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15 聖なる回復魔法

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「ハァっハァ ふ、ふんっ、なによ大げさね、あれぐらいで情けない」
 聖女エルリカはそう言いながら仲間の傷を回復魔法で癒していた。

 俺が森の中から外に出ると、彼女はそれに気づいて眉間にグイとしわをよせる。

「あら? なぁに? 生きてたの? あんなふうに私たちに迷惑をかけておいて?! 森の中で無計画に暴れまわって?! のうのうと生きて帰って来たってわけ? 馬鹿じゃないの? 分かってるの? あの時あんたが無駄に騒ぎ出すからこんな事になったんだからね?!」
「おお、そうだぞっ」「そうよ」「そうね! 死になさいよ!」「うん,そうだな」

 まあね。
 彼らを助けたところで、こんな事になるのは想像がついていた。思ったよりも少しだけ酷かったけどな。

「ふん! 全部あんたのミスだけど、傷を負ったって言うのならしょうがないわ。じゃあ! 私の聖属性・・・魔法で治してあげるわよ!! それでいいでしょ!!?」

 聖属性魔法で回復? それって……
 それは唐突な出来事だった。俺の脳みそは彼女の思考をまるで理解できずに、一瞬固まってしまう。 

「それもさっき覚えたての、ハイヒールよ! 遠慮はしないでちょうだい、ちょうど良かっただけだから。どれくらいの効力があるのか試してみたかったし? あんたに使ったらどうなるのか試してみたかったし、気分もすっきりしそうだし!」

 聖女エルリカは、ニマァァと口角を大きく上げて不気味な笑顔を作る。
 彼女の杖が白い魔法の輝きを放った。

 トカマル君は俺の前に飛び出して守ろうとしてくれたし、俺もかわし始めていた。
 だが、その回復魔法はすでに完全に俺を補足していた。

 神聖な光の波が俺の全身を包み込む。
 闇属性持ちには効果絶大だという、聖なる光だ。
「ッ!」

 声が出なかった。
 筆舌に尽くしがたい苦痛が全身を襲っていた。
 それは長い長い一瞬の出来事だった。
 瞬きをする暇もないほどの一瞬に体中が焼け焦げてゆき、地面に倒れる暇もなかった。


「あらあら意外と強力ね、この魔法。でもねぇエフィルア? アンタやっぱり邪悪な存在ね。なーんで神聖な私の魔法でそんなふうになっているのよ? だめじゃない。もっと早く私の言うことをちゃんと聞いて、素直に大人しく従ってウチの神殿に捕まっていれば、もっとちゃんと清めてあげたのに。もちろんそれが上手くいかなくたって、利用価値はあるのよ? アンタみたいな何処の誰かも分からないような下男にもね。もしギルドのあのクソ女が邪魔しなければ、有意義に使ってあげたのに。ふふふっ あは、あははははぁっ あーあ、つまらないわね、はははッ」

「「「あっははははは はは は?」」」

 奇妙な乾いた笑いが青空に響いていた。

 ああ、これはちょっとまずいかな。
 まさか異世界に来て、こんな形で殺されかけるとは思ってはいなかった。魔物にでも食い殺されるかと思っていたが。
 トカマル君があわてて俺を抱き支えたのが見える。

 まずい、まずい。ちょっと本気で回復させないとならないな。
 そう思っていると、何処か地の底のから地獄の業火が爆炎をともなって込み上げて来るような感覚を覚えた。
 それは【着火】の魔法を練習していた時の感覚にも似ていたが、あの時とは違って、今はもう抑えている場合ではないなということが本能的に分かっていた。膨大なエネルギーが噴出してくる。

 あいかわらず聖女の喚き声は聞こえている。

「ねぇ、見なさいよ。見て、あの姿。なんだかおかしくない? ほら、焼けた頭が角みたいに尖ってる。足なんて獣のように見える」
「おお、本当だな。やっぱりコイツは魔物だった。少なくともな、人間なんかじゃない。聖女の回復魔法でダメージを受けるような不浄なやつは、あの町にいるべきじゃあないぜ」
「そうよ」「そうだわ」
「汚らわしい…… なあ、もうコイツは放っておかないか? 町からは締め出せばそれであとは勝手にするだろうさ」

「ん~、そうねぇ。それも面白いかもしれない。ただしシオエラル、あんたのとこでやっておいてちょうだい? 他所の町でもこいつを受け入れないようにね」
「うんうん」「そうだね、それがいいね」

 俺は目を開ける。
 身体は炭のように焼けていたが、不思議とすでに苦痛は消え去っていた。

 空は黒く、大地は紅く変化している。



 
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