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29 はじける笑顔のダウィシエさん
しおりを挟む「出発だ!」
むっちり美人のアマゾネスにして我が町のギルドマスター、ダウィシエさんが元気に出陣の声をあげる。
その暴力的なまでの破壊力を持った胸部を雑に揺らしながら。
「エフィルアさん。ダウィシエさんの揺れに集中している場合ではありませんよ?」
平穏で上品な胸部を携えたロアさんにたしなめられる俺。
「ロアさん。なんの事でしょうか」
そんなにジロジロと見たりはしていなかったと思うのだが。
あれである、なんとなく目がいってしまうだけなのである。
ほんの一瞬の出来事だった。それでも俺の視線など丸分かりらしい。
今日もロアさんの感覚は鋭敏である。
しかし実際のところ、俺の意識がついそちらに向かってしまったのも無理がない話なのだ。この世界の人間の装備品は肌色成分が多すぎる。男女問わずな。
単純にまともな装備がなくて薄着な俺とは違い、彼らの薄着装備は結界のような機能が付与されている。機動力を損なわない軽量性と、高い防御性能を両立しているのだ。
俺もそろそろ防具も買い揃えようかな?
しかし良い感じの物がないのだ。
武器はトカマル君のおかげで手に入ったけれど、防具の場合はあの方法はとれなかったりする。
この世界の防具は基本的に魔法のアイテムだ。自己修復機能やら、自動フィッティング機能やら、その他諸々の機能が複雑な術式によって刻まれている。
たとえば最も安価な装備である“防護の指輪”の場合だと、装備した人間の皮膚にちょっとした結界壁を張り巡らせるような機能を持っている。
眼球だろうが脇の下だろうが関係なく、全身の防御力をちょっとだけ上昇させてくれる魔法のアイテムなのだ。
一番安いこの防具だが、残念なことに俺が装備しても効果が無い。
指輪の防御膜よりも俺の肌の方が遥かに強固だからだ。装備しても防御力の数値は全く上がらなかった。
そんな理由で、ギルマスの姿も薄着に見えるのだ。
肌の露出が多くとも、彼女は非常に高価な防具に身を包んでいるというわけだ。
そんなギルマスとロアさん、そして俺。この3人が今日のダンジョン探索を共にするパーティーメンバーとなっている。
俺はついさっき探索の話を受けたばかりなのだが、あれから1時間もしないうちにもう出陣。
どうやらギルマスはかなりの脳筋なのかもしれない。
町の西門を出てダンジョンへ。
ダウィシエさんは脳筋戦士、ロアさんは斥候職、俺は…… なんだろう? 今のスキル的には魔法戦士だろうか?
ヒーラーはいない。できれば揃えたい人員らしいが、そもそも希少な能力で、この町にはレベルが見合う人がいないのだとか。この町では俺達3人のレベルや能力が突出しているという。ちなみに俺のレベルに関しては、大まかには2人に伝えてある。
ロアさんもかなり強いらしいのだが、ではなぜそんな人物が受付嬢をしているのやら。基本的にはロアさん、この町に来てからは表立って戦いに出ることはしなかったようだ。
ギルマスはしばらくずっと1人で戦うことが多かったらしく、今回は久しぶりのパーティーで喜んでいる。
さて、実はこの一件の事を聞いた聖女エルリカ達も、探索メンバーに志願したそうだ。
だけど彼女は結局、加入をお断りされたらしい。
当たり前だが、レベル的にも実戦経験的にも無理だという事だそうだ。
聖女からしてみれば、町の危機に立ち向かうべきなのは自分たちであって、断じてエフィルアなどという薄汚れた不審者には勤まらないのだと考えているらしい。
もっとも、町の人々の中にも同じような考えをする人間は多いようだが。
そんな状況もあって、俺達以外にもいくつかのパーティーがダンジョン探索に向かう事になっている。
そのうちの1つが、栄光の聖女さんチーム。
念願かなって探索はさせてもらえるようだ。
領主である剣聖家からの護衛も付けての参加だそうで、気合と人員は十分。
ぜひ頑張ってほしい。
出来ればどんどん先に進んでもらい、俺達は入り口あたりでお茶を濁しておきたいものである。
しかしそんな願いも虚しく、俺達のパーティーは一番乗りでダンジョン前の架設駐屯所へと到着した。
とにかくギルマスの行動はやたらに早い。
「それでは行こう。エフィルア、ロアそれと……」
「トカマル君ですよ」
ダウィシエさんの目線は俺の頭の上に向いていた。
これで合計4名。俺達は昨日ぶち破った壁を抜けて地下へと降りていく。
互いの能力についてはある程度の情報を交換済みである。
「たいした敵はいませんね。このあたりの魔物は後から来るパーティーに任せても良いと思います」
「そうか、ならば一気に進んでしまおう」
ロアさんが索敵し、ダウィシエさんは剣を抜き、適当についていく俺。
ロアさんは探知スキルで魔物や道順、それから魔物の張った罠なんかまで調べてくれる。多少の魔物が現れても、出会い頭に敵を軽く粉砕してゆくダウィシエさん。
「滾る、血が滾るぞ。これでこそ冒険者。未知の魔物との戦い、そして戦い。血が滾るぞ」
ダウィシエさんは非常に溌剌とした笑顔で汗を輝かせていた。
楽しそうである。
トカマル君もヤル気満々。人間姿になって元気良く魔物を葬ってゆく。
たくさん魔物を倒して、もっと強くなりたいのだそうだ。
入り口付近にいるのは、やはり人面獣の群れが多かった。
新種の魔物として認定されたそうだが、強さ自体はそれほどのものではない。
暗闇に潜まれると厄介かもしれないが。
さて、俺の出番はあまりない。ただ適当についてゆく感じだ。
すこし暇なので、【魔導視】を発動しながらロアさんの探知術を見学させてもらう。そして見よう見まねで俺も練習をしてみる。
俺にも【魔力探知】というスキルはあるのだが、それとはかなり違う構造の術だということだけは分かった。
ちなみに俺の魔力探知は、壁があったり階層が分かれていたりすると、その先はかなり見通しが悪くなる。
そのあたりの精度や探知範囲は彼女のほうが断然上だった。しかも、これを真似しようと思っても簡単には出来そうになかった。
ロアさんの使う特殊な探知術は、ただ魔力だけを感知するわけではない。
どうやらそれ以外ににも、視覚、触覚、嗅覚、味覚、聴覚の五感全てを遠くにまで飛ばして感じているように思える。魔法というよりも、特殊能力という表現のほうがしっくりくるような代物だった。
さらに今回、ロアさんは弓をメイン武器として持ってきている。
使うのは物理的な矢ではなく魔法の矢だ。たくさんの矢を持ち歩かなくて済む優れものなのだが、これが探知スキルとも相性が良いのだとか。
弦を軽く引いてビンッと放つ。飛んでゆくのは探知の矢。あれに彼女の五感と魔力が繋がっているらしい。
弓は探知術をより遠くに飛ばすためにも使えるのだという。
これが面白そうな術だったので、俺も少しだけ試させてもらうことに。
彼女の放つ矢に、俺の【魔力探知】の術も乗せてみてもらったのだ。
「え? そんな事出来ますかね?」
彼女はそう言ったが、やってみると…… それなりに出来た。
だがしかし、うひぃ、ちょっと微妙だなこれは。気持ち悪いほど遠くにまで手が届いたような感覚が俺を襲う。
いかんなこれは、神経が付いていかない。
「ロアさん、良くこんなのを平然とやってますね」
「そうですか? 生まれつきの体質ですからね。とくに何ともないものですよ」
俺の場合ただの魔力探知。彼女はそれ以外に複数の感覚を同時に飛ばしてるのだから、もはや別の生き物のようにしか思えない。
さて、そんなこんなでダンジョンはあっという間に地下3階層へ。ここまでに出てくる魔物の特徴としてはと…… アンデッド系が多いということくらいだろうか。
この様子では魔物肉やその他の有用な素材を手に入れる機会は極端に少なそうだ。さすがにこの世界の人々もゾンビの肉や骸骨の骨は食べないからな。
どうやら全く素材の獲れない儲からないダンジョンとなっているらしい。
もちろん俺にとってはゾンビだろうがなんだろうが関係なく、魔石は相変わらず採集できているから問題ないが。他の冒険者達にとっては地獄かもしれない。
4階層に進んでも出現するのはスケルトンだのゾンビだの低位スライムだの。オークと同じようなレベルのアンデッド系魔物だけだった。
動きは遅いがひたすらタフというのがアンデッドの特徴だが、それでも流石にギルマスの圧倒的な破壊力の前では無力だった。この町の最高戦力だというだけの事はある。
さらにトカマル君の【魂魄奉天】という特殊技能もあるから、ある程度のダメージを受けたアンデッドは彼に吸い込まれて昇天しまう。サクサクと探索は進む。
ゾンビなんかは胴体を爆散させても上半身と下半身で分かれて別々に動いて襲ってくると聞いていたのだが、残念ながらそんな姿を見ることは出来なかった。あっというまに蹴散らされてしまっている。
俺はもう、ただの魔石回収役である。
引き続き100%に近い魔石採集率なのだが、ときどきダウィシエさんがやりすぎて魔石ごとモンスターを粉砕してしまうこともある。
はじける笑顔で骸骨を粉微塵に蹴散らすダウィシエさんだった。
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