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44 宝物庫
しおりを挟むさて、俺達はアンデッドの古城の中を突き進んだ。ガンガンに突き進んだ。
そしてとある宝物庫の前に到着していた。
ここはロアさんが発見してくれた場所。何か面白い物があるかもしれないと思い立ち寄ったのだ。
ちなみに、この古城のボスらしき存在は、もっと上のほうの階層にいるようだ。
それともう1つ、最下層には未知の領域が発見されている。ロアさんでも中の様子は分からない。
もしコボルトさんたちが恐れていた死霊術士が潜んでいるとしたら、その場所の可能性が高いそうだ。
まったくもってロアさんの探知術はふざけた威力だ。ほとんど歩き回らずに、初めから詳細なマッピングが完成しているのだから。
攻略サイトで情報を見ながらゲームをするようなものである。
宝物庫に来るまで、道中に現われた魔物のほとんどはトカマル君の大鎌で昇天した。出現したのは骸骨騎士、骸骨弓兵、骸骨アサシンくらいだった。コボルト戦士団も地味に頑張っていて、着実にレベルを上げていた。
もともと、戦士団の使っている武器はかなり上等な品だ。自分たちで掘り当てたミスリルをフンダンに使った良品で、敵にあてる事さえ出来れば攻撃力は十分に高い。それに加えて今日はハルピュイアのブースト肉で速度も倍増。この2つの組み合わせは相性が良さそうだった。
「エフィルア様。我らのような弱小種族にとって、レベル上げとは非常に難しい物なのです。なにせ我らコボルトときたら、上等な装備に身を包んでも同レベルの相手に勝てないのです。生まれ持ってのステータスが低いのです」
まあ、そうなのだろうね。今はブースト肉の効果で強くなっているけれど、それでもトカマル君に比べるとレベル上げには苦労をしている。
いや、そもそもトカマル君なんて、ただメシを食うだけでもレベルが上がるというチート生物なのだけれど。
「だけど隊長さん。コボルト族の街は素晴らしいものでした。あれは人間の技術を遥かに上回っているのでは? 特に細工仕事は絶品でした。魔導具だってたくさん造ってるようですし」
「いやいや滅相もない。あれしきの事は、ただ弱いがゆえに細かな仕事に精をだしているだけの事でして」
非常に低姿勢な彼らだが、ほんとうに技術力は高いと思う。ベッドも寝具も最高の寝心地だった。正確も穏やかで俺なんかにも好意的だし。俺としては是非とも彼らと仲良くしてゆきたいと願っている。
「エフィルアさん。この扉はやっぱり封じられてますね。ちょっと開きそうにもありません」
宝物庫の扉を調べてくれていたロアさんがクルリと俺のほうに振り向いた。
この扉には強力な封印術がほどこされている。それゆえにロアさんでも中に何があるのかは未だ探知しきれていない場所なのだ。
「よし、では斬ってみましょうか」
俺は呪法刃の短刀+1を握りなおした。
地味に+1という表記が追加されているわけだが、これは今朝、おれがブースト肉を作っている間にトカマル君が仕事をした成果である。
歓迎の宴で金属系の生鉱物を大量摂取したトカマル君だが、体内に希少な魔法金属が余ったらしい。
それを使って俺の短刀を再生成してくれたのだ。
新しく使った金属はミスリル銀の芯のような部分らしい。特に魔素伝導率が高い部分だけを抽出して合成したという。
この呪法刃の短刀は、使用者の魔力を注げば注ぐほど威力を増すという武器だが、ただし注ぎ込める魔力には上限がある。そんな上限が今回のバージョンアップによって上昇した。
攻撃力上限は1.7万→2.3万ほどにまで上がっていた。
一瞬だけの使用なら更なる強化にも絶えるが、安定はしない。
倍の4.6万までは試したみたけれど、それ以上はもう爆発しそうになっていた。
なんとも驚異的な威力に仕上がっているのだが、強力すぎて試し切るものがない。今こうして固そうな扉に出会えるまでは、いまいち性能の上昇が分からなかったのだ
俺はズバッと一振りする。そして宝物庫の扉は豆腐のように両断された。
コボルト戦士団は扉の切断面に駆け寄る。なにやら興味深そうに見つめているがなんだろうか? 指を這わせたり、あるいは舐めてみたり。そして、なんだかざわめき出した。
「「「ワッ ワフゥッ!?」」」
互いの顔を見合わせて、楽しそうに何かを話し合っている。
なにがそんなに面白いのかと聞いてみると、どうやらこの扉、少量ながらアダマンタイトと呼ばれる超級の魔法金属が使われているらしい。
アダマンタイトといえば日本のファンタジー作品ではお馴染みの希少金属だ。
その希少さはこの世界でも同様で、めったなことでは産出されないらしい。
単純な固さだけで言えば最高峰とも位置づけられる物質である。
今回の扉に使われているのはほんの少量。それでもコボルトさん達は大騒ぎである。
さて、思いのほか上等な試し斬り素材となってしまったが、こうなるともう、この扉ごと戦利品にしたほうが良いのでは?
「これはぜひ持ち帰るべきです!」
コボルト戦士団もそう言っているし、サックリと扉を切り出してインベントリに収納した。
それから宝物庫の中へと入ると…… うーん、何もない。
「ごめんなさい…… はずれでした」
ロアさんはしょんぼりしている。が、問題ない。すでに俺達は戦利品を手に入れている。
「結果としては希少な魔法金属を手に入れられたのですから。十分にお宝ですよ。また何か面白そうなものが見つかったら教えてくださいね」
「ぐるるるわふぅ。それならそれなら…… あとはやっぱり上層域にいるボス級モンスターですかね。玉座のような場所を守っていて、そこには大きな魔力を秘めた宝玉がはめ込まれています」
「おお、宝玉ですか? それはまた興味深い」
たしかトカマル君て、上等な宝玉を食べれば、新たな魔法やスキルを使えるようになるはずだ。確かそんな話をしてたよな。
宴のときにも宝石を少しは食べたのだけれど。どちらかと言えば金属系鉱石のほうが多かった。コボルトの坑道街で産出されるのは主にミスリルらしい。
宝玉も小さな物なら採れて食用にもするが、上質な魔力を秘めた物となると難しいようだ。
街に唯一合った強力な宝石は、“大地の粋”という名の大きなトパーズ。それを嵌め込んだ杖は街の至宝として族長の家に保管されていた。
土属性魔法の効力を30%上昇させる杖らしい。
この城の玉座にある石も、なにかそんな力を秘めている可能性がある。
いつの間にやら宝物探しに精を出し始めた俺達。勢い良く上層部を目指して駆け上がる。
やや遠い道のりになりそうだから、今度は俺とロアさんも参戦して一気に到着してしまおう。
上にのぼるにつれ、今までの骨たちに加えてゴースト系の魔物も出現し始める。
魔物の強さとしては、ハルピュイアや窟化バジリスクと同じか、少し強いくらいだった。
俺からするとやや格下の相手ばかりだったが、レベルが少し上昇した。これくらいの相手だと経験値上昇+3000%の効力をよく感じられる。
レベルの上昇幅が最も大きいのは、やはりトカマル君である。
コボルトさん達もがんばってはいるけれど、戦いそのものに苦戦していて討伐数が伸びていかない。
ロアさんは全然上がらない。元のレベルが高すぎる。
「なんか私だけつまらないです」
そんな事を言いつつ、彼女はコボルトさん達の安全確保に努めてくれていた。
全員無事に目的地に到着する。
今や俺達の視線の先には、玉座らしきものが見えている。
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