒りなどの感情が表にいることは否めない。
素早く木に上手く登り、シーツを破るようにゆっくりと地面に降ろし包みを開けるように中の愛し子を見る。
初めて会ったあの日より幾分もよくなった顔色で眠っている姿は安心すら覚える。
自由に動く身体に違和感を覚えうっすらと瞳を開いたことでアウスは初めてラウリーと目を合わせた。
綺麗な瞳は寝ぼけ眼で、ポワポワとアウスを見つめたが、突然身体を大きく震わせてその場で跪き額を地面に付けるようにして平伏した。
それは彼女がまだ、奴隷であることを何より示していた。
1
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説


王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる