悪役令息の俺、元傭兵の堅物護衛にポメラニアンになる呪いをかけてしまったんだが!?

兎束作哉

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第4章 元悪役令息と元駄犬

06 自称お友達のお宅へGO

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「ああ! 来てくれないかと思っていました。ラーシェ」
「わりぃな、風邪をこじらせちまって」


 嘘だ。風邪なんてひいていない。
 クライスから手紙が来たのはちょうど一か月前のことだった。丁寧に折りたたまれた手紙。文字も崩れていない、気持ち悪いほどまっすぐに書かれていて、内容だってどこか薄っぺらくてうわべだけの付き合いっぽい。そんな手紙が送られてきたのが一か月前。
 その間何をしていたかといえば、ジークに頼んで狩猟大会が行われたあの森に連れて行ってもらっていた。俺はあの日襲われた恐怖から、森に入るのも気が滅入っていたが、まだ痕跡が残っているかもしれないとジークに無理を言って連れて行ってもれっていたのだ。結果は、まあ――
 クライスは、俺を出迎えると嬉しそうにハグをする。挨拶なのだろうがこれもまた大袈裟な、とすべてが演技に見えてきて仕方がない。だが、下手に突っぱねれば、クライスを疑っているとバレてしまう気がして、俺は俺なりに下手な演技で返した。クライスは気づいていないらしく、俺を家に招き入れる。
 侯爵家というだけあって、敷地面積の広い豪華な家に住んでいた。公爵家と違うのは家具の色合いや、飾られている絵画や彫刻か。まあ、これは好みや、交友関係とかにも左右されそうなので何も言わない。
 家の中は特別変わったものはなく、金持ちの貴族の屋敷という感じだった。ただ、使用人は異様に少なく、屋敷の中はしんと静まり返っている。すれ違った使用人は、ぺこりと頭を下げるばかりで何か話しかけてくることもない。せっせと仕事をしては通り過ぎていく。そんな感じだった。


「風邪と言っていましたが、今はもう大丈夫なんですか? 何か、流行病でも?」
「いや、流行病じゃねえんだけど。狩猟大会とか、他にも家のことでいろいろあってさ。まあ、それで風邪をって感じ。もう今はピンピンしてるから気にしないでくれよ」
「そう、でしたか。病で若くして友だちを失うなんて考えたくもないです」
「はは……そうかよ」


 本気でその口で友だちといっているのだろうか。泣くような演技もしたが、さすがにそれはジョークの一種だと俺は笑い飛ばす。
 一応、魔法を何重にも掛けてきたが、こいつの洗脳魔法にはかかっていないだろうか。何がトリガーで魔法が発動するかわかっていないので、気を抜けない。だが、緊張していることを悟られるのもだめだ。
 ゼロは、黙って俺の後をついてくるばかりで何もしゃべらない。これも俺がわざと命令したからだった。
 いざとなったらゼロが取り押さえる手はずになっている。こういうのを任せたらゼロはぴか一だからだ。


「どうぞ、おかけになってください」
「ああ」


 ある部屋に案内され、促されるまま俺は部屋に入る。通された部屋は質素で部屋の中心に向かい合ったソファと椅子がある味気ない部屋だった。
 俺はそのソファに腰を掛け、ゆっくりと俺の前に座ったクライスを凝視していた。すると、アメジストの瞳と目があい、にこりと微笑まれてしまう。


「なんだか、今日は距離感を感じますね。僕のこと嫌いになったんですか?」
「いや、風邪……朝から、調子がちょっと悪くて」
「先ほど、ピンピンしてるって言ってませんでしたか?」
「慣れねえところ来ると、腹が痛くなるんだよ! あるだろ、クライスも」
「まあ、そういうこともありますね」


(あっぶねえ~バカみてえに、バレるところだった)


 後ろからゼロに何してるんだという目で見られている。
 やはり、意識すればするほどダメだな、と俺は息を吐く。だったら、初めからネタ晴らしをして捕まえるのがいいのだが、証拠を突き出す前に捕まえてもな、と思う。
 クライスは、お茶を淹れましょうか? と聞いてきたが、俺はそれを断って、とあるものを机の上に置いた。


「弓矢、ですね。しかもすでに射られた後の」
「ああ、これに見覚えは?」
「確かに、当日僕は弓矢で狩りを行っていましたが、それがこれと何の関係が?」
「魔力が籠ってた」


 俺がそういっても、クライスはうんともすんとも言わなかった。しらばっくれているのか、本当にわからないのか、あるいは焦って何も言えないのか。
 証拠としてあの森で見つけたのはこの弓矢だった。熊の魔物に刺さっていたのが一本、だがあれは魔物が消滅したときに消えたとジークに聞いた。そして、森の中を探索していると木の根っこに突き刺さったままの弓矢を見つけた。それが、こいつの持っている魔力と偶然一致したのだ。
 一本目は外し、二本目はあの熊にあてた。そして、この魔力のこもった弓矢があの熊を魔物に変えたのではないか。なぜ二本目が残っていたかはわからないが、とにかく証拠は手に入れることができた。そして、この男があの魔物騒動の犯人だと俺は今、突きつけたのだ。


「お前が犯人だろ。あのときの、熊を魔物に変えたのは」
「さあ、何のことだか」
「しらばっくれても無駄だからな! 狩猟大会で魔法は禁止されてた。そのうえ、魔物を使役する……洗脳魔法は法律上アウトじゃねえけど、基本グレーゾーンだ」


 もう逃げられないぞ、と俺はゼロに威嚇をしてもらい、クライスを見た。
 だがクライスは痛くもかゆくもないように俺を見た後、耐えきれなくなったように噴出した。


「何がおかしいんだよ」
「ええ、いえ、全部おかしいです。ラーシェ」


 と、クライスは言うと、目にたまった涙をぬぐった。
 いかにも悪役っぽいしぐさに言動だから、こっから嫌なことしか起こらない気がする。よくある漫画とか小説の、悪役が暴かれるシーン。正義は最後には必ず勝つものの、それまでに壁が立ちふさがることはこれもよくあることだ。一応、変な動きをしないかと気にかけているものの、これだけの至近距離、魔法を討つのは俺が早いだろうし、いつだって制圧できる距離にいる。この状態で、クライスが勝てるわけがない。
 何か策があるのかもしれないと、緊張は解かないでいるが、得体のしれないものを相手にしているようで冷汗が背中を流れていく。


「だって、何で弓矢が残っていたんですか? そもそも、捜索されているはずじゃないですか。森の中は。なのに、何で今、そんな証拠が出てくるんです?」
「見逃してたんだろ、それくらい。だってこんな木と同化しているような弓矢……見逃すはずだって」
「ああ、バカで愛おしいですね。そこは、変わっていない。昔のラーシェ・クライゼルのままだ」
「はあ?」


 クライスは自分の身体をさすって、喜びに震えるようにそういうと、うっとりとした目で俺を見てきた。そして、手を伸ばして、愛でも語るように俺に言う。


「君があの森に行くだろうと踏んでわざと残してきたんですよ。言っておきますね、もうすべてバレているんです。君がここに来るまでに一か月かかった原因も、僕が犯人だって突き止めたっていうことも。僕を捕まえようとしているということも」
「そうかよ、じゃあ話が早え。それに、今自白したからな」
「はい、自白しましたね」
「……何が目的だ」


 自白もして逃げ場はないというのに、まだ余裕そうなクライスを見ていると恐ろしくて仕方がない。何を最終兵器として隠し持っているのだろうかと考えてしまう。だが、二対一だ。ここからどうやって挽回するつもりなのだろうか。
 クライスは、くくくと喉を鳴らしながらアメジストの瞳をギラリと光らせる。
 確かに今言われた通り、違和感は感じていた。熊の魔物に刺さっていた弓矢はとっくに消えているのに、もう一本が残っているなんて。しかも、俺が見つけた……俺に見つかるようにしていた、俺が見つけるように仕向けていた。そして、俺の一か月の行動がなぜか漏れていると。どこまで策士なんだと俺は歯噛みする。
 もともと食えないやつだと思っていたが、ここまで来るともう恐ろしい。本来であれば俺がこの世界のメイン悪役のはずなのに、その座を奪われた気にもなる。
 そんな悪役の座は譲ってやるよと言いたいが、それもまた違う。


「目的ですか? ラーシェが思っているようなたいそうなものじゃないですよ」
「だったとしても、あの魔物が暴れていたら他の奴にも被害が出ただろう。それはどうなんだよ」
「出ていたら出ていたときじゃないですかね。別にいいじゃないですか。あれくらいの魔物倒してくれないと。物理攻撃はあまり聞きませんけど、魔法さえ使えたらどうとでもなる相手ですよ。ラーシェだって、万全であれば敵でもないでしょ?」


 と、クライスは俺を同列に扱ってニヤリと口角を上げる。
 それも確かにそうなのだが……


(無差別殺人気じゃねえかよ。気色わりぃ……)


 いまさらながらに、こんなやつ妹の書いた小説にいただろうかと記憶を巡らせる。だが、思い当たる人間がいなくて諦めて目の前の男を見る。まあ、あの妹のことだから、性格と性癖がひん曲がっているやつの一人や二人くらいいてもおかしくない。それがたとえモブだったとしても。


「じゃあ、お前は私利私欲のためにあんなことしたっていうのかよ。人が逃げ惑う姿でも見たかっていうのか、このクズ」
「クズなんて、ラーシェに言われたくないですよ。僕と同等の魔法、服従魔法を使える魔導士なのに」
「今は使ってねえよ! クズはクズでも善良なクズだわ、俺は!」
「……主、それを言っていて寂しくないのか」


 さすがに、突っ込みを入れざるを得なかったのかゼロはそう言ってため息をついた。
 やかましいわ、と思いつつ、俺とお前は違うんだと、クライスを睨んでやる。すると、それすら喜びのようにクライスは震えるものだから、また悪寒が走る。


「ああ、やはりいい。君は最高だよ、ラーシェ・クライゼル。一目会ったときからずっと、僕は君を愛していた」
「ハッ、お前の片思いなんて知るかよ。さっさと、お縄にかかりやがれ。クライス・オルドヌング!」


 ゼロ! と名前を呼べば、ゼロは承知したというように椅子を飛び越えクライスにとびかかった。さすがのクライスもいきなりのことで驚いたのか、目を丸くしている。これは、勝負あったな。
 先制攻撃を仕掛ければこっちのもんだと、俺はクライスに勝利の笑みを送ってやった。

 
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