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しおりを挟むリュド公国。
ラウリーが産まれ育った王国と大きく壁となるような森を隔てた隣に位置する国。
各々の国が並ぶ大陸は広く、そして広大であり、自然に囲まれた木々の壁で隔てられている。
王国、公国、帝国、共和国、同盟国。
君主国だけではない様々な思想、種族が入り雑じる。
その多くは小国ではあるものの、一つが欠けては成り立たないそんな均衡で保たれている。
王国では生活するものの大半が人間であるが、公国では公主を含めた上に立つものが龍人族。
人の形をしているが、龍つまりはドラゴンの血を引き姿形を自由に変え空を滑空することも可能な種族。
また、その公国と隣接する帝国の長は獣人族、虎であったりと人間以外の存在がこの世界には当たり前のようにある。
公国公主、アウス・リュドヴィクティーク・ド=シュヴァイス・フィークは龍人族の中でも特に能力に長けた黒龍の血を引く。
龍人族の特徴である両頬に鱗があり、鋼のような強度を持ちながらもしなやかにサラサラと風に靡く艶のある髪を結って尚腰辺りまで伸びた長い黒髪、龍の血を強く継いだものに現れる深紅の瞳、大人の色気溢れる青紫色の唇から犬歯が発達した整った歯がちらと見えるだけで国中の女性は黄色い声援を上げて色めき立つ。
馬に乗っているにも関わらずその背丈は人より頭一つ出る。
ゆうに二メートル近い姿には圧巻せざる終えない。
「リュドヴィクティーク様、万歳」と多くの者が称え賑わうパレードの道。
明るくキラキラとした装飾や多くの者達の声や表情を見ながら片手を上げて反応はする。
心の中で何を考えているかなど誰にも気づかれるはずはないのだから。
しかし、その道中アウスから見て右側に聳えていた人間の壁が崩れた。
内心人にでも押され崩れたのだと即座に目を逸らした。
小さな問題にいちいち突っかかってはパレードが延びるだけで何にもなりやしない。
ただ、その後に響き渡る銃声。
ざわめきが悲鳴に変わり混乱する渦中から流れ込む血の匂いにアウスは本能を剥き出しにした。
龍人族の番は、姿だけではわからない。
血の匂いに龍人族としての本能が働くのだ。
これは動物でいうところの庇護欲、守らねばならないという感覚に支配されるという説があり、番を見つけた瞬間人間の形を保つことが出来ず本来の姿で番を守ろうと動いてしまう。
この時のアウスもまさに本能に抗えず。
黒龍の姿を曝し、その血の匂い一直線に羽を動かす。
痩せこけた撃たれ意識の無い奴隷の紋のついた女を躊躇うことなく龍の身体で抱き抱え、深く低い多くの者が恐れ戦く声で「国中の医者を呼び城へ集めろ、この場の対処はキディに一任する」と端的に告げれば城へと向かい空を飛ぶ。
恐ろしく早い光景に呆気に取られる国民と、慣れたように彼方へ飛んだ主に向かい御意と頭を下げるパレードに参加した兵士達の温度差は異様だったことだろう。
「公主様の御意向により、この場は一時我々預かりとなる。
銃撃があったこの場にいるもの全員を捕えよ。
奴隷の紋があるもので歩けるものは兵士の案内について、貴族達は馬車に乗せて各々城に向かうよう。
この場から立ち去る、消えるなどの行為は死罪に値することを思い知れ」
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