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56 いちご狩りをしよう
しおりを挟むリナザリア王国南部の都市ドンパウ。その周囲にある草地。
俺達は香りの良い植物系モンスター、ワイルドキラーストロベリーを探す。
「どんな臭いなんでしたっけ?」
人狼であるロアさんは探知術も得意だが、単純に嗅覚も鋭い。伝説級の大狼の血を引いていると豪語するだけの事はある。
「クンクン クーンクンクン くーん? えっと、臭いの説明をもう一度してもらってもいいですか?」
周囲の匂いを嗅ぎ分けて獲物を探すロアさん。
彼女の五感は本当に鋭い。しかし、あの甘酸っぱい苺の香りを嗅いだ事のない人に、それがどんな香りなのかを説明するのは意外と難しかった。説明しても上手く伝わらない。
結果、普通に植物系モンスターのいるところを探知してもらって歩いて探すこととなった。
「おおこれは。確かにそれっぽいですね、ロアさん」
「ふふう、魔神にして偉大なる魔王エフィルア様よ。どうですか私って偉いですか?」
「偉いですね~、ロアさんは偉いですね~」
今は人間の姿をしているというのに、ワンコロのように頭をこすり付けてきたり、お腹をさすってもらおうとしてくるロアさん。よしよし、よーしよしよし。
こうしているとトカマル君もかまって欲しくなるみたいで、ミニトカゲ姿になって俺の頭の上によじ登ろうとしてくる。ふと思ったのだが、彼は基本的には変温動物だから温かくて日の当たる場所が好きなのかもしれない。違うかもしれない。よく分からない。
さて、そんな俺達の目の前には、ニョロニョロと動き回る苺風の生き物がいるのだが。
【オロチ苺】
呪いのある植物。食べると蛇人間になるーー
鑑定術を使ってみると、そんな表示が浮かび出てきた。
ふむ。残念ながらこれはワイルドキラーストロベリーではないらしい。
蛇になる呪いがある植物だというが…… あまり香りはないか。しかし、これはこれで興味深い。
収穫してインベントリの中の亜空間に収納しておく。
実の部分は小さいし1つしかないから、食べてみるのはまだ控えよう。
「ねえエフィルア様。ワイルドキラーストロベリーって美味しいんですか?」
「さあ、どうかね~。美味しいといいねぇ」
トカマル君からの問いにハッキリ答える事は出来ない。なにせ俺だってそんな奇妙な生物を食べたことはないのだから。ただ、苺はやはり苺なのである。
基本的に、地球世界とこの世界では異なる点のほうが多いのだけれど、細かな共通点も沢山あったりする。
地球のイカは海を泳ぐが、この世界のイカは地中も泳ぐ。それでも、食べたときの食感は似ているのだ。磯の香りこそしないものの、やはりイカ。
同じように、たとえこの世界の苺が人間を襲うモンスターだったとしても、食べたら苺に近い風味をもっている可能性は十分にあるのだ。たとえ妙な呪いがあったとしてもだ。
将来的には品種改良するという手だってある。もしもオロチ苺とワイルドキラーストロベリーを掛け合わせたら、甘くて柔らかい普通の苺になる事だってあるかもしれない。
あるいは雑巾の九十九神さんの例のように、何かひと手間くわえるだけでも変化があるかもしれない。
そんなこんなで再びワイルドキラーストロベリーを探して野原をブラブラ散策していると、少し遠くでおじさんの声が聞こえた。
「くそったれがよう、なんなんだこの溢れ出る魔力は。絶好調の最高潮。そらいけファァイヤーーボオオルッ」
見覚えのあるおじさんが、杖の先が真っ赤に染まるほどに炎の弾丸を乱れ撃ちしている。狂乱大コウモリの群れと戦っているようだ。
あのおじさんはフライド百合根をまとめ買いしてくれたおじさんである。
あれは人間用にできるだけ効力を抑えて作ったものなのだが。なんとも元気いっぱいな様子で魔物と戦っている。
単体でのステータス上昇効果はかなり控えめだ。
食べると魔力が1~2上昇して、MPが1%ずつ回復していく程度である。
ただ、たくさん食べると効力は重ね掛けされていくから少し注意が必要だ。
3個食べれば魔力は3~4上昇。
効力が押さえてある分、人間でも3個程度は食べられる。
しかしあのおじさん、どれだけ食べたのだろうか? えらく調子が良さそうだが……
うーん、まあ良いか。元気そうにしているわけだし、中毒になっていないのならいくら食べたって問題ないよ。
妙な組織にかけられていた魅了術の影響ももうなさそうだ。よかったよかった。
無事に狂乱大コウモリを倒し終えたおじさんは、俺達に気がついたようでバチッとウインクをかましてきた。ブンブンと手を振っている。
俺の隣では、トカマル君がおじさんに負けないほどのブンブンッぷりで手を振り返していた。
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