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1章 魔神引っ越し

第1話 闇属性

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 闇属性:第3階級レベル3

 これは、ちょっと人間ではありえないステータス表示らしい。
 だけど俺の身体には物心ついたころにはすでに、この闇属性が付与されていた。

 なんの因果か日本からこのファンタジックな異世界に生まれ変わり、気がついてみたらこれなのだ。

 本来、闇属性というのはモンスターだけが持っているはずの属性で、人間には忌み嫌われている。
 俺がこうなっている原因は分からない。あまり小さいころの記憶も定かではない。
 ただ、いつのまにかこの町の片隅で1人、暮らしていた。


 幼き俺が初めてこの町に紛れ込んだ日、その姿を見つけた役人はこう思ったという。

 "なんか小さいアンデッドが町の中に沸いてるんだけど?” 

 不振で不穏な空気をまとった少年の町デビューである。
 そのあと役人のおっちゃんはアンデッドを駆除する前に、念のため冒険者ギルドへと連れて行って、ステータスチェッカーで調べたらしい。
 その結果、少年はギリギリで人間であるという結果が出た。

 ギリギリで人間てなんなんだろうか? 良く分からないんだが、とにかくそうらしい。

 それから10年と少し。すくすくと成長した俺はこの町で少しばかり厳しめな日常を送っている――

 ここは町のはずれにある我が家。
 墓場に隣接している朽ちかけのボロ小屋だ。
 雨はギリギリしのげない。風は余裕で吹き抜ける。

 今朝は良い天気に恵まれているから外に出て、我が家の掃除と軽い修繕をしている。いくらボロだと言っても、手を入れれば少しはマシになる。あるいは、必死で現状維持を試みていると言った方が正確かもしれない。


「お」
 ふと、 入り口横の壁にキラキラとした何かがくっついてる事に気がつき目を向ける。


「またお前か。最近よく壁にへばりついてるな」
 俺はなんとなく、そう声をかける。と、そいつと目が合ってしまった。

 その鱗はキラキラと鉱物のように光っている。
 髑髏どくろのような不思議な模様が背中に描かれた小さなトカゲである。
 妙に人懐っこくて、俺の指先にじゃれついてくる。

 そいつはカプカプと指にあま噛みしていたかと思うと、クイッとこちらに顔を向けて口を大きく開く。

『すごく 美味い マナ』

 お、なんだ? 
 今、こいつがしゃべったか? 美味い魔力素マナって言ったような。

 気のせいのような気もする。突然の出来事に少しばかり困惑していると、そのトカゲはビクリと身を震わせてからスルスルと動き出し、俺の後ろのほうに向かって走り去って行った。
 
 ふむ、どうやら誰かが来たようだ。人の気配だ。
 ここは人気ひとけもなく静かな場所だが、今朝は少しだけ賑やかになってしまいそうである。

 「おぅい、エフィィルア !」  
 そう声をかけられるより一瞬早く、俺は後方から大量の水が飛んで来ているのに気がついた。まったく、この男は気配からしてやかましい。だから不意打ちをねらった行動なんかにはまるで向いていないのだが。
 俺は何事も無かったかのように身体をずらしながら振り返った。

 まだ春には遠い寒空の下。
 もしこんなものかぶっていたら、もとから冷えきっていた俺の身体は冷気による痛みと麻痺で悶絶させられること間違いなし。

 彼らの顔を見る。
 そこにいるのは聖女・・様、とその取り巻き。
 中央に立って実に見目麗しい笑顔でこちらを見つめているのが聖女様。名前はエルリカ。
 この町ではとても珍しい、俺に絡んでくる人間のうちの一人だ。
 たいていの奴は俺の事なんてまるで見えないかのように振舞う。

 とりまきの1人ギャオがわめく。
 本名はジェオだが、ギャーギャーとうるさい男なのでギャオという名前のほうで通っている。
 軽く悪口ではないかと思う呼び名だが、仲間の聖女様ですら普通にギャオと呼ぶので良いのだろう。

「おいエフィィィルゥア、なーんで動くんだよ! はずれちゃっただろ?!」
 はじめに声と水をかけてきたのもこの男、ギャオだ。
 気配が特に読みやすくて助かっている。

「もったいないだろが。お前のために聖女様が大量の聖水を用意してくれたんだ。とんでもない金がかかったんだからな」

 ニヤニヤとしながら適当な事を話しはじめるギャオ君。
 聖水云々という話はもちろんデタラメだろう。
 もし本当の聖水ならば避けきれずに少々かかってしまった飛沫だけで、闇属性持ちの俺は大火傷である。

「「あっはははっ」」
 後ろで馬鹿笑いしている女達が2人…… まあ、そいつらはどうでも良いか。
 笑い袋みたいなものだ。
 まったく、こいつらはこんな朝早くから、わざわざ俺に水をかけるために来たのだろうか?

「エフィルア、冒険者ギルドの依頼でね、オレ達西の森に魔狼狩りに行くんだよ。良かったら一緒に連れて行ってあげようと思ってさ」

 最後に口を開いた男は剣聖シオエラル。
 やかましいギャオから少し離れた場所に立ち、さわやかイケメンスマイルを無駄に輝かせている。
 妙に騒がしいこのメンバーの中にいると目立たない存在だが、とにかくイケメンで剣技も得意。
 この町を治める豪族の長男で、代々彼らは剣聖を名乗っている。
 親父も剣聖、こいつも剣聖。ややこしい。
 区別をつけるときには当代剣聖と次代剣聖で分ける。
 彼自身はまだ成人したてで駆け出し冒険者をやっている身ではあるが、名目上は剣聖である。

 とにかくイケメンで金持ちなので町の女の子達の人気は高い。
 しかし、朝っぱらから意味も無く他人に冷水をぶっかけようとしてくるような人間に恋をするのは危うい道なのではと、俺は思うが。
 どうも人間なる生き物は、自分自身に対して直接悪意を向けられるまでは、相手を悪くは思わないらしい。

 それにしても、早朝から何をしに来たのかと思えば狩りの手伝いをしろなどと。
 もちろんお断りである。
「魔狼狩り? やめとくよ」

 即答する。まったくこの悪ガキ団は何を考えてるんだか。
 なんで手伝いをさせようという相手に、いきなり水をかけようとするのか。
 それをまず教えて欲しい。

「エフィルア、黙ってついて来いよな。おまえ、丈夫だから盾やれよ」
 ギャオ君の誘い文句はさらに酷い。

「ん~~、なに? あんた断るわけないわよね? せっかく私たちが誘ってやってるのにそんな顔をするわけ? なら、あんたの大好きな聖属性回復魔法ヒールをあげてもいいのよ? ふふふふふ」

 今度は聖女エルリカ様。さらにさらに酷い。
 闇属性の俺にヒールをかけるなんて、それ、殺しにきてるようなものだぞ?

 ヒール。聖属性の初級回復魔法だ。
 普通の人間にとっては戦闘面でも生活面でも重宝ちょうほうする魔法のひとつ。
 だけどそれが、俺にとっては少しかすった程度でも大ダメージを与えてくる凶器となる。
 闇属性の真逆なのだ。相反する属性である聖なる力は俺にとっては暴力以外の何物でもない。もっとも、そんな特異体質を持った人間・・は世界でも俺だけなのだろう。理解者はまずいない。

 それにしてもこの女、頭はおかしいけど聖魔法の能力だけは本当に才能があるんだよ。
 聖女様。俺にとっては厄介な相手なのだ。

 他の奴らが仕掛けてくる子供の悪戯程度の攻撃ならほとんど相手にならないのだけどな。
 俺には妙に丈夫な身体と、マナの動きを敏感に感じ取れる能力ちからがあるからな。
 だけどこいつの聖魔法だけは、どうしても相性が悪い。
 
 いつもこの聖女様は、“回復してやる”とか、“闇属性を清めてやる”とか言って、善意と悪意を練り混ぜて俺にかまってくるのだ。

 こちらにしてみれば純粋な暴力以外の何ものでもないのだけど、どうも不思議なもので。この世の中では、清廉でやさしい聖女様が卑しく不浄なエフィルアを治療してあげているという事になってしまうようだ。

「なに迷ってるのよ。言う事聞かないなら、あんたの家族の事教えてあげないわよ?」

 本当に厄介なのだ――。

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