虐げられた魔神さんの強行する、のんびり異世界生活

雲水風月

文字の大きさ
上 下
61 / 61

61 森の中を抜けて

しおりを挟む
 人間の宿屋に宿泊した日の翌朝。宿の大部屋に使者が尋ねてきた。
 誰だろうかと思いつつも会ってみると、それは見覚えのある人物だった。

「ああこんにちは、確か以前にも……」
「はい、書簡をお持ちしましたな」

 その人物は、少し前に王様からの書簡を配達してくれた人であった。 
 名前も知らぬが、とある配達員さんである。

「エフィルア様。その後お変わりはありませんか?」

 なんの用事かと思ったが、彼は単に俺の様子を見に来ただけだという。

「ええ、おかげさまで、元気にやってますよ」

 もちろん、様子を見に来ただけとはいっても、彼は特務部隊の人間だ。
 俺が元気にしてるかなんてことを身に来たり、あるいは単に遊びに来たりなどというわけではない。

 良くわからない異世界の妙な人間がいるから監視しているのだろう。
 
 王国の守護神獣ムーニョさんはわりと俺に好意的だが、王家の人間たちに関してはまだ良くわからない部分が多い。向こうから見ても同じことだろう。
 
「くれぐれも御気を悪くなさりませぬよう。昨今は王国内にもいろいろと波乱がありますゆえ、何かと用心が必要なのです」
「ええ、問題ありません」

 それから国王陛下との会合の話も出た。謁見ではなく、あくまで会合らしい。
 できれば俺に王都まで足を運んで欲しいそうだ。もちろん行くのはまわない。
 会合は秘密裏に実施したいというが、さて。

 配達員さんはそんな感じの雑談をして帰っていった。

 相変わらず帰るときには姿を消してから移動をする。忍者みたいな人である。


 さて。とりあえず俺はハチミツを採りに行く。

 なにせ、いよいよ具体的な場所が分かってきたのだ。
 ハチミツを集める轟炎バチという凶悪モンスターは、この町から西へ行った大淵底という場所に生息しているらしい。
 そこまではもともと分かっていたのだが、昨晩の宿屋で一緒だった人の中に、轟炎バチの目撃情報を知っている人がいたのだ。
 10日ほど前の事だというから、まだ同じ場所にいる可能性は高いそうだ。
 料理のお礼にという事で教えてくれた。

 ちなみに、もともとはダウィシエさんも一緒にハチミツ採りに行ってくれるという話だったのだけどな。彼女の体調は未だに万全ではないのだ。

 聖女神殿の地下で受けた拷問のような深い傷は、あの元気なダウィシエさんでもすぐに回復できないほどのものだった。

 どうやら普通の回復薬や魔法だけでは治療しきれないような壊され方をしているようだった。
 俺としても、何か彼女の回復に役立つようなものを手に入れられればと思っているのだが。

 そういった情報もあわせて探しているが、今のところ有用な情報はない。
 どんな傷も治す万能の霊薬、エリクサーというものも存在するらしいが、もちろん手に入りそうにはない。

 今のところ他に思い当たるのは……
 
 実は浮遊古城の一部で、温泉大浴場の跡地を発見したのだ。
 とうぜん今はもうただの廃墟で、お湯も出ない、ただただアンデッドの破片が散らばっているだけ。
 しかし、もともとは体力を回復させるために使われていた施設かもしれないそうだ。
 回復の泉。そんな感じの物だった可能性がある。

 とりあえず今は、俺の魔力で使役しているスパルトイさん達に掃除や補修をお願いしているところだ。
 コボルトさん達もそういう仕事は得意なようで、意気揚々と手伝ってくれている。

 はあ、風呂か。俺としても楽しみだよな。こっちに来てから一度も入ってない。
 そもそもそういう設備が一般的ではないのだよ、この世界では。ちょっと身体を拭くか、水浴びをするか、あるいは浄化魔法で処理するか。おふろで身体を綺麗にするという文化があまりないのである。
 
 風呂にメシ、その他諸々の生活インフラ。まったく、やらねばならんことがいっぱいだな。


「それではいざ! ハチミツ採りへ出発」
「「えいえい お~~」」

 俺達は西の森の中へと続く道に入り、中級薬草採集の依頼なんかをこなしながら進む。 
 こういう依頼も地道にこなしておくと冒険者ギルドでのランク向上に繋がるからな。
 
 道中では幾つかのハーブも手に入れることが出来た。
 魔物化していない普通の植物なので、土付きの生きたままでもインベントリに保管できるようだ。せっかくだから城に持ち帰ってみよう。

 1つはレモンバーム。森の木漏れ日の下に生えていた。香りはもうほとんどレモン。見た目はミントに似ているかな。これだけで食べても美味しくはないので、お茶の材料として使われている。
 もう1つはローズマリー。肉や魚料理の臭み消しとして使われるやつだ。
 この2つは地球のそれとほとんど変わらないが、弱めの魔法薬の材料としても使われている。
 
 他にはマンドラゴラもよく採れた。こちらはハーブというよりも薬草である。
 ファンタジー世界ではお馴染みの植物でもある。

 引っこ抜くと強烈な悲鳴を上げる魔物で、その悲鳴には軽い即死効果や錯乱効果があるので、耐性のない者は気をつけよう。

 俺の場合はさすがにレベル差があるし問題ない。ただのうるさい草である。
 精力増強、繁殖力強化の効能を持つが、味は不味い。
 不味いので俺には不要。今のところ繁殖力を強化する予定もないしな。

 ギルドからの採集依頼の対象はこのマンドラゴラである。
 数本だけサンプルとして手元に残して、あとは引き渡してしまおう。

 俺とトカマル君とロアさん。3名で森の道を進んでいると、数百メートルほど先の開けた場所で人間が死にかけている気配を探知した。

「あ、エフィルア様。ちょっと行ってきていいですか?」

 トカマル君は突然そう言って、ミニトカゲモードに変化へんげした。

しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

kum
2020.12.20 kum

楽しくてさくさく読み進められました、更新楽しみにしております!

解除
アルトルージュ

再び一話から読み直してきました。
この時間だとかなり飯テロ加減が…

王様が地球的にマトモな感性をお持ちだといいのですが…

解除

あなたにおすすめの小説

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ギフト争奪戦に乗り遅れたら、ラストワン賞で最強スキルを手に入れた

みももも
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたイツキは異空間でギフトの争奪戦に巻き込まれてしまう。 争奪戦に積極的に参加できなかったイツキは最後に残された余り物の最弱ギフトを選ぶことになってしまうが、イツキがギフトを手にしたその瞬間、イツキ一人が残された異空間に謎のファンファーレが鳴り響く。 イツキが手にしたのは誰にも選ばれることのなかった最弱ギフト。 そしてそれと、もう一つ……。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。