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1章 魔神引っ越し
第18話 帰還後のギルマスと聖女 (アナザーサイド)
しおりを挟む◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ギルマス視点。ダンジョン探索から帰還した翌日の町。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
聖女家の神殿に呼ばれたダウィシエは今、なんとも面倒な問答につき合わされている。まったく、何度同じことを言わせるつもりなのだろうか。
「ですから…… エフィルアは探索中に崖から転落し行方不明になった。何度もそう申し上げております」
嘘だけどな。
「バカな。あのバケモノが崖から落ちた程度でどうにかなるものか。どこへ消えた? 追跡タグすら反応がないのだぞ?」
派手な鎧を身に纏った壮年の男が私に詰め寄る。今代剣聖だ。
息子は次代剣聖。正確にいえばそういう事らしいが、2人で同じような称号を名乗るのはややこしいのでやめて欲しい。
「まあまあ剣聖殿。ギルド長も、よもやあの魍魎に何か肩入れをするような事もありますまい。報告によれば、ダンジョンには凶悪な霧の魔物が居たとか。もしやすると、その魔物に食われたのかもしれません。ねぇ? ギルド長」
白い法衣の男が語りかけてくる。
代々、聖女を輩出してきたという事になっている一族の取りまとめ役で、このあたりを束ねる神官長である。めんどうな詮索をしてくれているこいつだが、“行方不明者”という話をするならば、私の方がこいつに尋問したい事件が山ほどあるのだがな。
ニタニタとした嫌らしい笑顔で、こちらの様子を見定めるような視線を向けてくる。
町の連中によればこいつは、聖神と精霊に愛されている恩恵で、やたらな長寿を授けられているというが…… 実際にこうして顔を見てみれば、私の目には精気の抜けたゾンビモドキか何かのようにしか映らない。
その一族の総本山。神殿と称する彼らの煌びやかな邸宅で“新ダンジョン対策会議”は続いていく。
「ダウィシエさん。分かっているでしょう? 冒険者ギルドは確かに広大な組織だ。だが我々には及ばない。われわれ、残神ネットワークでは至誠を尊びますよ? 我らに対する清らかな真実の心のみが貴女の身を救うのです」
うるさいな、何が至誠だ腐れチンコめ。外道ほどそういう言葉を臆面もなく吐き出す。
私なんぞ嘘つきで結構だ。
未だ地上に残るという神々。残神。
神官たちの建前上での役目は、その神々と人の世の為政者達を結びつける事だ。
どこまでが本当に存在するのか怪しいものだがな。
冒険者ギルドも手放しに褒められるような組織ではないのだが、良くも悪くも権謀術数に関してはこの残神ネットワークの連中には少しばかり及ばないな。ウチは基本的な構成員に庶民が多いからな。
こと、この町に関しては、地方の政を束ねる豪族と、この神官様の繋がりが強い。これが私の頭を悩ませる。
実際の武力実力ならともかく、形式上は剣聖一家の下に地方ギルドは組織されている…… ……
「それではダウィシエ。もう1人、新参の小娘も同行したと聞いているが? 今その者はどこに?」
またどうでもいい事ばかりを。少しは町の安全という問題に気持ちを向けられないものか……
「引き続きダンジョン探索の任にあたらせております。探知系統の術に秀でているもので」
ロア君がエフィルア殿と共に旅立ってしまった事で、より一層厳しい状況になっている、この現状。
くそおっ! やはり私も行けばよかった! もうやだよぉ!
ああもうこんな町しらないよっ。と言いたいが、そうもいかんのだろうなぁ。
大人たちの事情を何も分からずに日々を過ごしている子供たちもいる。
共に戦ってくれている者も僅かながらいる。
今の状況を鑑みれば、この町で唯一、冒険者ギルドという世界的組織の後ろ盾を僅かながらも持っている私が頑張らねばなるまいよ…… なんてな。私のような剣術バカは、ただ剣をふるっている方が性に合っているのだが。
しかしもう…… いっその事、こいつらを皆叩き切ってしまって、それからエフィルア殿たちの後を追ってみるか。
ああ、いっそのこと人知を超えた力で、この町ごと吹き飛ばしてくれたなら……
などと言ってもしかたがないか。もしそんな事が起きたとしても、それで解決するわけでもない問題ばかりだろう。ふう、……
…… ……
あ、? あれ? なんだ? か ら だの・
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いっぽう、聖女さんチーム
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なあ、聖女のエルリカ様さ。こんな事してていいのか?」
「なあにギャオ? あんた嬉しくないの? 私とこんな事出来て」
それは2日目の探索を終えた後の夜の事。
聖女チームの2人はベッドの上で仲良くしていた。
「いや、もちろん嬉しいけどさ。エルリカは剣聖のやつと付き合っていたんじゃないのか? それに新興商人の息子の、ほら、あいつもいただろう」
「あら、いたわね~、そんな男の子たちも。だからなに?」
聖女はとてもビッチだった。ビッチビチだった。
「だから何ってさ、一応聖女としての世間体とかあるんじゃないのか?」
「そーんなの、どうとでもなるでしょう? 何をしたって、揉んで揉み消せないものなんてないわよ。だいたいそういうものよ? この世界。下民とは違うのよ」
「まあいいけどさ。でも少しは用心してくれよ?」
「だーいじょうぶだって。庶民なんてみんなバカばっかりなんだから。適当に笑顔を振りまいてるだけで、あとは肩書きがあれば皆なにも思わないわ。そんな事よりギャオ? あんた、あの受付の小娘のことはいいの? なんか町にいないみたいよ? あれの事が好きだったんでしょう?」
「い、いや、別に好きとは言ってないだろう」
「ふーん、まあいいわ。どっちにしても私あの子嫌いだから、お父様に頼んで近いうちにいなくなってもらうし」
「え、おいおい、ほんとか? またどこかに売るのか? あー、なら俺に売ってもらえないかな」
「ばかね、あんなのにお金使うなんて。どっちにしても、普通じゃないところにやっちゃうから、あんたにはどうにも出来ないわよ」
「んー、あの子、俺に気があると思うんだよな」
ギャオは勘違い馬鹿だった。
その点は聖女にも分かっていた。
「ほんと馬鹿ねぇ。もういいわ。つまんないから、あんたさっさと帰りなさい。明日もダンジョン潜るんだからね」
初日の探索でダンジョンボスが討伐されたという情報は、広く一般に知らされている。しかし、ダンジョンそのものが消えたわけでもなく、その探索は継続されている。
特に聖女たちにとっては、行方不明とされているエフィルアの行方、あるいは死骸を求めての精力的な探索が、未だ不可欠なものに思われていた。
とっくに他の冒険者チームが聖女たちよりも深く広範囲に展開しているため、実際には別にやらなくてもいい事ではあるのだが。
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