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7 魔石って

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 こんな薄暗い墓場まで、女子1人で俺達の様子を見に来てくれたロアさん。
 実は彼女も冒険者ギルドに住んでいるらしい。俺達がギルドからいなくなっているのに気づいて見に来てくれたという。
 そして…… なんと日常生活に使う程度の基本的な魔法は使えるのだそうだ。

「いやあ、すみませんね。助かりました」
「これぐらい、なんでもありませんよ」

 彼女は見事に火の玉を操って見せた。それで肉を上手に焼いてくれたのである。

「すごいですね。日常魔法っていうからもっとシンプルなものかと思いましたが。見事なものです。この炎さばきは」 
「ふふふ、大げさですよ。これぐらいなら誰だって出来ますから。でもごめんなさい、お塩も持ってくれば良かったですね」

「いやいや、焼いてもらっただけでも有り難いんですから……」
 などといいながら、俺とトカマル君は魔狼の肉にかぶりついた。

「あんまり美味しくないですね」
 トカマル君、ハッキリ言い過ぎでは? せっかく焼いてくれた人の前でそういう事を言ってはいけないと思うのだけど。

「魔狼肉ですから、美味しくはないかもですね」
 ロアさんはそう言って笑っていた。
 まあ実際、美味しくはなかった。いや、不味かった。

 ジャッカロープの肉もそれなりの味だったが、魔狼はよりいっそう微妙な味だった。臭みが強い、そして筋っぽい。せめて塩、香辛料があればなぁ。それが正直な感想である。

 それでもお腹はすいている。モリモリ食べる俺。そしてトカマル君。
 トカマル君は途中で肉から離れて、魔石喰いタイムに突入した。
 今日は全部で7個の魔石が収穫できている。

 魔石が獲れる確立は高くないはずなのだが、今のところ倒した魔物の全てから魔石が見つかっている。同じ種類の魔石でも質によって価値は違うらしいから、こんな簡単に採れるような石はノーカウントなのかもしれないが。

 まあいいさ。とりあえず5個はトカマル君に食べさせる。
 彼はまだまだ弱っちいからな。
 たくさん食べて成長して、一緒に戦えるようになってくれると嬉しい。
 

 俺は魔石に魔力を流し込んで、トカマル君の前へ差し出す。
 パクパク そしてモシャモシャ。

「エフィルア様、見てください見てください~」

 食後のトカマル君。今日も元気にレベルアップ。順調である。

 【名前】トカマル
 【種族】冥界ジュエルサラマンダー
 【職能】未設定
UP【LV】8→ 12
  ---------------------
UP【H P】 8→ 12
UP【M P】14→ 19
UP【攻撃力】 8→ 13
UP【防御力】 8→ 12
UP【魔 力】16→ 21
UP【速 度】10→ 15
 ---------------------
 ◆スキル一覧

 ◆特性・属性・耐性
【宝玉喰い】
【魂魄奉天】



「今日は何だか力が強くなったような感じがします」

 トカマル君はそう言いながら、前足を振ったり口をパクパクさせて動きを確かめている。数値の伸びを見ても、攻撃力の上昇幅は確かに大きくなっている。

「この石を食べると力がモリモリになります」
 魔狼の魔石か。魔狼は確かに攻撃力特化型の魔物。やはり食べ物によってトカマル君の成長は変化するようだ。
 それでも相変わらず一番成長しているのは魔力とMPなのだけれど。

 さて、そんな食事を終えた俺達だったのだが、ロアさんは首を捻って様子を見ていた。

「ロアさん、どうかしました?」
「ええと、気になる事はいくつか有るんですけど、1つだけ聞いても良いですか?」

「はいどうぞ、なんなりと」
「あの、エフィルアさんて何故そんなに魔石を持ってるんですかね? たとえ下級モンスターの魔石だとしても、それなりの貴重品ですよ? めったに採集できる物じゃないです。レアアイテムです」

「ははあ、それですか。実は俺もロアさんに聞いてみようと思っていたところなんですけどね。なんだか魔石は多めに獲れてはいるんです。きっと質や価値は低い石なのでしょうけど」

「え…… なるほどそうですか…… はっきり言って、ここまで完全な形の魔石はめったに出ませんね。ギルドの買い取り価格だと…… ジャッカロープの魔石も狼の魔石も1つ1万ロゼになります」

 むむ、驚愕の事実。これはなかなかのお値段である。
 今日一日頑張った薬草採集依頼の報酬が2000ロゼだった事と比べると、とんでもないお値段である。石は全部で7個。7万ロゼになる。
 ただし、もうすでに5万ロゼ分はトカマル君のお腹の中に消えてしまっているのだ。これは驚愕の事実である。

 弱っちかったトカマル君が、あっという間にレベル12まで上がったのにも納得である。これだけ高価な食材だったのなら、あの成長も納得である。いや、そういうものなのか分からないけれど。

 ちなみにロアさんから見ても、やはりトカマル君のレベルの上がり方は異状らしい。いくら人間とは違うとはいっても、そう簡単に上がるものではないらしい。
 変なトカマル君である。

 彼は満腹になったのか俺の頭の上に登って寛いでいた。
 それから寂れた墓のほうを眺めて、スンスンと鼻を鳴らす。

「古いアンデッドの魂もあれば、それも食べたいです。エフィルア様」

 まだまだ食いしん坊なトカマル君だった。
 しかし残念ながら、この墓地にはゾンビもスケルトンも湧いてはいないようだった。

「アンデッドの? 魂? トカマル君はそんなものも食べるの? ふむむむむ」

 ロアさんはなんだか楽しそうにトカマル君に詰め寄った。
 アンデッドの魂を食べるだなんて、忌避されるような事かと思っていたのだけど、彼女は単純に興味を示しているようだった。

「アンデッド退治って面倒なんですよ? なかなか倒しきれないし、何度も蘇ってくるし、収穫できる素材は少ないし。普通の冒険者たちは敬遠する相手です」

 とにかくトカマル君にはアンデッドの霊魂が必要なのだという事が分かると、彼女は1つの情報を教えてくれた。

 最近町の近くに出現したという洞穴の周りには、アンデッド系モンスターがよく湧いているそうだ。

「本当ですか? じゃあ行ってみましょうよエフィルア様!」
「そうだね、明日にでも行ってみようか? ただし、出現している魔物の強さとかを調べてからだけどね。それであんまり強かったら行けないかもしれないよ」



「ん~~、分かりました。行けるといいなぁ。バランスよく栄養がとれたら今よりもっと格段に力が増すような気がしてるんです」

 トカマル君は育ち盛りだからな。しっかり食べないといけないのだろう。

「エフィルアさん。もしアンデッド退治に行かれるようでしたら、ギルドで討伐依頼を受けていって下さい。あそこのアンデッドには高めの報酬が出ていますから。でも2人とも気を付けて下さいね。エフィルアさんなら十分戦える相手だとは思いますけど、大人数に囲まれると厄介なんです」

 報酬がでるのか。どうやらそれだけアンデッド討伐は人気が無いらしい。
 魔狼やジャッカロープなら低級とはいえ肉や角、毛皮なんかが採集できるけれど、スケルトンやゾンビでは流石に食べるところも無さそうだ。

 魔石だけは他の魔物と同じように獲れるそうだから、もしかしたら報酬と合わせていい収入になるかもしれないな。


「僕、もっと大きくなって強くなるんです」
 俺の頭の上で猛っているミニトカゲさん。

「そうだなトカマル君。強くなって俺を守っておくれな」
「もちろんです」
 小さな両腕を曲げて力こぶをアピールするミニトカゲさん。
 ロアさんもそれを見て微笑ましげにしている。

 町外れの寂れた墓地の隅っこ。
 なんとなく、悪くない夜だと思えた。
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