虐げられた魔神さんの強行する、のんびり異世界生活

雲水風月

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59 初 人間の宿屋へ潜入

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 冒険者ギルドではハチミツについての情報も集めてみるが、やはり正確な生息地は分からなかった。
 外へ出ると、すでに日が傾き始めている。

「ねえエフィルア様。今晩はどこで寝るんですか?」
 トカマル君が俺の頭の上に乗りながらつぶやいた。
 昨日は大屋さんの馬車で寝たが、さて今日はどうするか。
 インベントリからキッチン馬車を出してそこで寝るか、あるいは人間の宿屋という未知の領域へと挑戦してみるのか。

 と、そこへ、例のおじさんが三度みたび現われた。
 今から宿屋にむかうところらしく、一緒に行かないかと誘われた。


「ふうむ。せっかくだから町の宿屋にも泊まってみようか」
「おお、人間の宿屋ですね。僕初めてですよ」

 俺とトカマル君は宿屋初心者である。
 どうなることやら。

 いちおう、今はリナザリア王室からの直接依頼でこの町まで来ているわけだし、町の偉い人達とも軽くは挨拶を済ませてある。
 南町のときのように、領主陣営から村八分にされた状態ではないのだから、まあ問題はないと思うが。

「なんだよ、ただの宿屋だぜ。そんなに珍しがるようなものじゃあねぇだろうよ」
「まあそうなんですけどね」

 おじさんに導かれ、俺達は宿屋へと足を踏み入れた。

「こんにちは、今晩泊まりたいのですけど」
 ロアさんが先陣を切って宿屋に突撃した。
 彼女は人狼として人間の町にまぎれて暮らしていただけあって、完全に慣れた様子だった。

「すみませんねお客さん、今日は個室はいっぱいで、食事無しの大部屋しか空いてないんですよ」

 大部屋ね。俺達は何処でもかまわない。
 大食いおじさんはもとから大部屋に寝泊りしているようだし、さっそく案内してもらうことにする。
 
 ガラッと扉を開けると、そこにはむさ苦しい冒険者風の男女が10名ほどいて、みんな適当に寛いでいるようだった。寝具は獣の毛皮だな。それが移動式の小さなベッドに置かれている。
 
 俺達は適当に空いている場所に座り込んだ。

「エフィルアさまー、エフィルアさまー、晩御飯はどうします?」
「んー、外に食べに行ってみても良いけど……」

「私はエフィルア様のゴハンが良いです」「あ、僕も」
 トカ君&ロアさんは顔を見合わせてニッコリとしているが、さて。
 
「しっかりした食事になるようなものは持ってきてないよ? おやつくらいの感じでよければ…… 生ハムとか、ゴルゴンの卵とか。あとは普通にオーク肉とかレンコンチップス。それでも良いかな?」

「良いです良いです」「すごい、ごちそうじゃないですか。それにエフィルア様が作ったやつは普通のオーク肉だって極上に美味しいですよ」

 勢いに押されて、インベントリから材料を出す。まずはこの2つからかな。
 1つは生ハム。これはこの国の守護神獣であるムーニョさんから貰った物だ。

 南町での一件のあと、お礼として持ってきてくれたのだ。王室の紋章が焼き印された立派な箱に入っていたりする。いかにもお高そうな生ハムである。
 俺が美味なる食材を求めていると聞いて持ってきてくれたらしい。

 しかし、生ハムは好きだし美味いけど、これだけで食べてもなぁ。やはりサラダに乗せたりしたい。
 調理場は部屋の隅に簡素なものがあるけれど、その前に少し食材を買いに行かなければ。せめて#肉パン__ティーギ__は必要だな……

 と、健胃家のおじさんが後ろから覗き込んでくる。

「お、お、お。なんだよなんだよ、また何か食い物を出してるじゃあねぇかよ」
 おじさんは背中を丸めて、バタバタと前に回る。

「また、美味いもんかい?」
「美味いといえば美味いですが、これは普通に肉ですよ」

 この世界の肉料理のバリエーションは広い。そもそも肉の種類が非常に多い。
 生ハムも一般的に良く食べられている食材だ。

「生ハムか。何の肉だい?」
豚系魔物オークの一種ですよ」

「なんだ、本当に普通だな」
 そう、これは本当に普通のオーク生ハムだ。少し違うのは、守護神獣から貰った物だということくらいか。
 このリナザリア王国では良質な塩が取れるそうで、それを使った干し肉や生ハム作りも盛んなのだそうだ。
 高級生ハムだけあって、特別なオーク肉を使っていたり熟成のさせ方も違うようではあるが。

「まあ良いさ。生ハムだって俺は好きだしな。それに随分とまた上等そうじゃあねえかよ。俺は今ティーギと角ウサギしか持ってなくてなぁ。これだけじゃあわびしいなと思ってたとこなんだよ」

「ティーギ、おお、肉パンティーギですか」
 これもやはり肉なのだが、食感だけはパンに近い食べ物だ。
 雑魚モンスターの肉から魔素をスッカラカンに抜き去ってから蒸しあげた物らしい。鳥ササミをボソボソにして味も弱めたような感じだ。乾燥状態で保存しておいて、そのままでも食べられるし、水を含ませてから焼きなおしても美味しい。
 パサパサで素朴すぎる味だけれど、塩辛いものと一緒に食べると美味いのだ。

「なんだ? こいつなら多めにあるぞ。なんなら生ハムと交換するか?」

 ティーギならもちろん店に買いに行けば売ってるだろうけど、あるならこれを使わせてもらおうか。
 よし、今日はこれに卵と生ハムを合わせて…… フレンチトースト? いやクロックムッシュっぽい感じ? それでいってみよう。

 なんだか周りの視線がこちらに向いているような気もするが、これくらいは慣れっこだ。気にせず作っていきましょう。


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