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9 大家さん
しおりを挟む「ヒィェッ ヒェッ ヒェッヒェッ。あんたがエフィルアかい? ああ確かにこれは面白そうな小僧だ…… あの娘らの言うとおり、本当に掘り出し物かもしれないねぇ」
大屋さんの営む雑貨店を訪れてみると、魔女みたいな喋り方をする女性がでてきた。
見た目は魔女というよりも闇商人。怪しげな道具を無数に身につけている。
綺麗な人ではあるが、それ以上に怪しさが抜群。
40代くらいに見えるが、そうではないようにも思える。
彼女は値踏みするかのような目つきで俺の事を眺める。
それからすぐに賃貸契約の術式を準備しはじめた。
懐から巻物が取り出され、俺はそれに手の平をかざして魔力を軽く流し込む。これで契約成立らしい。
家賃は1ヶ月(30日)で3万ロゼだった。
10日分で借りると少し割高になって1.1万ロゼ。
いずれにせよ、モリモリ草の採集依頼を毎日1回以上こなせば家賃は払えることになる。食料は角ウサギか魔狼の肉だけは手に入るのだし、このくらいなら俺にも払えそうな金額である。
今はたまたま獲れた魔石も2つあるし、これを売却して10日分の家賃を払ってしまおう。
大屋さんの雑貨店での魔石の買取価格は1つ1万ロゼだった。昨日ロアさんが言っていたギルドでの買取価格と同じだな。
「それではこれでお願いします」
「さっそく家賃を払えるとは驚きだね。1か月分までならギルドのほうで立て替えておくって話だったんだけどねぇ」
「たまたま良い魔石が獲れたのですよ。あるうちに払っておきますね」
「ヒッヒッヒ そうかい。まあなんだっていいさ、頑張ってお稼ぎよ」
大屋さんは不気味に笑って、それから紙にくるまれたパンのようなものをくれた。
これはティーギだ。パンみたいな肉である。
ギルドの売店でも見かけたが、まだ食べた事はない。確かひとつ600ロゼくらい。コッペパンくらいのサイズでその値段というのは中々の高級品だと思う。
「遠慮せずに持っておいき。うちのティーギは美味いからね。きっと次回は買うことになるよ? ひゃっひゃっひゃ」
どうやらこれは試食みたいだ。俺が客になると思ってくれたようだ。
ティーギ自体には味はあまりなくて、塩辛い干し肉なんかと一緒に食べる物らしい。
そうそう、塩だ。ついでに塩も買っておこう。家賃を支払ってもまだ1万ロゼくらいは残っているからな。
塩は小袋1つで3000ロゼだった。握りこぶしサイズの袋である。
低級魔物肉がただ同然の値段であることを考えると、それなりの高級品。大事に使わねば。
「ひゃっひゃっひゃ、まいどありぃ」
他にもいくつか気になる雑貨はあったのだが、とりあえず保留。
杖や剣なんかも置いてあって、雑貨店というよりも何でも屋のようだった。
俺が密かに心引かれていたのは魔法の杖だったりするが、結局は、錆びた中古の長剣を購入した。なにせこの剣は価格が安い。おんぼろ特価で驚異の5000ロゼなり。
刃こぼれも酷くて切れ味には全く期待できないが、芯の部分は分厚く頑丈なので、少なくとも硬い棒としては使えそうだ。
【朽ちかけた長剣】
微量の劣化魔銀が含まれた鋼の剣。盛大に錆びている。
これを手に握った状態でステータスを見てみると、
UP【攻撃力】18→ 21
ちょっとだけ数値が上がっている。
他の高級な剣でも試してみたのだが、結局これが一番コストパフォーマンスが良かった。魔法の杖にも特売品はあったのだが、残念ながら俺が装備しても効力が無さそうなものばかりだった。
大屋さん曰く、武器と使用者には相性があるらしい。
例えば拳で戦うのが得意な人が、剣を装備しても強くはならないという。
当然と言えば当然か。
そして俺の場合、とりあえず硬くて丈夫な素材の武器が相性が良かった。
「あんたの場合、もともとの拳や皮膚や骨格が頑丈すぎるさね。半端な強度の武器じゃあかえって弱くなる」
そういうことらしい。
さて、そんな感じで店内を見せてもらった後に、俺は例の雑巾についても聞いてみる。すると、彼女の目が大きく見開かれた。
「ほぉう、あれを使えたのかい。そうかいそうかい、もはや人間には力を貸さないと思っていたけどね。あの九十九神の声があんたには聞こえたかい」
「まあ聞こえたというか、使うように迫られましたね」
「ひゃっひゃっひゃ、それならね、あれはあんたが持っておくのがいい。持っていきな」
ぬぬ、良いのだろうか? あんな超絶性能の雑巾神をもらって良いのだろうか。
逡巡する俺を見て大屋さんは言葉を続ける。
「いいかい? あれは名も無き小さな九十九神だけどね、それでもやっぱり神さんは神さんさ。神さんが誰にどうやって力を貸すかは、私らが決められることじゃあない。これもご縁てやつだ。しっかり頼むよ」
ううむ、超高性能な掃除道具を入手できてラッキー、それくらいに思っていたのだが、そうか、九十九神はれっきとした神の一種なのだな。
日本ではちょっとした妖怪としての立ち位置になっていると思うが。
「まああんたはアレの声が聞こえるんだからね、普通に接していればそれでいいんだよ。ほれ、そっちのトカゲ精霊だって似たようなもんさ」
大屋さんが指差した先。それは俺の頭の上で、そこではトカマル君が涎をたらしてうたた寝していた。
「そんな風によだれまみれでも、精霊だって自然神の一種に含まれるんだけどね。あひゃっひゃっひゃ」
トカマル君と同じでよいと言われれば、それはもう俄然気楽なものである。
いやまてよ、あの雑巾さんからも食べたいものを色々とリクエストされたらどうしよう。けっこう大変かもしれないぞ? うちはトカマル君だけで手一杯ですから。
とまあ、そんなところで俺達は大屋さんの雑貨屋を出てギルドへ。
ギルドではもちろんアンデッド関連の下調べと、討伐依頼の受注を済ませる。
さあ、それではトカマル君のゴハンを採りに行こうか。
「あーんでっどー あんでっどー パックパクむっしゃむっしゃアンデッドー」
俺の頭の上では陽気な歌が響いている。
ウキウキのトカマル君である。
洞穴は歩いてすぐの場所にある。
そこには数人の兵士がいて入り口を封鎖していた。
アンデッドモンスターが発生しているというのは、この入り口を通り越して、その裏にある小さな林。ギルドの依頼書にはそう書かれていた。
実際に到着してみると、そこは林というよりは荒地だった。
噂どおりのアンデッド地帯になっていて、なんだか昼間だというのに薄暗いのだ。
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(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
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