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1.回帰
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しおりを挟む貴族の一人、ナルファズは公主の不在時における財政管理を任されていた。
そんなナルファズにとって、奴隷売買は気楽に稼ぐことの出来るお小遣い稼ぎ程度の感覚。
かつ、横領している財政の帳簿がもし知られそうになった際に補填できるようにするためでもあるある種の重要な副業に近かった。
だが、公主帰還のパレードで奴隷の存在を公主本人が目の当たりにし、更にその奴隷の一人が公主の番とあればことの重さはとてもではないが気軽に言い訳できるような状態ではない。
目の前の殺意の塊に脂汗が止まらず、唇は震え歯がカタカタと擦れ音を立てる。
指先にもう感覚すらないような気がする。
「こっ………この度は公主様の御不在に不適切な対応がありましたよ、ようで……誠に申し訳御座いません。
直ちにすべての部署で確認及び言及を……」
人事を担当していた女貴族の一人が意を決して言葉を伝えたが、その言葉はどれをとっても公主の求めているものではなく、眉間の皺をより一層深めるだけであった。
もうダメか、と多くの貴族が項垂れた首を上げるきっかけとなったのは公主の傍に居る側近としては重鎮的存在のマルフォード郷が言った、戦地より帰還した直後に殺気立っては示しがつきますまい、後日改めて場を開くのはいかがでしょう。という言葉。
助け船だと浅知恵の者たちは思うだろうが、一番手広くそして真っ黒に染まっているのは他でもないマルフォード郷なのだ。
自分に罪の矢が向かぬよう極めて自然に方向性を変えようと画策したのだ。
ただ、自身の番が生死を彷徨い、更に番が自国で禁止している奴隷だったと言う事実が普段なら収まる怒りも納めどころを失って暴れ狂う。
先程とは比にならない殺気がホールに広がれば、余裕を見せていたそこそこの古株も皆冷や汗が止まらなくなり頭が自然と下がる。
「…黙って聞いていればお前たちは質問にすら的確に答えられなくなったのか。
言葉もわからぬ愚図に俺は財政だのを任せていたというのか?
訊いているのは『お前たちは俺や騎士団が不在だった時にしていた事』ならびに『禁止とされている奴隷が何故貴族の踏み台になっていたか』であって、謝罪や示しの指摘ではない。馬鹿にするのも大概にしろ。
お前らを此処に呼んだ時点で、シックスに全ての業務に穴抜けがなかったかなどは調べさせ始めている。
どうせ直ぐにバレるのだから、今言うのも後で言い訳するのも一緒だろう、さっさと答えろ」
苛立ちを隠せない公主の言葉に多くが凍り付く。
このホールに呼び出した理由が、怒り任せではなく証拠隠滅を防ぐためのフェイクだった可能性が出てきたから。
もう隠していてもバレるのは時間の問題だとわかれば、貴族たちは一斉に言い訳と弁明の言葉でホールを包む。
自己防衛による言葉は自分にしか都合よくなく、あわよくば助かれるように自分を良く言い関係者を極悪人に仕立て上げた。
戻った公主の権限を最大限に使い、全ての貴族を罪人とし処罰したこの行動はアウスを暴君と呼ばせるには十分過ぎる内容で戦地から帰還一日目で多くの貴族の粛清は帝国、王国にまで響く大ニュースとなった。
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