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第4章 元悪役令息と元駄犬
10 さて呪いは解けましたか◆
しおりを挟む「兄ちゃん!」
「ね、ネルケ……おわっ!?」
クライスの家で何か着れそうなものを探しそれを拝借して屋敷を出ると、見慣れた馬車を見つけ、俺はそこから出てきた亜麻色髪の男にタックルされた。
その正体が、主人公であり中身が弟であるネルケであることに気づくまでにそう時間はかからなかった。だが、何でこいつがここにいるのか理解できずに頭にクエスチョンマークを浮かべていれば、馬車から黄金の彼が下りてきた。
「ジーク!?」
「無事だったか。ラーシェ」
息を切らしてこっちに向かってきたジークを見て、俺はさらに目を丸くする。今日はオールスター感謝祭か何かだろうか。
というか、本当に何故この二人がいるのかわからず、思わずゼロのほうを見ると、どこかよそよそしい態度で顔をそむけた。ああ、なるほどな、と俺は理解してジークとネルケを交互に見る。
(ゼロが最初に言ってたって感じか……まあ、ゼロらしいな)
まだ証拠が完全につかめたわけじゃなかったので、ジークには言わなかった。自分で解決してやるんだと躍起になって、そしてひどい目にあった。だが、証拠をつかんで捕まえられると確信していたのか、ゼロはジークたちに話を通していたらしい。ジークなのか、ネルケなのかは定かではないが、保険というか一応クライスが逃げないようにと固めていたらしい。俺に黙って。
その選択が間違っていたわけじゃないし、むしろありがたかった。このままクライスをあそこに放置してもよかったのだが、さすがにかわいそうになってきた。あれはただクライスを絶望させるための演技だった。だから実際には蹂躙しろなんていっていない。ただ咄嗟にかけた魔法であったため、どこまで横領を持っているかわからない。なので、本当に今、クライスは掘られに掘られまくっているかもしれない。俺の知ったことじゃないけど。
「それで、この間の犯人は」
「さあ? 俺に魔法をかけてきやがったから、返り打ちにしてやった。気絶でもしてんじゃね?」
掘られて気絶してるかもしれねえよな、と俺は乾いた笑みがこぼれる。
そんな俺を見てか、ジークはほっとしたような、それでいて呆れた顔で「やりすぎだ」と俺のほうを見ていった。ちなみに、まだネルケに抱き着かれた状態で、身動きが取れない。
(てか、クライスの服デカすぎるんだよ……こいつ、足長かったんだな)
背丈が合わない。袖も余る、ズボンは俺が腰が細いせいもあってゆるゆるで落ちてきそうだった。これは窃盗になるのだろうか、なんて考えながらも、俺はジークの言葉に少しイラっとした。
「君はいつもやることが無茶苦茶すぎる。もう少し大人しくできないのか」
「やられたらやり返す義務があんだよ。それに、俺は死にかけたんだ。気絶させたくらいでギャーギャー言ってもらっちゃ困るぜ」
「……気を悪くさせたのなら申し訳ない。そういう意味で言ったわけじゃないんだ。少し心配だったんだ」
と、ジークは訂正するように言うと視線を落とした。
その表情を見て、こちらもさすがに言いすぎたかと反省し、ジークに「わりぃ」とだけ伝える。
慌てた様子で馬車から降りてきたんだ。それは、ネルケがいきなり飛び出してきたからじゃなくて、俺を単純に心配してくれてのこと。それはわかっていたはずだったが、さっきのこともあってまだ気持ちが落ち着いてなかった。
言い訳をしたいわけじゃないし、喧嘩をしたいわけじゃない。俺はそんなことを思いながらジークに手を伸ばした。
「けど、まあ。助けに来てくれたんだろ。それは、めちゃくちゃありがとうって思ってる。さすがは、俺の親友」
「君はあいかわらずだな、ラーシェ。変わってなくて……いや、変わっても変わってなくてなんだか安心するよ」
ジークは差し出した俺の手を握って握手を交わす。それから、ネルケに大丈夫だったかときつく抱きしめられ、内臓が出そうになりながらも、ことの経緯を話し納得してもらった。ネルケもネルケで、前世のこともあってか、俺のことを心配していたらしい。その気遣いは嬉しかったし、俺のためにジークをせかして馬車を飛ばしてきてくれたというのだから、泣けてきた。俺はちゃんと、前世で兄をやれていたんだと、それの照明みたいだったから。
そうして、事情聴取もそこそこに俺とゼロは逃げるように帰った。もちろん、また後日呼び出されるだろうが、一刻も早くこの屋敷から離れたい気持ちが強かったのだ。
帰りの馬車でゼロは一言もしゃべらなかった。だが、怒っているわけでもなく、悲しんでいるわけでもない。どちらかというと、何かを考えて思い詰めているようなそんな顔だった。
(帰ったら……ご褒美、やらねえとな)
怖い思いをしながらも、ゼロの横顔を見て、なんとなく俺はゼロが欲しいものを察した。
馬車が公爵邸についたのは月が昇り始めたころだった。長い時間あの屋敷にいたのか、と思いながら、俺は心配して出てきた老執事にある程度事情を話し、後のことは明日話すとゼロを引き連れて自室に戻った。老執事には、部屋には誰も近づけるなと言っておいたので、問題はないだろう。
俺は、自室のカギを内側からかけ、盗んできたクライスの服を脱ぎ捨て、パンチ一枚になる。
ゼロはそんな俺を黙って見つめていた。
「何だよ。がっつくと思ってたのに」
「……先ほど、怖い思いをして。ラーシェは何ともないのか?」
「怖いよ、今でも震えてると思うぜ。でも、お前に言っただろ。すべて終わったら、ちゃんと伝えるってこと。俺の身体好きにしたいだろ?」
と、俺は挑発的に自身の腹に手を当てた。ゼロは、ごくりと喉を上下させたが、頑なに俺に近づこうとしなかった。
まあ、乗り気じゃないのもわからないでもない。こいつだって怖い思いをしただろうから。
俺は、ゼロに近づいて、クライスに人間でいう腕と腹を蹴られたんだよな、とパンツ一枚でゼロの身体に触れる。ゼロは、びくっと体を動かしたが、そのあとはじーっと俺を見つめたまま動かなくなった。
「怪我は?」
「もう大丈夫だ。元に戻ったとき、傷も消えたからな。いったい、どういう仕組みなのか」
「……呪いは?」
「呪い…………」
「ほら、癒さなくても、俺とのキスで人間に戻っただろ。あれが不思議で。呪いが解けたんじゃねえかって一瞬思ったんだけど、さ。違う?」
「……まだ、ラーシェから言葉を聞いていない、からな」
ゼロは、ぶっきらぼうにそう言って、俺の頬をするりと撫でた。
呪いが解ける条件は『愛されること』。十分愛しているつもりだが、本人がそう思わなければ解けないらしい。
ゼロなりに、言葉をくれ、行動で示せと俺に催促してきているのだろう。だが、それを口にすれば、俺がまた距離をとるんじゃないかって怖がっている。そういうふうに見えた。
(変なところで、意気地なしだな)
俺は、少し恥ずかしかったが、ゼロの腰にそっと腕を回して、正面から抱き着いた。こんなこと、家族にもしなかったのに。
ゼロは、俺に抱きしめられると、軽く息を吐いて、俺を抱きしめ返した。そうやって、俺たちは抱き合って、しばらくして、俺はようやく固く結んでいた口が閉じた。
「俺、お前のこと好きだよ……いつからか、わかんねえけど。お前の存在が強烈で、お前がいなきゃダメな身体になって。ポメラニアンのお前も、今のお前も。どんなお前だって好きだよ、ゼロ。呪い、かけちまってごめんな。これからも、いろりお、きっと迷惑かけるけど、でも、そばにいてほしい。ダメ、か、これじゃ」
弱弱しくなっていく自分に、ちゃんと最後まで言い切れよ、と活を入れて「愛してる」と付け加えるように言葉を吐く。すると、ゼロは「俺も」といったかと思うと、ポンと音を立ててポメラニアンの姿になってしまったのだ。呪いは解けたんじゃなかったのか。
「ぜ、ゼロ!? なんで!?」
「……わ、わからない。感極まってか?」
と、ゼロも理解していない様子で俺を見る。だが、見上げられたところでどうにもならないんだが、と思っていると、ゼロは何かを考えるようにうつむいてから、ぎゅっと目を閉じた。すると、またしてもポンと音を立てて人間の身体に戻ったのだ。
一体何が起こったのか理解できずにいると、ゼロは手を握りながら「自らの意思で、犬になれるようになったみたいだな」と分析を述べた。意味が分からない。だが、ゼロはそれでもいいと目を閉じて、俺の顎を掴むと目線を合わせてきた。これはきっとそういうことだよな、と俺は高鳴る胸をなだめつつ、ゼロからのキスを受け入れた。分厚くて熱い舌が俺の中に入ってくる。こいつが、普通のキスで済ますわけがなかった。くちゅ、ちゅぷと水音が響き、静かな部屋の中を満たしていく。俺はゼロにしがみつきながら必死にそれについていく。
「ラーシェ」
「ぜろ……やべえ、くらくらする……」
「……そうか。本当に、ラーシェは気持ちいことが好きだな」
ゼロはそう言って微笑むと俺の身体を持ち上げてベッドへと運んだ。そして、そのまま俺を組み敷いて、もう一度キスをする。今度は先ほどよりも少し長くて深いキスだったと思う。
「ん……ふ……あっ、ゼロ」
「いいのか、ラーシェ」
「ハッ、そのつもりで、さっきから誘ってんのに。お前、こういうときだけ忍耐つーか、理性保ちやがって。俺が恥ずかしいだけだろ」
「拒まれていると思っていた。アンタを目の前にすると、胸の中がかき乱されて、ままならない。だから、平常心を保とうと、冷たくしてしまう」
「わかってるっつーの、お前のことくらい」
俺のために耐えててくれたんだよな、とゼロの唇をぺろりと舐める。すると、ゼロはごくりと喉仏を上下させ、俺の胸に手を置いた。
「今日は、最後までさせてくれるのか?」
「だから、そういってるだろうが! ああ、もう、お前も脱げ。俺だけパンツ一枚なんて寂しいだろ」
「そうだな。だが、初めてなのに最後までするのか? 俺のは大きいが」
「知ってるーっつーの! 何回、お前のチンコしごいてきたと思ってんだ! 理解してる!」
こいつのブツがどれほど凶悪なのかは俺は理解している。何度しごいたと思ってんだ、何度素股させてやったと思ってんだ。けれど、中に入れるのは初めてで、身体はこわばっていた。だが受け入れるといった手前、やらないとか男がすたると、俺は手に集めた魔力で尻を叩いた。いきなり俺が尻を叩くものだから、驚いてゼロは「何をしている?」と俺の手を掴む。俺はその手を振りほどいて、何度か叩いた後に、ふぅ、と息を吐いた。
「慣らすの面倒だろ? すぐにぶち込めるように、魔法で中解したんだよ。これで、いつでも突っ込めるぜ? ……って、何落ち込んだ顔して」
「いや、それも全部したかった。だが、善意にはそれ相応に答えないとな」
シュンと、耳を垂れ下げつつゼロは俺の尻をさわさわと撫でた。ただくすぐったくて、身がよじれるが、だんだんと穴に近づいていくことに、その指の動きは戦災に、嫌らしくなっていく。こいつに、前戯なんてまかせたらねちっこくて、それだけで夜が明けてしまうだろうから。俺の選択肢は間違っていないといいたい。
「じれったいな。早く突っ込めよ」
「いいだろ。それに、初めてだ。記憶に残るものにしたい。それに、これはただの性欲処理じゃない。恋人同士のセックスだ」
「こ、恋人…………」
「違うのか?」
「い、いーや、違わない。つか、せ、いや、そうだな。恋人同士の!」
あまりにも恥ずかしげもなく言うものだから、こっちが照れてしまう。
恋人だと意識すれば、身体がきゅんと奥からしまるし、何よりも、そう思われていることが嬉しかった。恋人、恋人かあ……と、俺は心の中で繰り返す。
ゼロは、俺の身体を撫でて、大好きな陥没乳首にもキスをおとした。本当に舐めるのが好きだな、と好き勝手するゼロが事を進めるままに身を委ねる。キスをせがまれるがまま口づけを交わして、ゼロは数度自分のをしごいて、俺の穴にぴたりとあてた。
「本当に、挿れていいのか?」
「ダメっていったらやめるのかよ」
「やめない……痛かったらいってくれ。ラーシェ」
「……い、いいからこいよ」
こういうときだけ、リードを握らせようとしてくる。散歩に行きたいくせに、飼い主に許可を求めている子犬。けど、こんな大きい子犬いねーよ、とただ俺だけを見つめるターコイズブルーの瞳を見て、俺はこくりと頷いてやった。すると、ゼロはようやくふっきれたようで、俺の腰を掴んで、グッと自らの腰を進めてきた。
「ラーシェ……愛している」
そう耳元でささやかれて、ゆっくりと押し入ってきたのはサイズを知っているはずの大きなものだった。痛いとか気持ちいいとかじゃなくて、ただ苦しい。息ができない。圧迫感で息をするのもやっとなほどだった。わかっていたはずなのに、いざ受け入れると、はくはくと口を動かすことしかできない。
その質量に、意識さえ飛びそうになるが、なんとか耐えた。ゼロは俺を気遣って休まずに腰を動かしてくるし、なんだか笑えて来てしまう。大方、俺が変な呼吸をしだしたことに気が付いたからだと思うが。
でも、俺はそれが少し嬉しいとも感じた。恋人を労わってるってことだよな、なんて解釈をしてぐっとお腹に力を入れる。すると、ゼロのうめき声が聞こえたのでそれを気持ちいい合図だと受け取った。俺はそれに気をよくして快楽を追うようにさらにお腹に力を入れる。すると、ゼロは「ラーシェ」と俺の名前を呼んだ。
「な、なに」
「あまり、そうされると……もたない」
「……へ? あ、ああ! おま、でかくすんな!」
「すまない……」
「あ、謝んなくてもいいけどさ、おま、自分の大きさ考えろよ?」
「善処する」
と、多分もう限界が近いゼロはそういったかと思うと、先ほどまで緩く動かしていた腰を一気にドチュンと奥におし進めた。
いきなりのことで、かはっと口から腹の中の空気が漏れる。それ以上に、まだ全部入り切っていなかったのかと驚きもあって、目の前に星が散る。イメージトレーニングは完ぺきだった。けれど、そのすべての想像を超えてくる。
「おい! あほ! やめ……あン! おいっ」
「すまなっ、ラーシェ、でもっ!」
俺は止めるよう言うがゼロの腰の動きは止まらない。気持ちい、けど、いきなりすぎて追いつかない。大きいだけじゃなくて、長いから一回のストロークがバカみたいに長い。そして、引き抜いてドチュン、パチュンと奥に穿つ。
どんどん激しくなっていき、俺の口からもひっきりなしに声が漏れた。そしてそれは次第に大きくなっていって、ゼロにも聞こえていたらしい。
「可愛いな、ラーシェ」
と、口をふさがれながら言われてしまえば俺はもうダメだった。これ以上ないってくらい顔が赤くなるのがわかる。顔は熱いし、何か変な感じもするし、自分ではないみたいな高い声が響いてて恥ずかしいことこの上なかった。そしてそれはゼロを興奮させるようでさらに俺の中をかき乱す。
もう何も考えられなくなって、ただ目の前の獣に食らいつくのが精いっぱいで、俺もまた快楽にのまれていった。さっきまで、リードを握っていたはずなのに、いきなり走り出した犬のようで。いや、犬なんてかわいいもんじゃない、本当に獣そのものだった。
俺を貪りつくす、駄犬。
「ん、あ……っ、ぜろ」
「ラーシェ……ッ」
俺はゼロの背中に爪を立てて、足を腰に巻き付ける。無意識で、何かにつかまっていないと不安だったから。すると、ゼロも俺の腰をつかんでさらに奥深くに自分のものを押し込んだ。俺は、その瞬間今までにないほど盛大にイった。ピュッと自分の顔にかかるくらい勢いよく白濁が飛び散って、仲がわななく。その振動もあってか、ゼロは「クッ……」と苦しそうにうめいて、そのまま俺の中で果てたのだ。
よかった、こいつも気持ちいいんだな、と俺はまだ入ったままのゼロを上から撫でた。ポッコリとそこだけお腹が膨らんでいる気がする。
「……ラーシェ」
「なんだよ……」
「もう一回だ。気持ち良すぎて、癖になりそうだ」
「は?」
一回で終わるとは思っていなかった。だが、感覚を空けてやるものだと思っていた。まだ敏感で、震えっぱなしの身体に鞭を討つゼロ。中で果てたはずのゼロのチンコはすでに硬さと熱を帯びて、俺の中で再び膨張している。そして、ゆるりと腰を動かせば、俺の中は悲鳴を上げて収縮を繰り返す。ゼロはそれも気持ちいというように、はあぁ……と熱っぽい息を吐いた。
「ちょ、ゼロ、時間空けて、な?」
「食わせてくれるといったのはラーシェだろ。朝まで付き合ってもらうぞ?」
「あ、朝!? 初心者にそれはきつ……ひぎぃっ!? あ、あ、ぅっ、やめっ、ゼロオォ~~ッ!!」
目の中にハートが浮かぶ。すさまじい快楽の波が押し寄せて、俺を包み込んでいく。
俺を抱きしめ、自らの趣旨を内側に塗り込むようにゼロは腰を進める。それも、獣と一緒だった。
俺はそんなゼロに振り回され、揺さぶられながら、意識が飛ぶ寸前まで、こいつの熱を感じていた。体力が足りない、そう思ったころにはすでに、俺のチンコはくたりと射精せずともイケるようになっていた。
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