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第3章

09 魔獣討伐パーティー

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「反省した?」
「して………………しました」
「その間は何?」
「しました」
「本当に?」
「わん」
「吠えればいいって問題じゃないのよ。はあ……今日は、貴方が主役みたいなものだから、貴族との交流深めてきなさい」
「ですが、スティーリア様は」
「いってきなさい。これは命令よ」


 素直に、はい、といってくれるだけマシなのかも知れない。夜と、通常時の差はまだあるようで、いつも駄犬じゃないみたいだ。ただ、性欲が絡むと、発情犬になるのはもう仕方がない事というか。
 ファルクスの寂しそうな背中を見守って、私は引き止めそうになる自分の腕を下ろした。
 今夜は、魔獣討伐パーティー。四大魔獣の一匹を討伐したことで、残り三体の力も弱まり、帝国への侵攻も今のところ止っているらしい。ずっとそのまま停滞してくれればいいのだが、そうもいかず、またファルクスは戦場に駆り出されるだろう。今回の討伐で、大きな成果を上げたことで、注目されることとなり、アングィス伯爵の推薦なしで、魔獣討伐メンバーに強制的に組み込まれることになったらしい。ファルクスは、もの凄く落ち込んでいたしまた駄々をこねていたけれど、話を聞く限り、それはもうすごい活躍で、強くて、討伐に欠かせない人材だといわれてしまったのなら仕方ない。けれど、討伐で成果を上げるたびご褒美をあげていたら、私の身が持たないため、そこはまた対策が必要だと思った。
 それはともかく、今回そんな成果を上げたファルクスは、パーティーで注目されないわけがなく、彼の周りには沢山の人が集まっていた。彼が、敗戦国の奴隷であったこと、そして、アングィス伯爵の養子となったこと。何処まで知っているのだろうか。ファルクスからしたら、手のひらをくるくると返した人間が集まってきたという風にしか見えないかも知れない。居心地が悪いと感じているのも顔を見なくても分かる。


「スティーリア様っ」
「メイベ?」


 いつものように、端っこでラパンに持ってきて貰ったスパークリングワインを飲んでいると、メイベが私の方に駆け寄ってきた。そういえば彼女も、魔獣討伐のメンバーだったなと思い出し、いるのは当然か、と挨拶をする。
 聖女だというのに目立っていないのは、ファルクスが目立ちすぎているせいか。


「どうしたの?」
「あのっ、ファルクス様から何か聞いていませんか?」
「ファルクスから何を?」


 私が首を傾げれば、メイベは「ええ!」なんて声を上げて驚いた。オーバーリアクションなきもするが、元からこういう性格なんだろうと思うことに、私は詳しく話を聞くことにした。メイベは、ぺらぺらと、魔獣討伐でファルクスが守ってくれたことや、私に会いにいきたいと伝えてくれってファルクスにいったことなど、とにかくファルクスのことについて話してくれた。彼女の婚約者である殿下の話など一切出てこなくて、まるで、ファルクスが婚約者かのように話す。悪気がないのは分かっているし、それが恋愛感情じゃないんだろうなっていうのも理解できる。誇張していっているんだろうなって言うのも分かるけれど、私の婚約者の話を、私の前でする度胸と、無神経さに腹が立つ。


「そう、ファルクスがお世話になったのね」
「お世話になったのは私の方ですよ。優しくして貰って……」
「……ファルクスが」
「はい! 足がすくんでいた私に勇気をくれて! でも、魔獣はファルクス様が倒してしまって。本当に凄かったんです!」
「そうなの。メイベ、殿下の話は何かないの?」
「殿下……の? えっと、最近……」


と、メイベは、どことなく悲しそうに視線を下に落とす。何かあったのかと聞きたくなったが、踏みいって良いものなのかとストップがかかる。もう、私が断罪されるような未来はないだろうし、でも、別に意地悪をしたいわけじゃない。今より仲良くなろうとも思わない。けれど、昔の婚約者のことは気になってしまう。私を捨てたくせに、次の女性も悲しませているのかと。それは、何だか許せなかった。


「誰も聞いていないわ。話してみて、メイベ」
「いいんですか? スティーリア様の重荷になりませんか?」


 私のことを気にしてくれる様子なら、大丈夫そうだし、放っておこうかと思ったが、私は取り敢えず聞いてあげることにした。
 メイベは、蚊の鳴くような小さな声でぽつぽつと話し始めた。


「最近、殿下……忙しいって、何かと理由をつけてあってくれなくて。私、人の役に立てるように、薬剤の勉強をしているんです。殿下が元気になるような薬も作れるようになりたいって思ってて……聖女なのに、変ですよね……それで、殿下が私のこと避けているような、冷たくなって」
「そうだったの。変じゃないわよ。メイベは」
「ほんとですか!?」
「人の為に頑張ろうとしているその姿こそ、聖女の鑑じゃない?」
「スティーリア様!」


 メイベがいきなり抱き付いてきたため、バランスを崩しかけたが、何とか立て直し、私はメイベの頭を優しく撫でた。まるで、妹が出来たようで彼女を敵視していた過去の自分を恥じたいくらいだった。
 メイベは、婚約者に冷たくされて……それも、過去の私。彼女には幸せになって欲しいなと心から思った。彼女を苦しめている殿下が許せない。でも、今の私には何も出来なくて。
 そんな風に、メイベを抱きしめていれば、ふわりと金粉が舞うように、その彼が現われた。


「スティーリア」
「……殿下」
「殿下!」


 レグラス・リオーネ殿下、私の元婚約者は機嫌悪そうに私達の元へやってきた。メイベと私を交互に見て、何か言いたげに口を開いたと思えば、ギュッと閉じて、薄い笑みを浮べる。似合わない笑みに、私は違和感を覚えたが、メイベは自分に微笑みかけられたと思って、機嫌が直ったようだった。


「スティーリア、僕の婚約者が世話になった」
「いえ。殿下……楽しくお喋りしていただけなので。殿下こそ、何処にいってらしたの?」


 私が、にこりと笑って殿下に聞けば、彼はメイベの方を見た後、同じような態度を取ってメイベの頭を撫でた。


「少し野暮用があってな。メイベ、ファルクス・アングィスが呼んでいたぞ」
「ファルクス様が!?」


 ファルクスが、そんなことを? と思っているうちに、メイベは何処かに行ってしまい、私は殿下と二人きりになってしまった。あれは、嘘だったのか、それとも本当だったのか……真偽を確かめる術はなく、私も、メイベの元に向かおうかと考えたとき、腕を捕まれた。


「何の真似ですか、殿下」
「スティーリア、少し話さないか」


 話をしようといっている人の態度では明らかになかった。私は、嫌な予感がして、今すぐこの場を離れたかったが、手を離すつもりはない、と彼のルビーの瞳が私を貫き、その場に縫い止められ動くことが出来なかった。


「話、ですか? 今更何を?」
「……話がしたい。それくらい、昔のよしみで付合ってくれてもいいじゃないか。君は、本当に……」
「小言は聞きたくありません。殿下は目立つので、場所を変えましょう」


 私は、彼の手が緩んだ隙に、振り払い庭園に出ようと先を歩く。ついてこなければいいと思ったが、殿下は私の後を追いかけてきた。一体どういうつもりだろうか。真意が読めなくて怖い。けれど、殿下がメイベに優しくしない理由を聞きたくて、過去の私がそこにいる気がして……メイベを救ってあげたい、なんてどうしようもない気持ちが生れてしまったから、逃げることは出来なかった。


(ほんと、馬鹿みたい……)


 それに、これまでの態度を改め、謝ってくれるんじゃないかって期待している私がいたのも、事実で。私は私が許せなかった。自分で突き放したファルクスが早く戻ってくることを願いながら、私は静かな夜の庭園に足を踏み入れた。


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