闇属性で虐げられたけど思い切って魔神になってみたら ~冥府魔界と地獄の祀り上げ~

雲水風月

文字の大きさ
上 下
4 / 29
1章 魔神引っ越し

第4話 闇落ちしてみた結果

しおりを挟む

 爆滅ばくめつした魔狼と、折れて消し飛んだ愛剣。
 これが闇属性を抑え込むのをやめた結果の1つだった。
 角を引っ込めてしまえばステータス表示的には人間なのだが、とてもそうは思えない。

 おかしいな。
 レベルがほぼ3倍に上がったというのは、ベース出力がほぼ3倍になったという事を示している。
 しかし、とてもこれが3倍程度の強化だとは思えない。

 他に思い当たる点…… スキル一覧にあるのは…… 強化体:A-LV3 か。 
 聞いた事の無いスキルだけど原因はこれではなかろうか。

 身体を動かしてみた感じでは、筋力とか、反射神経とか、骨格強度とか、この身体の何もかもが別次元に進化していた。

 たぶんこれ、複合上位スキルだな。それもとびきり上等な。
 このたぐいのスキルは普通、色々な物理強化系スキルを身に着けた後に習得できるもの。
 総合的に身体能力を上げる上位スキルだ。

 ただ一般的に複合上位スキルといえば“身体強化”なのだけど、その効果はこれほど強烈なものではないのだ。
 "強化体"かー。“身体強化”の上のスキルって事だろうか。聞いたことないけど。



 俺は試しに適当な岩を素手で殴りつけてみる。
 ヴァボッッゴッォンンン

 結果は俺の勝利。俺の拳は岩を余裕で打ち滅ぼした。
 さきほど剣を失ってしまったから、いったん町に引き上げようと思っていたが……

「ふーむ、はっは~~ん、さては、これ…… 剣いらないな?」

 剣無しで全く問題は無さそうだ。
 むしろ素手で殴ったほうが強いと思う。安い剣など何本あっても爆散するだけだろう。


 それからしばらく、俺は力の調整を練習しながら森の魔物達を狩った。
 始めは簡単に爆滅させてしまい、なかなか素材が獲れずに困ったほどだった。

 今までとまったく変わってしまった身体感覚に戸惑いながらも、しだいに程良い力加減で獲物をしとめる事に成功し始める。

「よーし、もう一匹」
 前方に見える魔狼をロックオン。
 ヒューッと行って、ドッ・
 拳を繰り出した瞬間に異変を感じる。

「おっ、お待ちください!」
 俺は撲殺直前で手を止めた。

「魔狼がしゃべった」
 魔狼が両手を挙げて降参し、突然言葉を発したのだ。 
 今朝は小さなトカゲが言葉を発したし、今度は魔狼。今日は動物や魔物が喋る日なのだろうか?

「偉大なる御方。魔狼のような狂った狼と我らは違います。我らは大地の精霊、コボルト」
 二足歩行の犬がそう名乗った。
 確かに。近くで見たら全然違う。

 魔狼は大きくて牙が長く、よだれダラダラの狼。
 いま目の前にいるのは、そもそも2足歩行だし全体的にかわいらしい。服も着ている。
 やぶに隠れて顔しか見えなかったから間違えてしまったようだ。

「いやはや、すみません。突然襲いかかってしまいまして」
「めっそうもございません。弱肉強食は世の摂理。あのまま倒されてもしかたのない事です」
 お互いに、いやいやこちらこそ、いやいやこちらこそと恐縮してしまう。

 そこに現れるのは数匹の別なコボルト。
 土がモコモコと盛り上がったかと思うと、モフモフのコボルトが姿を現したのだ。
 その中で少し身なりの良い1匹が前に出る。

 身長1mちょっとかな?
 2足歩行のわんちゃんがぴょこぴょこ歩く感じなので可愛らしい。

「膨大な闇のマナを扱う偉大な御方。お近づきになれて光栄です」
 うやうやしげに頭を下げる。

「いやいや、やめて下さい、どうしたのですか。俺ごときはそんな、偉大どころか町の最底辺ですから」
 俺の話がいまいち通じない。
 とにかく恐れうやまわれる。

 いちいち話が長いので要約してしまうと、要するに俺のマナを分けてほしいらしかった。

「マナですか」
「はい。この地に出てきてみたところマナの消耗が予想以上のものでして、我らこのままでは消滅してしまうのです。住処に帰るための力すら失っている状態でありまして」

 そういう事らしい。

「ふーむそうですか。どこにどうやって帰るのやら分かりませんが、俺の身体に問題がない範囲でしたら、マナをお分けするのはかまいませんよ。やり方も分かりませんが」

「「「おおお」」」
「ありがとうございます。これで我らは救われます」

 なんだか突然の出来事にあっけに取られている内に、コボルト達が集まってきて俺の指先に口をあてる。穏やかにマナを流し込むと、コボルトさんの喉がごくごくと脈動した。
 初めは腕ごと喰われまいかと少し心配してしまったのは内緒だ。
 それから代わる代わる順番に進めてほんの数分。

「偉大なるエフィルア様。我らをお救いいただきありがとうございます。私はこの部隊の長、じょいぽん。ぜひ、お近くにお立ち寄りの際にはお越しください。一同歓待いたします」

 コボルト達はその言葉を残し、大地に溶け込むように消えていった。
 地面の上には、握りこぶし大の銀白色の塊が残された。
「なんだろうか、これは」

「あ、すみませぬ。お礼のコバルト鉱です」
 一瞬、ひょこりと地面から顔を出してそう言うと、今度こそ消えていった。

 お近くにお寄りの際って言ってたけど、どこなんだろうか?
 コボルトの住処すみか? この近くにあるのだろうか?
 聞いたことがない。
 出来れば今すぐ連れて行ってほしいぐらいなのだが。

「おーい、じょいぽんさーん」
 俺の願い虚しく、彼らが再び姿を現すことはなかった。


 いつまでもこうしていてもしょうがないか。
 俺は気を取り直して狩りを再開する。
 かなりコツをつかんできた。

 とりあえず魔狼3匹に魔ウサギ2匹をゲット。
 他にオークとレッサートレントなんかも数体倒したが、かさばるから持って帰るのはあきらめた。
 運搬手段が無い。
 オークは、1人で手ぶらで来て討伐するような相手ではないのだ。
 魔物の核である魔石だけは小さくて持ち帰りやすいので無論回収したが。
 
 そんなこんなで近くにいた魔物との戦いを終えると、またLVが1つ上がってLV36になっていた。
 これでちょうど、もとのLVの3倍になってしまった。

 気がつけば空では太陽が傾き始めている。
 そろそろか。暗くなる前に町に帰ろう。


 町に…… か。どうなるかな? ま、行ってみよう。
 スキルやLVの事なんて、基本的には他人には分からないのだ。
 無理やりステータスチェッカーを使って測定されない限りは。

 それにだ、最初はこの身体の事がばれたらどうなるかっていう不安はあったのだが、戦っているうちにはそんなものは消し飛んだのだ。

 たぶん何とかなる。
 今の俺、あの町の誰よりぶっちぎりで強いだろうから。
 いやそれどころか付近の町全てを合わせてもそうだろう。

 各町で一番強いのが、町の防衛責任者でもある冒険者ギルドのマスターで、上級冒険者ゴールドクラスの上のほうの実力だ。

 いっぽう俺は、LVだけで考えたなら上級ゴールドの下のほうにギリギリ入るくらい。
 ギルマスには少し及ばない。
 だけど、バケモノ用のスキルがそろってるから実質その何倍も強いだろう、間違いなく。
 ギルマスというのは、素手で岩を砕けないはずなのだ。

 それに天敵だった聖女エルリカの聖魔法だって、今なら純粋な魔力の高さと魔力強化のスキル補正でまったく問題にならないだろう。
 いくら弱点だといっても、根本の魔力が圧倒的なら十分に耐えられる。

 そんなわけで、今の俺に町に戻る恐怖心は一切無くなっていた。
 何かあっても蹴散らして出てくれば良いだけだ。
 ボロイながらもかろうじて存在する我が家へ帰ろう。

 …… もっと早く開放してたら結果は違ったのだろうか?
 これまでの生活に思いを巡らせながら、俺は住処すみかへと帰るのだった。

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

お姉様に恋した、私の婚約者。5日間部屋に篭っていたら500年が経過していました。

ごろごろみかん。
恋愛
「……すまない。彼女が、私の【運命】なんだ」 ──フェリシアの婚約者の【運命】は、彼女ではなかった。 「あなたも知っている通り、彼女は病弱だ。彼女に王妃は務まらない。だから、フェリシア。あなたが、彼女を支えてあげて欲しいんだ。あなたは王妃として、あなたの姉……第二妃となる彼女を、助けてあげて欲しい」 婚約者にそう言われたフェリシアは── (え、絶対嫌なんですけど……?) その瞬間、前世の記憶を思い出した。 彼女は五日間、部屋に籠った。 そして、出した答えは、【婚約解消】。 やってられるか!と勘当覚悟で父に相談しに部屋を出た彼女は、愕然とする。 なぜなら、前世の記憶を取り戻した影響で魔力が暴走し、部屋の外では【五日間】ではなく【五百年】の時が経過していたからである。 フェリシアの第二の人生が始まる。 ☆新連載始めました!今作はできる限り感想返信頑張りますので、良ければください(私のモチベが上がります)よろしくお願いします!

俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~

うみ
ファンタジー
「俺は畑を耕したいだけなんだ!」  冒険者稼業でお金をためて、いざ憧れの一軒家で畑を耕そうとしたらとんでもないことになった。  あれやこれやあって、最強の二人が俺の家に住み着くことになってしまったんだよ。  見た目こそ愛らしい少女と凛とした女の子なんだけど……人って強けりゃいいってもんじゃないんだ。    雑草を抜くのを手伝うといった魔族の少女は、 「いくよー。開け地獄の門。アルティメット・フレア」  と土地ごと灼熱の大地に変えようとしやがる。  一方で、女騎士も似たようなもんだ。 「オーバードライブマジック。全ての闇よ滅せ。ホーリースラッシュ」  こっちはこっちで何もかもを消滅させ更地に変えようとするし!    使えないと思っていたFランクスキル「手加減」で彼女達の力を相殺できるからいいものの……一歩間違えれば俺の農地(予定)は人外魔境になってしまう。  もう一度言う、俺は最強やら名誉なんかには一切興味がない。    ただ、畑を耕し、収穫したいだけなんだ!

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生チートは家族のために ユニークスキル『複合』で、快適な異世界生活を送りたい!

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

咲阿ましろ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

処理中です...