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第4章
06 謎の状況
しおりを挟む「来てくださってありがとうございます。スティーリア様」
「ええ……それで、何故殿下もいるの?」
前にもしたやりとり。けれど、違うのは、通された場所と、机を囲むように置かれた椅子、そこに座っていた殿下の姿。何故彼がここにいるのか、不思議でたまらなかった。
前とは違う、談話室のような所で、防音設備がしっかりとしてあるそんな部屋。着飾った感じもなく、ガチャガチャしていないのは好印象だったが、何というか、客室にしては少し質素な気がした。男爵家だからこんなものか、と思いながらも私は、左斜めにいる殿下の方を見た。美しい黄金も、その鍍金が剥がれているようなくらい暗く見えたし、意気消沈しているようだった。理由は分からない。
目の前に出されたお茶を飲みながら、私は目の前に座るメイベを見た。彼女は笑顔を繕っているが、時々、殿下の方を見る。何だか、私が邪魔者みたい。
「メイベ、それで、今日はどんな用事で?」
「お茶会をしたいと思って……そう、招待状にも書いたはずなんですけど」
「え、ええ、分かるわ。お茶会だって。でも、何故殿下が?」
「僕も、お茶会だと聞いた」
黙っていた殿下が口を開いたかと思えば、彼もメイベに呼ばれたとそう言った。どういうことだと、彼女を見ると、目が泳ぎ、パンと手を叩いて誤魔化した。
「三人でお茶会をするのも楽しいかなと思いまして。スティーリア様は、私のお友達ですし、殿下は婚約者ですから」
「……」
意味が分からない。溜息が出そうになったところを、グッと堪えて、私は額に手を当てた。
一応、この状況が変だということにはメイベも気づいたらしい。私と、殿下の態度を見れば一目瞭然だろう。自分が如何に変なことをしたのか、それを彼女はひしひしと感じているはずだ。最も、元婚約者である私と、殿下、そして現在の婚約者であるメイベがいるというこの状況がおかしいのだけれど……
彼女は良かれと思って呼んだのだろうか。殿下と上手くいかないと、嘆いていた少女だったはずなのだが……
(嫌がらせじゃない……わよね?)
悪意は感じられない。本当に天然でやってしまっているのだろう。直さなければ、皇太子妃になった時に、国民の反感を買いそうだと思った。何か失敗しても、何が悪いか気付けないようじゃ、上に立つものとして、失格で……
「殿下、何ですか」
「いや……僕も驚いたんだ。スティーリア様がいる……ことにたいして」
視線が鬱陶しいので、見れば、殿下はふいっと視線を逸らす。何か言いたげな顔をしているのに、もごもごと口を動かすばかりで、喋らない。腹が立つ。この態度で、メイベに接していると思うと、彼女が可哀相で仕方がない。私は、ずっと耐えてきたわけだけど、彼女はそうはいかないだろう。いきなり、養子になって、聖女となって……皇太子の婚約者。自分が何をすれば良いか分からないうちに、話が進んでいって、聖女なら出来るだろうと押しつけられて。思えば、ヒロインだってかなりハードな人生を送っていると。それにくらべると、私は恵まれた家に生れて、途中まで皇太子妃の座が約束されていて。まあ、それがヒロインの登場によって崩れるわけだけど、何一つ不自由はなかった。
だったからこそ、スティーリア・レーツェルという女は、悪役になったのかも知れない。持たざる者が、持つものになったことが許せなかったとか、そういう。
(それにくわえて、この乙女ゲーム、ハード中のハードだものね。ヤンデレのオンパレードで、殺害エンドもあって)
すっかり忘れていたけれど、元々このゲームのテーマがそういうダークなものだったから、一切そんな目に遭っていないメイベを見ると、あれ? おかしいなとは思うけれど。
殿下は気を落ち着かせるためか、お茶を飲み、息を吐いた。絵になるのは、当然なのだが、自分は悩んでいるといわんばかりのその表情がイライラした。メイベも、そんな彼の様子を見て、しょんぼりしている。この二人、もっと腹を割って話すべき何じゃないかと私は思った。そのために私は呼ばれたのかも知れない。
「メイベ、殿下にいいたいことがあるんじゃないかしら」
「えっ、わ、私ですか。私が、殿下に……」
「そうよ。いいたいことがあるなら、はっきりいえば良いわ。婚約者なんだし、対等でしょ?」
と、私は彼女に投げかけてみる。自分に戻ってくるブーメランだと感じつつも、自分にも言い聞かせるようにいった言葉なので、問題はない。
私も、ファルクスと、対等でいたい。今の関係を脱出したい。だから、同じように苦しんでいる彼女をどうにかしてあげたかった。
メイベは、グッと膝の上で拳を握って、顔を上げた。殿下も、自然と背筋が伸び、メイベの方に視線がいく。何を見せられているんだと思うけれど、仕方がない。早く彼女たちがくっついて、私の手の届かないところにいって欲しい。そうすれば、何も心配はないし、愚痴を聞かされることもないだろうから。
「あの、殿下っ」
「……何だ、メイベ」
「殿下は、まだスティーリア様のことが好きなんですか?」
「は?」
「はい?」
メイベの口から出たのは衝撃の言葉で、思わず私も反応してしまう。また、この子は何を言っているんだと、止めたくなったが、彼女の口は閉じることなく紡がれた。
「殿下は、私の婚約者です。でも、最近冷たくて。もしかして、聖女だって私が分かったせいで、スティーリア様と引き剥がされたんじゃないかって。それで、未練があって、私に冷たく当たるんじゃないかって、思ってて……」
「メイベ、違う。僕は……」
「では、殿下、私のこと愛していますか」
そう、メイベは殿下にむかって投げかけた。直球、ストレートに。殿下は面食らったように、口を開いては閉じて視線を斜め下に落とす。何故そこで、愛している問わないのか。私に未練があられても困るし、あるわけがない。だって、そうじゃないと私に……メイベがあらわれる前から私に冷たくする理由がないのだから。
もう、過去の男だけれど、こんな男に少しでも惚れていたと思うと自分でも情けなく思う。優柔不断。私は、殿下に何もしてあげられていなかったから、愛想尽かされたと思っているのに。
「あい……して」
「本当に、愛してくださっているというのなら証明してください」
メイベがそういって立ち上がった途端、私と殿下は同じタイミングで、身体から力が抜け、その場に倒れ込んだ。
身体が一瞬にして熱くなり、慌てて殿下の方を見る。彼も状況が理解できていないようで額に汗を浮べながら、メイベの方を見上げた。この熱、この感覚、記憶に新しい……
「メイベ、貴方まさか――……」
「スティーリア様、すみません。でも、私、方法が分からないので。二人に媚薬を盛らせて貰いました」
そう言った彼女の目は本気だった。
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