婚約をお断りし続けていたら、エリート騎士様が手段を選ばない脳筋ヤンデレになりました

兎束作哉

文字の大きさ
上 下
5 / 46
第1章

04 夢であって欲しい◇

しおりを挟む

「――ん、んん……」


 寝苦しい。
 生暖かく、身体を蝕むような汗と空気に寝返りを打った際、目が覚めた。まだ、夜も明けていないのか、暗い室内で目を凝らしながら時計を見ると、時刻は深夜二時を示していた。寝苦しさの原因はこれかと、布団を退かそうとすれば、そこには見慣れたものがあった。


「あ……え?」 


 黄金色の頭、間違えるはずがない。
 私のベッドの中でぐっすりと眠っていたのはユーデクス様だった。しかし、その正体が分かったところで私の頭は働かない。どうしてここにいるのかも分からなかったし、何故かしっかりと私に抱きついているこの状況も理解できなかったのだ。


(待って待って! 落ち着いて私!)


 顔を触って確認するが、痛みがあるような気がした。それに、何だか生臭い匂いも。
 そんなふうに、私が動揺していると、私に抱き付いていた彼が目を覚ました。暗闇の中で光る群青色の瞳は恐ろしく鋭く、獲物を見つけたように、ニッと曲げられると、それと同時に、彼の小麦色の肌に赤い何かが付着しているのが分かった。いや、今ついたように思えた。


「……スピカ」


 寝ぼけているような。それでも、はっきりと、うっとりと、愛しの人を呼ぶようなそんな甘い声で、彼は私の名前を呼ぶ。しかし、私の身体は好きな人に名前を呼ばれたとは思えないほど、震えあがり、体温を失っていた。
 彼は、私のネグリジェに手を入れ、肌の質感を確かめるように何度も何度も撫でる。彼の指が私の太ももを撫でる感覚が伝わってくる。爪が食い込むぐらい私の太ももを揉み、そして、その爪を立て引っ掻く。


「な、何して……」


 震える声で私がそう呟くと、ユーデクス様は口を開いた。しかし、その先の言葉を聞くのは怖くなり、私は勢いよく彼を突き飛ばした。ベッドから落ちるように転がっていった彼は痛そうに唸り声をあげている。しかし、そんな彼に構わず、私は逃げるようにその場から離れようとしたが、すぐに腕を掴まれベッドに倒れこんだ。


「いゃぁっ!」


 抵抗しようと暴れるも、両腕を縛り上げられ、私は身動きができなくなった。


「なんで逃げるの? スピカ」


 逃げられる理由が全く分からないというように、彼は寂しそうな目を向けてきた。でも、暗闇の中でもはっきりと分かるように、彼の目は狂気にまみれていて、私はこれが何か確信した。


(これって……もしかして、悪夢!?)


 気づいたところでどうしようもうないのに、またあの感覚がリアルで生々しい悪夢を見ているのだと、私は気づいた。彼が、血塗れなのも悪夢の中だから。帰ったはずの彼がここにいるわけが無い。部屋の鍵だって閉めている。入ってこれるわけがないのだ。見る限り、部屋を破壊した痕跡もないし……


(いや、いや、それよりも!)


 何で、彼に押し倒されている夢を見ているのだろうか。これまでは、殺される夢を何度も見てきたのに。願望? いや、願望であるなら、こんな怖いはずがない。怖がるようなシチュエーションは見ないはずなのだ。誰が、夜勝手に部屋の中に潜り込んだ血まみれの初恋の人に抱かれる妄想なんてするだろうか。そんなショッキングすぎる夢を見ているのだとしたら、私は性癖が歪んでいるにも程がある。しかし、そんなことはどうでもよくて。


(こんな状態で抱かれたくない!)


 夢の中のユーデクス様は容赦無い。私を見ているようで、見ていないようなそんな目で、私を追い詰めてくる。現実のユーデクス様の方がよっぽど素敵で、これは、やはり誰かが見せている悪夢なのではないかと思った。私が、ではなく、誰かが意図的に。そんな気がしてきた。だが、そんなことに気づいても今は対応出来る状態ではなく、いつものように、殺されれば夢から覚めることができるのに、できない状態に、私はどうすればいいのか分からなくてパニックになっていた。
 ユーデクス様は私を逃がすきはないと、自分のしていたベルトで私の手を縛り上げて、そのベルトでベッドの柱と手を縛り付ける。そして、自由になった両手で私のネグリジェをビリッと破り始めた。


「やだっ! やめて!」


 バタバタ暴れても無駄で、あっというまに下着だけの姿になる。ユーデクス様も自分の着ていた服を脱ぐと、私にキスをしたり肌に触れたりと執拗に行為を続けていく。元々抵抗なんて出来るような状況ではないのだが、夢の中にいる私に味方なんて誰もいなくて。


「可愛い……スピカ」
「あ、いゃ……さわらないでっ!」 


 ユーデクス様の手が私の胸に伸びてくる。それが怖くて嫌で、必死に逃げようとした。しかし、彼にそんなことが通じるわけもなくて私は彼の大きな手に包まれ痛みを与えられた。揉み上げるように掴まれた胸のさきっぽはぷっくりと膨んでいて、彼がそこに、かぷっとかぶりついてくるのを見ることしか出来ず涙をこぼした。
 どうして彼はこんなことをするのだろうか。いや、夢の中の彼は、私がしてほしくないことをするのだろうか。
 誰かが、この悪夢を見せているから? だったら、その誰かが私にそうなってほしいから?
 なんで、私だけこんなひどい目に会うのだろうと、好きな人でも、こんなふうに、こんな悪夢の形で見せられ、抱かれるのはごめんだった。だってこんなの強姦じゃないかと。
 しかし、それに反するように身体は熱を帯びていき、まるでそれが合図だったかのようにユーデクス様は私の太ももに、何やら硬いものを当ててくる。それが何か分からないほど子供ではなかったが、それだけはだめだと頭の中で警報が鳴る。


「だめっ! 離して!」
「スピカ、受け入れて」
「いや、やだ、やだああっ! やめて、やめてええっ!」


 口先だけの抵抗だったが、彼はそれは自分を受け入れてくれているのだと勝手に勘違いしたらしく。彼は、私の両足を大きく開かせた。そして、じっとそこを見つめた後、彼のものがどんどんと私の中に入ってくるのが分かった。濡れていないそこにいきなり突っ込まれるのは、誰だって痛いはずだ。それは、悪夢のユーデクス様も同じはずなのに、彼は、はぁ……なんてうっとりとした声を出して、腰を進めてくる。ミチミチと肉が裂けるような音がし、乾いたそこは切れ切れに、それは想像した通り痛くって私はひたすら悲鳴を上げた。そして、それに興奮しているのか彼は何度も出し入れを繰り返すと私を抱きしめた。このまま壊され、殺されれば夢から覚めるだろうか。腹上死なんて笑えないけど。
 そう思ったが、それを許さないとでもいうように彼のものが子宮の奥をグッと押し込み、その感覚に一瞬目の前が白くなる。それは、痛みにも似た絶頂だった。


「あ、……ああぁっ……」


 夢の中なのに、はっきりとした痛み。太ももを伝って、血が流れるのを感じながら、私は歪む視界の中ユーデクス様を見た。
 私の瞳に映ったユーデクス様は笑っていたのだ。その笑みは、なんというか女性らしい笑みにも見えた。上品なような、それでもそこに黒い何かがあるような、言葉では言い表しづらい表情をしている。


「スピカは……もう俺のものだよ」


 違う、とはっきり言えたらどんなに良かったのだろうか。しかし、喉はからからに、ハクハクと口を動かせるだけで、声が出なかった。
 彼はその後も満足するまで私を暴き続け、何度も中に出され、それを受け止めさせられた。ようやく満足したのかユーデクス様は私の上から退くとそのまま気を失ってしまった。私もまた強い眠気が襲ってきて、私は気を失うように眠りについたのだ。こんなこと現実であってほしくないと願いながら目を閉じた。


(助けて……ユーデクス様……)


 夢の中で犯された相手に、何故助けを求めるのか。私自身分からなかった。でも、私を抱いたのが、ユーデクス様であって、ユーデクス様じゃないと分かっていたからこそ、私は彼に助けを求めたのかも知れない。
 夢の中でぐちゃぐちゃにされた、そんな絶望感を胸に、私は涙をこぼした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

逃げて、追われて、捕まって (元悪役令嬢編)

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で貴族令嬢として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 *****ご報告**** 「逃げて、追われて、捕まって」連載版については、2020年 1月28日 レジーナブックス 様より書籍化しております。 **************** サクサクと読める、5000字程度の短編を書いてみました! なろうでも同じ話を投稿しております。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...