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第1章
04 夢であって欲しい◇
しおりを挟む「――ん、んん……」
寝苦しい。
生暖かく、身体を蝕むような汗と空気に寝返りを打った際、目が覚めた。まだ、夜も明けていないのか、暗い室内で目を凝らしながら時計を見ると、時刻は深夜二時を示していた。寝苦しさの原因はこれかと、布団を退かそうとすれば、そこには見慣れたものがあった。
「あ……え?」
黄金色の頭、間違えるはずがない。
私のベッドの中でぐっすりと眠っていたのはユーデクス様だった。しかし、その正体が分かったところで私の頭は働かない。どうしてここにいるのかも分からなかったし、何故かしっかりと私に抱きついているこの状況も理解できなかったのだ。
(待って待って! 落ち着いて私!)
顔を触って確認するが、痛みがあるような気がした。それに、何だか生臭い匂いも。
そんなふうに、私が動揺していると、私に抱き付いていた彼が目を覚ました。暗闇の中で光る群青色の瞳は恐ろしく鋭く、獲物を見つけたように、ニッと曲げられると、それと同時に、彼の小麦色の肌に赤い何かが付着しているのが分かった。いや、今ついたように思えた。
「……スピカ」
寝ぼけているような。それでも、はっきりと、うっとりと、愛しの人を呼ぶようなそんな甘い声で、彼は私の名前を呼ぶ。しかし、私の身体は好きな人に名前を呼ばれたとは思えないほど、震えあがり、体温を失っていた。
彼は、私のネグリジェに手を入れ、肌の質感を確かめるように何度も何度も撫でる。彼の指が私の太ももを撫でる感覚が伝わってくる。爪が食い込むぐらい私の太ももを揉み、そして、その爪を立て引っ掻く。
「な、何して……」
震える声で私がそう呟くと、ユーデクス様は口を開いた。しかし、その先の言葉を聞くのは怖くなり、私は勢いよく彼を突き飛ばした。ベッドから落ちるように転がっていった彼は痛そうに唸り声をあげている。しかし、そんな彼に構わず、私は逃げるようにその場から離れようとしたが、すぐに腕を掴まれベッドに倒れこんだ。
「いゃぁっ!」
抵抗しようと暴れるも、両腕を縛り上げられ、私は身動きができなくなった。
「なんで逃げるの? スピカ」
逃げられる理由が全く分からないというように、彼は寂しそうな目を向けてきた。でも、暗闇の中でもはっきりと分かるように、彼の目は狂気にまみれていて、私はこれが何か確信した。
(これって……もしかして、悪夢!?)
気づいたところでどうしようもうないのに、またあの感覚がリアルで生々しい悪夢を見ているのだと、私は気づいた。彼が、血塗れなのも悪夢の中だから。帰ったはずの彼がここにいるわけが無い。部屋の鍵だって閉めている。入ってこれるわけがないのだ。見る限り、部屋を破壊した痕跡もないし……
(いや、いや、それよりも!)
何で、彼に押し倒されている夢を見ているのだろうか。これまでは、殺される夢を何度も見てきたのに。願望? いや、願望であるなら、こんな怖いはずがない。怖がるようなシチュエーションは見ないはずなのだ。誰が、夜勝手に部屋の中に潜り込んだ血まみれの初恋の人に抱かれる妄想なんてするだろうか。そんなショッキングすぎる夢を見ているのだとしたら、私は性癖が歪んでいるにも程がある。しかし、そんなことはどうでもよくて。
(こんな状態で抱かれたくない!)
夢の中のユーデクス様は容赦無い。私を見ているようで、見ていないようなそんな目で、私を追い詰めてくる。現実のユーデクス様の方がよっぽど素敵で、これは、やはり誰かが見せている悪夢なのではないかと思った。私が、ではなく、誰かが意図的に。そんな気がしてきた。だが、そんなことに気づいても今は対応出来る状態ではなく、いつものように、殺されれば夢から覚めることができるのに、できない状態に、私はどうすればいいのか分からなくてパニックになっていた。
ユーデクス様は私を逃がすきはないと、自分のしていたベルトで私の手を縛り上げて、そのベルトでベッドの柱と手を縛り付ける。そして、自由になった両手で私のネグリジェをビリッと破り始めた。
「やだっ! やめて!」
バタバタ暴れても無駄で、あっというまに下着だけの姿になる。ユーデクス様も自分の着ていた服を脱ぐと、私にキスをしたり肌に触れたりと執拗に行為を続けていく。元々抵抗なんて出来るような状況ではないのだが、夢の中にいる私に味方なんて誰もいなくて。
「可愛い……スピカ」
「あ、いゃ……さわらないでっ!」
ユーデクス様の手が私の胸に伸びてくる。それが怖くて嫌で、必死に逃げようとした。しかし、彼にそんなことが通じるわけもなくて私は彼の大きな手に包まれ痛みを与えられた。揉み上げるように掴まれた胸のさきっぽはぷっくりと膨んでいて、彼がそこに、かぷっとかぶりついてくるのを見ることしか出来ず涙をこぼした。
どうして彼はこんなことをするのだろうか。いや、夢の中の彼は、私がしてほしくないことをするのだろうか。
誰かが、この悪夢を見せているから? だったら、その誰かが私にそうなってほしいから?
なんで、私だけこんなひどい目に会うのだろうと、好きな人でも、こんなふうに、こんな悪夢の形で見せられ、抱かれるのはごめんだった。だってこんなの強姦じゃないかと。
しかし、それに反するように身体は熱を帯びていき、まるでそれが合図だったかのようにユーデクス様は私の太ももに、何やら硬いものを当ててくる。それが何か分からないほど子供ではなかったが、それだけはだめだと頭の中で警報が鳴る。
「だめっ! 離して!」
「スピカ、受け入れて」
「いや、やだ、やだああっ! やめて、やめてええっ!」
口先だけの抵抗だったが、彼はそれは自分を受け入れてくれているのだと勝手に勘違いしたらしく。彼は、私の両足を大きく開かせた。そして、じっとそこを見つめた後、彼のものがどんどんと私の中に入ってくるのが分かった。濡れていないそこにいきなり突っ込まれるのは、誰だって痛いはずだ。それは、悪夢のユーデクス様も同じはずなのに、彼は、はぁ……なんてうっとりとした声を出して、腰を進めてくる。ミチミチと肉が裂けるような音がし、乾いたそこは切れ切れに、それは想像した通り痛くって私はひたすら悲鳴を上げた。そして、それに興奮しているのか彼は何度も出し入れを繰り返すと私を抱きしめた。このまま壊され、殺されれば夢から覚めるだろうか。腹上死なんて笑えないけど。
そう思ったが、それを許さないとでもいうように彼のものが子宮の奥をグッと押し込み、その感覚に一瞬目の前が白くなる。それは、痛みにも似た絶頂だった。
「あ、……ああぁっ……」
夢の中なのに、はっきりとした痛み。太ももを伝って、血が流れるのを感じながら、私は歪む視界の中ユーデクス様を見た。
私の瞳に映ったユーデクス様は笑っていたのだ。その笑みは、なんというか女性らしい笑みにも見えた。上品なような、それでもそこに黒い何かがあるような、言葉では言い表しづらい表情をしている。
「スピカは……もう俺のものだよ」
違う、とはっきり言えたらどんなに良かったのだろうか。しかし、喉はからからに、ハクハクと口を動かせるだけで、声が出なかった。
彼はその後も満足するまで私を暴き続け、何度も中に出され、それを受け止めさせられた。ようやく満足したのかユーデクス様は私の上から退くとそのまま気を失ってしまった。私もまた強い眠気が襲ってきて、私は気を失うように眠りについたのだ。こんなこと現実であってほしくないと願いながら目を閉じた。
(助けて……ユーデクス様……)
夢の中で犯された相手に、何故助けを求めるのか。私自身分からなかった。でも、私を抱いたのが、ユーデクス様であって、ユーデクス様じゃないと分かっていたからこそ、私は彼に助けを求めたのかも知れない。
夢の中でぐちゃぐちゃにされた、そんな絶望感を胸に、私は涙をこぼした。
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