闇属性で虐げられたけど思い切って魔神になってみたら ~冥府魔界と地獄の祀り上げ~

雲水風月

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1章 魔神引っ越し

第23話 再び

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「広すぎたでしょうか? エフィルア様」

「だと思います」
 なにせ城を隠す目的の結界なのだから、城の周りだけ囲えば良かったのではなかろうかと俺は思う。

「見て下さいダフネさん。結界の内側に人間の町が入っちゃってるんですよね。ほらあそこ、町の人達が余裕でこっちを見上げちゃってます。あそこからこっちが見えてますよね」

「ああー、それですか? 私どもとしては、なるべく大きいほうが良いかと思いまして。どうせ中に含まれている人間達になすすべはありませんので大丈夫です。あの人間たちは外に出る事はもちろん、外部と連絡をとる事も不可能なのです」
 
 キリッとした表情でメガネをグイっとするダフネさん。

「エフィルア様、エフィルア様! 凄いですね、凄いですね!」
「かっこいい! かっこいいですね! 最高ですよコレ!」

 巨大オオカミロアさんと、厳つい鎧トカマル君コンビが喜んで駆け回る。
 えー、そうなの? そうなのか。これ良いのか?

 ダフネさんにしても、“ですよね、かっこいいですよね”的な雰囲気でうなずいている。

「エフィルア様。この認識阻害の闇の結界はですね、瘴気を素にした微粒子なのですが、人間の健康にも害はないという優れものなのです。それでいて認識阻害だけにとどまらない各種機能まで備えているのです」

 得意げに語るダフネさんである。

「しかもですね、内側から外に向けては、視界も何もさまたげることがありません。もちろん物理的な障壁も完備しております、見てくださいあの溶岩流を。あ、もしかしてエフィルア様、対空の防衛装置についてご懸念でしょうか? それでしたら、もうすぐに・」

 ピシャッ ゴロォォン  ピシャアッ ゴロォォォン
 暗雲を割るような稲光が、間断なく荒れ狂い始めた。

「はい。ちょうど機能し始めたようです。結界を抜けてきた空中からの外敵に対する防衛装置でございます」

「「おおお~~~~~~」」
 目をキラキラさせてリアクションするロアさんトカ君。

 んー、ちょっと俺が思ってたのとは違ったかなー。
 これ派手じゃないかなあ。規模がさ。

 そうか、しまったな。これはコミュニケーション不足だったのかもしれない。
 感性がな、けっこう違うんだよな。
 ただでさえ生まれも種族も違うのだから。

 でもまあ、いいか。良くあることか、こういった行き違いというものは。
 それに、冷静に考えてみれば機能的には問題ないみたいだしな。

 ただ俺の住処は地下に作ってもらいたい。静かで落ち着いた、雨漏りのない場所が良い。後でお願いしてみよう。そうしよう。

 よし、そうと決まれば冥・魔・獄の連中から依頼された用事も済ませてしまおうか。
 罪人の引渡し依頼だ。

 これはどうも俺が直接罪人のもとにまで行って立ち会わねばならんらしい。
 ただし現場に行きさえすれば、あとは地獄から官吏かんりが来て仕事を遂行してくれる手はずになっている。簡単なものだな。

「それじゃあ俺は、引越しの挨拶も兼ねて町に行って来ますね」
「「はっ! お供します!」」

 ロアさんが牙を剥き、トカマル君が大剣をギラつかせる。
 牙と大剣を収めさせ、人型に戻ってもらう。

 俺たちはバルコニーから飛び立ち、稲光を横目に見ながら町の方へと向かう。
 本来ならまずは正門の外に降り立って、そこから入ったほうが良かったかもしれないのだが、既に門は閉ざされ兵も集まっている。

 しかたないので中央広場へと降り立つ。
 町の中はパニック状態。怒声が飛び交っている。

「おかしい。ねえ、ロアさん。ギルマスの姿が見えませんよね」
「はい確かに。ダウィシエさんはこういうとき先陣をきって防衛に乗り出すような人のはずです」

 そこで、俺は何か胸騒ぎを覚える。
 ロアさんも同じだったようで、俺が言うまでもなく彼女はダウィシエさんの気配を探り始めている。

 俺のせいで変なことになってなければ良いが? いや、まさか連中もギルマスに対してそれほどの無茶はしないだろう。
 世界的な組織である冒険者ギルドでそれなりに立場のある人だぞ?

「いた、いました。 お そ らく、ダウィシエさんです。聖女の家の地下? ただ、様子が変で、魔力があまりに微弱で・」

 俺はロアさんの言葉を聞き終える前に、聖女家の神殿に向けて跳んだ。
 胸騒ぎがますます酷くなる。こういうのは勘弁してほしい。
 宙で己の身体をミストに変え、扉の隙間から流れ込む。
 ついでに神殿内部の兵力は石に変えて無効化しておく。邪魔だから。

 一気に地下へ。
 妙に長く感じる階段を降りる。
 何かの儀式をするためだろう聖具がそこかしこに並べられている空間が広がり始める。地下神殿だ。

 いた。そこにいたのは確かに、この町のギルドマスター、ダウィシエさんだった。
 はりつけにされ、もはや瀕死のダウィシエさん。
 その身体にナイフを突き立てる男。それを弾き飛ばしながら、俺は身体を実体化する。


「ダウィシエさん」
「       ゛   の 声は エ エフィ ルア 」
 かすかに開かれた彼女の口からは、かすれ、聞き取れないほどに小さな声がもれた。

 ドス黒いモノが腹の中に渦巻くのを感じる。
 俺は回復の術も道具も持っていない。
 ロアさんなら持ってきているはず。上を見上げる。よし、こっちに来てる。

 俺はこの地下室から上に向けて力を放つ。と、同時に、地上からも破壊音が聞こえた。

「エフィルア様! ダウィシエさん!」
 ロアさんが分厚い天井に開いた穴から飛び込んできた。
 それと同時にすぐさま、彼女の手から離れた回復の水薬ポーションの青い液体がダウィシエさんに降りかかる。
 穴の上にはトカマル君が待機しているのが見える。

 そしてこの部屋の片隅には、1人の男と1人の少女。2人は何かを喚き散らし騒いでいる。
 まったくいつものように騒々しい。聖女エルリカと、その親父、神官長ラナリアスだ。
 
 俺の角がどうしただとか、やはり悪魔だったとか、衛兵さっさと来いだとか、殺してやるだとか。
 いつも通りの彼らだな。

 この世界の神官様というのは、国家の官僚としての立場も持つ非常に素晴らしく偉い存在なのだから、もう少し品位を保ってほしいものである。

 今はもう、ただジリジリと後ずさりながら、下品な言葉を並べ立てているだけ。

「エフィールア、お前の両親の事を教えてやろうかぁ? じつはなぁ・」
 そして神官長様は実に今さらな事を言い始めた。これも何時ものセリフだ。
 しかし知ってるんだよな、それはもう。

「本人から直接聞いたよ、大神官様。ああそうだ、あの2人があんたにも会いたがってたみたいでな。そう、そうそう、ちょうど今こっちに来たみたいだなんだ、ほら、お前の、後ろに」

「ああ? 何をば・」
 神官長様は言葉を詰まらせ、振り向かない。

 いっぽう娘の聖女エルリカ様は部屋を抜け出そうとジリジリ動いている。しかし、上に逃げる通路は残念ながらそちらにはないようだ。
 ひとまずお前に用はないから少し待っていてほしい。

「 あ ああ?」
 神官長様は何かがいる気配だけは背中に感じているようだ。そして、それが普通の存在ではない事くらいは何とか察知できたようである。そのまま身じろぎもしない。

 彼の右後方には、最近デスナイトになったという我が親父様の姿があった。
 怨怨オンオンと禍々しいオーラが渦巻く甲冑の奥から、瞳無き骸骨の眼窩がんかが凛々と覗いている。
 
 左後方には、死のように冷たい冷気をまとったローブの女性。そして、その形無き手が、神官長ラナリアスの肩に触れようとする。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
 ラナリアスが変な声を挙げて前方に転がる。びびリすぎである。
 お前の声のほうがよっぽどホラーだ。どこからその奇妙な声を出しているんだよまったく。
 大丈夫だよ、安心してほしい。後ろの2人は凄く陽気な性格だからな。

「やあやあ、久しぶり~。覚えていてくれたかな? ラナリアス君」
「あらお父さん、そんな骨だけの顔じゃあ分からないわよっ」
 ケタケタケタケタ 笑いあう両親。うーん、アンデッドジョークだろうか。
 あのとき見たメッセージ映像のままの2人が、そこに立っている。

「エフィルア様のご両親。さすが性格が良く似ていらっしゃいます」
 ロアさんはダウィシエさんへの応急処置を終えたようだった。これで、とりあえず命だけはもちこたえるだろう。


「さてと、2人がここに来たって事は、もう準備はいいのか?」
「ああ、万端だ。エフィルアよ。 …… デカクなったな」
「大きく、本当に立派になったわね。本当に、本当に」

 2人の言葉。良く分からん感情が俺の身体に染み渡っていくのを感じた。
 俺、ほとんど2人の事は覚えていないのだけどな。
 そう

 せいぜい俺が覚えているのは…… 
 そう、それはやけに
 硬くて、冷たくて、そして優しい手だった。

 あの時と同じように、俺にふれる、
 この手、そのものだった。
 ああ、おれは覚えている。この2人を覚えている。


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