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4 ギルドマスター
しおりを挟む「エフィルアか? 入ってくれ」
扉の向こう側から声をかけられる。中に入るとそこには、やたらに露出度の高い女性がいた。この町のギルドマスターだ。
この世界の冒険者達は、男女問わず軽装な人が多いように思うが、彼女は一段と薄着である。そして、戦士としても女性としても迫力満点だった。
非常に俗物的な表現をするならば、彼女は背も筋肉も大きく、そして胸も尻も大きかった。巨大であった。
女傑、グラマラス、最終兵器。そんな表現がしっくりくる。
頭の中を駆け巡る無駄で意味不明な描写に終止符を打ち、俺は部屋の中へと歩みを進める。
「よくきてくれた。あらためて挨拶をしよう。私はこの町の冒険者ギルドを任されているダウィシエという。職能はアマゾネス。近接戦闘で敵をなぎ倒すのだけが趣味のつまらない女だ」
つまらない女というよりも、物騒な趣味だなと思う。
彼女の言葉を裏付けるように、部屋の壁には斧槍や大剣、戦斧、長刀のような物などなど、巨大な武器の数々が陳列されている。
「最大火力こそが女のロマン。そうは思わないか」
よく分からない人である。
ハルバードを手にして頬ずりまでし始めた。
やや変態的な感じがする。
「それで君はたしか…… 空間転移の事故でここに来たと言っていたな」
彼女は話を続けながら、途中でハルバードの刃をペロリとひと舐めした。
いよいよもって変態感が際立った。
いや、もしかするとだが、これは挨拶なのかもしれない。異世界流の挨拶なのかもしれないな。だとしたら俺も武器に頬ずりをしてから、ひとなめした方が良いのだろうか?
戸惑う俺を他所に、そこから先の話は至って真面目なお話だった。
俺がここへ来た経緯なんかをあらためて確認したかったようだ。
俺が何処か未知の場所から突然飛ばされてきたというのは意外とすんなり受け入れられた。聖女も言っていた事だが、やはり転移事故という現象はそこまで珍しくはないらしい。
「問題は闇属性のほうだな。その魔力は人間に対して不快な感覚をあたえるのだよ。例えばそれはチリチリと肌が焼けるような感覚だったり、あるいは驚異の対象がそこにいるのを知らせるような感覚だ。まっ私はそんなに嫌いじゃあないんだがな。身を焦がすような戦いへの陶酔感を思い出させてくれるからな。ふふふ、ふふッ」
「なるほどそうですか。俺としては意図的に何かをやってるわけでもなくて、気がついたらこうなっていただけなのです」
「そうか。ただ、近頃はこの付近で妙な事件が頻発していてな。住民の警戒感も高まっている。もしかすると、君自身も何かそういうものの影響を受けた被害者なのかもしれんが」
「事件ですか?」
「ああ、行方不明者、魔物の変異種、アンデッドモンスターの発生、魔道具の故障、そのた諸々だな」
「なるほど」
「ふぅ、まったく頭の痛い問題ばかりでな。私なんぞにはどうにもならん事だらけだ。ああ、少し前までは私も、ただ戦いの修羅道に邁進していただけだったのに。なぜこんな面倒な立場におかれてしまったものやら」
ギルマスさんはハルバードにもたれかかって、小さなため息をついた。
「おっと、つまらぬ事まで話してしまったな。そんなことよりあれだ、今晩は泊まるところもあるまい? とりあえずこの部屋を使ってくれ。ああ~、町には宿屋もあるんだがな…… すまんがそっちは使用できそうになくてな」
彼女ははっきりとは言わなかったが、やはり闇の魔力とやらのせいなのだろう。俺が普通の宿屋に泊めてもらうのは難しいようだった。
結局、今日はここに泊まらせてもらうことになった。
それから日が暮れて、神官らしき男と町の領主らしき男が揃って顔を覗かせた。ギルマスと何かを話していたが、しばらくしてから出て行った。
晩御飯は自分で獲ってきたウサギ肉があったので、ギルドの炊事場を借りて丸焼きにして食べた。
毛皮や内臓の処理の仕方も分からないから、ただただ焼こうと思っていたのだけれど、途中で例の受付の娘が来て処理の仕方を教えてくれた。ありがたいものである。
基本的に町の人間たちは俺を敬遠している節があるのだが、彼女とギルマスは少し変わった人物のようだ。変人だといえる。
そうそう、変わった奴といえばもう1名。トカマル君も傍を離れないで、ほぼずっと俺の頭の上にいる。
精霊なのだから姿を消したりするのだろうかと思っていたのだが、あれからずっと頭の上にいる。居心地が良いらしい。
晩御飯を食べるときだけは頭から降りてきて、2人で共に角ウサギの丸焼きを食べた。美味い物ではなかったが、それでも腹が満ちるのは良い気分だ。
食後にはトカマル君が俺の魔素を飲みたがったので与えておいた。ちなみに“魔素”というのは魔法のエネルギーそのものの事をいうらしい。いっぽう“魔力”のほうは、魔素を操る力の強さのことをいうらしい。
魔物肉を食い、魔素を飲み終えたトカマル君。彼の手乗りサイズの小さな身体が、また少し逞しくなったような気がした。
「エフィルア様。この石も食べて良いですか?」
トカマル君は俺の魔力を吸ったあと、今度は角ウサギの身体の中から出てきた白銀の石を咥えてきた。
どうやらこれは、受付のロアさんが言っていた魔石らしい。
魔物の核のような物質で、質がよければギルドや商店でも買い取ってくれる。
必ずしも完全な形で体内に存在するわけではないと聞いていたのだが、今回は運よく2羽とも魔石を持っていたようだ。
魔石は魔導具を作るための材料にもなるらしいが、今のところ使い道があるわけでもない。食べたいのならば別にかまわない。まったく食べれる物には見えないが。
魔物の体内から出てきた固そうな石を、トカマル君はパクリと一口で平らげた。
もう1つも食べたいと言う。今度は俺の魔素を魔石に少し流し込んでくれという。そのほうが美味しくなる気がするというのだ。やってみる。
そしてパクッ、モグモグ。
「エフィルア様見てください、見てください!」
はしゃぐトカマル君。どうやらステータスを見てくれという事のようだ。
しかし、見てくれといわれても? どうやって?
とまどっているとトカマル君は教えてくれた。
自分自身や契約精霊のステータスは、見たいな~と念じれば見られるのだと。
他人のステータスは普通には覗けないらしい。
「どうですか? まだ弱いですけど、でもエフィルア様に会う前はレベルもステータスも全部1だったんですからね」
【名前】トカマル
【種族】冥界ジュエルサラマンダー
【職能】未設定
【LV】8
---------------------
【H P】 8
【M P】14
【攻撃力】 8
【防御力】 8
【魔 力】16
【速 度】10
---------------------
◆スキル一覧
◆特性・属性・耐性
【宝玉喰い】
【魂魄奉天】
昨日まではレベル1で、今は8か。
ちなみに俺のステータスをあらためて確認しても、特に変化は無いようだ。
ふうむ、おかしいな。たしかレベルというのは、魔物をたくさん倒すことで徐々に上がっていくものだと聞いたのだが。
あるいは、自分よりレベルの高い魔物を倒すと、一気に数レベル上昇することもあるそうだが。その場合は、もちろん返り討ちに合って殺されるリスクも高くなる。
【レベル】は別名、内在魔素量とも呼ばれる。体内にある魔法的エネルギーの総量の事だそうだ。細かい話は良く分からないが、とにかく格上の相手を倒した場合には内在魔素量が大きく増加するらしい。
ちなみに俺は角ウサギを3体倒したが特に変化は無し。それに比べてトカマル君はほぼ食っていただけで7レベルも上昇していることになる。
「そういう種族なんです。食べた物によっても成長具合が変わってくるような感じがします」
彼の今のステータスの中で、魔力とMPの数値が高めなのは俺の魔素をたくさん食べた影響なのだという。速度の成長は角ウサギの魔石を食べた効果っぽいと分析していた。
「はぁ、ちょっとお腹いっぱいですけど…… あとは霊魂も食べられたら完璧かもですね」
あの小さい身体で散々飲み食いしたというのに、トカマル君はまだ食べたいらしい。それも霊魂。食べて大丈夫なんですかねそれは。俺はもしかして、とんでもないトカゲを拾ってしまったのか。
「ん? どうしたんですかエフィルア様? ん? あ、霊魂を食べるって言ったって、そんなんじゃないですよ? 魂を永久の軛で縛り付けるようなタイプのじゃないんですから。ふっふー」
トカマル君は、顔の前で短い前足をブンブンと振っていた。
もともとは冥界の生き物である彼。向こうでは死者の魂を食べて消化することで、輪廻転生システムの一端を担っていたらしい。
古くなった魂を新たな生命に造り変えるのだという。
「地上で食べるなら古いアンデッドとかが最高ですかね? どうですかね?」
いや、どうですかねと言われても、全然わかりませんが。
まあ、アンデッドの出没情報もあるようだし、少しばかり見に行っても良いとは思う。
トカマル君の成長には必要な栄養素だと言うのだからな。
そんな感じで俺達の奇奇怪怪な晩御飯は済んだ。
最終的にウサギ肉は1つだけ残しておいて、あとの2つは食べてしまった。ついでに鋭利なウサギ角も2本回収できた。
【ジャッカロープの角ナイフ」
魔素伝導性は低く、武具の材料には適さない。日常使いの使い捨てナイフとしては有用。
なんとも微妙な鑑定結果。とりあえずインベントリにしまっておいた。
ふぅ、お腹も満ちて一息つく。
ギルマスの部屋の窓から空を見上げると、夜空に輝く星々は地球から見たときよりも強く妖しく光っているように思えた。それでも、星空は星空だった。
トカマル君はまた頭の上に登ろうとして、俺の腰あたりでジタバタしている。なんだか動きがぎこちない。
急激に身体能力が上がったせいでまだ上手く動けないようだ。コテンコテン倒れるのが可愛らしい。
そうか、やたら俺の頭の上に居座っているのも、まだ身体が上手く動かせていないからなのかもしれないな。
すっかり夜も遅くなる頃まで、ギルマスはこの部屋から出て行ったりまた戻ってきたりを繰り返していた。今もまだ机に向かって仕事をしている。
「エフィルア、今日は疲れただろう? かまわず先に寝てくれ。まともな寝床が無くてすまんがな」
少し気は引けるが、お言葉に甘えて先に眠らせてもらう。
執務室のとなりに小さな仮眠スペースがある。
身体は不思議と疲れを感じていなかったが、本当のところ俺の頭の中は少しばかりゴチャゴチャであった。眠らせてもらおう。寝るってのは素晴らしい事だ。なんとなくすっきりするもんだよ。
フサフサした白い毛皮の敷かれた簡易ベッドで、俺はトカマル君と共に眠りについた。
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