悪役令息の俺、元傭兵の堅物護衛にポメラニアンになる呪いをかけてしまったんだが!?

兎束作哉

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第3章 不遇令息と猟犬

08 寒いからあっためろとはいってない◆

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「ぶえっくしゅん…………!! さ、みいぃい!」
「大丈夫か、主。俺が温める」
「いや、お前十分あったかいよ。それでも、な、やっぱり、濡れた服を着続けるのもどうかと思って。へくしゅんっ」


 燃え盛る炎の前で体を丸め、膝の上にゼロを乗せて暖を取っているが、それでも寒いものは寒かった。今着ているものはパンツだけで、後は火の周りで乾かしている最中だ。重かったゼロの剣も洞窟の壁に立てかけてある。
 ぶるりと体を震わせれば、心配そうにゼロがくぅんとなくので俺は胸に矢が刺さる。中身があの大男だとわかっていても、今のゼロはかわいいポメラニアンの姿で、そんな可愛い毛玉に心配そうな丸い瞳を向けられたら誰だって萌え死ぬだろう。俺は、萌え死にするかつかつでこらえて大丈夫とだけいって火に手を当てる。
 ゼロが今人間の姿に戻ったらびしょ濡れのままか、それとも服は乾いているのかはわからない。ただ、この温もりがなくなるのが嫌で、俺は撫でるだけにとどめて癒すことはしなかった。こいつは早く人間に戻りたいのかもしれないが、俺のわがままに突き合わせている状態だった。


「ゼロ、視線がうるさい。てか、お前俺の胸見てるだろ」
「見ていない」
「速答するのが怪しすぎんだよ! もう、お前……恥ずかしいだろ。こんな乳首」
「別に、人の身体を差別するようなこと言わない。自信を持て主。誰にも見せない」
「おい、それが差別だって言ってんだよ。クソポメラニアン」


 ゼロはつぶらな瞳で俺の陥没乳首を凝視し、はっはっと下を出して揺れていた。嫌な予感しかしなかったので、俺はゼロを膝の上から退けようと思ったが、ゼロがくぅんとなくので下ろしづらかった。


「癒したほうがいい?」
「癒す……ああ、呪いの一次的なあれか」
「何で忘れてんだよ。お前、今ポメラニアンなんだからな」
「そう、だったな。非力な犬……どちらでもいい。主が寒くならないほうを選んでくれ」
「うぇ……お前が人間体に戻ったら、そのゴリゴリの筋肉で俺を圧死させようとしてたってことだろ。筋肉布団は勘弁」
「加減はする」


 と、真剣な目で言われてしまったので、俺はそれ以上何も言わなかった。
 裸の男に後ろから抱きしめられるなんて、ゼロに好意のある女性だったら喜んだだろうが、俺は別に嬉しくない。もちろん、それが声明をつなぎとめるための行為だったとしても、今ポメラニアンのゼロを抱えているだけでも温かいのだからそれでいいだろうと思ったのだ。


「てかさ、ゼロ。俺のこと、崖から落ちる際にラーシェって名前呼んでたけど、どういった心変わりだよ。ああ、今は主って言ってるけどさ」
「……別に」
「別にじゃねえし、回答になってないからな!? 俺、ずーっと気になってたんだけど、主ってなんか距離感じるんだよ。お前の雇い主だけど! けど、まあ、俺が雇い主、だし、公爵子息だし、ラーシェなんて呼び捨て、本当はダメなんだろーけど!」


 自分でも何言ってんだろうと思った。それでも、あのとき、必死に俺の名前いったこいつの声が耳に残ってるから。


「なんか、お前と最後の距離! 壁! 俺の前だけでいいから、名前で呼んでみてくれないか? なあ、ゼロ……」


 懇願に近かった。いや、命令かもしれない。
 ゼロはしばらく黙っていたが、膝の上でもぞもぞっと動き、俺の胸に手を置く。


「……ラーシェ」
「……っ! ゼロ!」


 ゼロはそれだけ言って、また黙ってしまった。俺はその一言が嬉しくて、思わず顔がにやけるのを手で隠してからゼロのほうを見る。すると、ゼロも俺を見ていたようで視線が合う。


「これでいいのか、主……いや、ラーシェ。というか、何故そんなに喜んでいる! ぐっ、苦しい。絞めるな主……今の俺はポメラニアンだぞ」
「いーや、嬉しくって。やっぱいいな、お前の声で俺の名前呼んでくれるの。耳ぞわぞわっとすんだけど、それも癖になるっていうか」
「意味が分からない」


 思わず抱きしめてしまえば、ゼロは苦しいと腕をぴんと伸ばしていた。さすがにかわいそうになって話してやれば、また威嚇するように牙を見せて毛を逆立てている。その姿さえ愛おしいと思ってしまった。ただ名前を呼んでくれただけなのに。男同士でどーでもいいそんな名字で呼ぶか、名前で呼ぶかみたいな差なのに。
 ただそれだけで距離が縮まったように思うのは不思議だ。
 俺が嬉しさのあまりニヤニヤとした顔のままでいると、ゼロはなぜか腹を立てたように俺の胸に飛び込んでそのまま乳首をそのザラザラとした舌で舐め上げたのだ。


「んひぃいっ!?」


 いきなりのことで俺は変な悲鳴をあげてしまい、ゼロを引き離そうとする。が、それを許さないというように、ゼロは俺の乳首をその舌で舐め続けた。


「んっ! ちょ、はぅっ! やめろ、ゼロ!」
「ラーシェ」


 俺の名前を初めて呼んだときと同じで真剣な目で、脳に響くような低い声で言われると何も言い返せなくなった。体はポメラニアンの癖に、その声が男らしくて。俺も男なのに、なぜか抵抗をしてはいけないという気になるのだ。
 ゼロの小さくも温かい舌が俺の陥没した乳首を舐め上げ、吸い出そうとしている。乳輪をべろべろと舐めてそれから、埋まった部分に舌をツンと押し当て、そして深く埋まった乳首を掘り出すように舐めて吸い上げる。下半身にも熱が集まりはじめ、今にも暴発しそうなほど膨れ上がる。痛い…………けど、この駄犬をどけないことには抜けない。


「んひっ 、あぅ、やめろ、ゼロ。んな、犬みたいな!」
「甘い……」
「甘いわけがないだろ、クソが!」


 俺がそういった瞬間、ポンと音を立ててゼロが人間の姿に戻る。シャツはきているものの、まだどこか濡れていて、筋肉に張り付いている。


「は、ははは……戻ったじゃん。よか……」
「ラーシェっ」
「……っ」


 先ほどは丸かったはずのターコイズブルーの瞳が鋭く、暗い洞窟の中でギラギラと光っている。それに射抜かれれば、また自分の身体が制御不可能になる。指先さえ動かせず、息をすることも忘れてしまった。
 こんなはずじゃなかったのに。いや、何で俺がこんな。
 マウントポジションをとられ、俺はいわゆる馬乗り、壁ドンをされ押し倒されている。ゼロの身体から熱っぽい蒸気が出ているようにも見えて、こいつが興奮しているというのが伝わってくる。
 そうだった、と俺の頭は思い出す。ポメラニアンから戻ったとき、こいつは発情した状態の人間になるのだと。


「ゼロ、しかたねーから、抜いて……おいちょっと、聞け!」
「先ほどの続きをさせてくれ」


 と、ゼロは俺の生死を聞かずに、俺の腕を片手で縛り上げ、先ほどよりも長く分厚い舌で俺の乳首を舐めはじめた。


「あんっ! んぁっ、はう、はふっ……」


 ちろちろと先端だけを舐められたあとに、口全体で吸い付くようにされるともうダメだった。ポメラニアンの舌なんかよりも温かくてぬめっていて気持ちいい。そんな快楽が俺を襲い、ゼロの動きに合わせて俺の腰も勝手に動いてしまっていたのだ。
 あまりにも自分の身体が快楽に弱すぎて、腰が砕けそうだ。
 別に、男が趣味とかそんなんじゃないのに、嫌だっていう気が全然しないのがおかしい。口から洩れる声だって、俺のじゃないみたいに……


(クソ……犬じゃないんだから、こんなことすんなよ……ああ、もう!)


 乳輪をぐるぐると円を描くように舐め回され、時折乳首に掠めたり舌先で刺激されてしまえば腰が跳ねて快楽を逃がすために浮かせてしまう。


「んぁっ! あぅ、ゼロ……っ」
「ラーシェ……」


 俺の反応が楽しいのか、ゼロは何度も俺の名前を呼びながら愛撫を続けた。俺はというともう何も言えず、ただ与えられる快楽に流されるだけ。甘噛みも、ちょっと強く噛むのも、その力の入れ具合をゼロはよくわかっていた。何で、こいつが俺の身体の気持ちいいところを熟知しているのか解せない。
 それに、俺の、男の胸なんて舐めて何が楽しいのだろうか。


「あぅっ! あっ! やめろ、この、駄犬が!」


 せめてもの抵抗だったが、ちゅぽっと音を立てて埋まっていた乳首が吸い出されると、俺はついに我慢しきれずパンツの中で射精した。下半身に嫌な感触が伝って、一気に快楽が怒りに変わっていく。だが、怒鳴ろうとしたとき、はあ……と熱っぽい吐息がかかり、目の前にあの凶悪なものを差し出されてしまっては何も言えなかった。ヒュッと喉を鳴らして、俺は目の前に出されたグロテスクなゼロのチンコを見てたじろぐ。


「ま、待て、ゼロ、な? 待てよ」
「何を待つんだ」
「いや、俺、初めてだから、挿入るとか…………いやいや、俺たち男同士で」
「……何を言っている主」
「何をやってるんだよ、ゼロは」


 ずっしりとしたチンコを掲げて俺を見下ろさないでほしい。何を望んでいるのかわからなくて、そのターコイズブルーの瞳に俺は訴えかけるが、答えを返してくれない。
 そうしているうちに俺のパンツは剥ぎ取られ、俺はゼロの膝の上に乗せられた。初めてで膝の上とかレベルが高すぎる! と俺が震えていれば、ゼロは俺の耳元で舌打ちをすると、俺の股に己の剛直を忍び込ませた。


「いきなり挿入れるわけないだろう。それに、嫌われたくない」
「嫌われたくないって……」
「それと、主に触れていなければ射精できないおまけつきだろ? 俺の呪いは。それなら、主にも…………ラーシェにも気持ちよくなってもらって、抜こうと思う。一石二鳥だろ」


 と、ゼロは言うとまた耳元で「足を閉じてろ」と俺に命令する。これではどっちが飼い主なのかわからないが、俺は言われるまま股を閉じる。すると、ゼロは今度は壁に手をつくように言って俺を四つん這いにさせ、俺の股の間に自分のものを差し込んだ。ドクンドクンと、脈打っているそれは、やはり俺のより大きい。それが、俺のチンコの下に当たるたび、嫌でも反応してしまう。


「うあっ! あ、あつい……熱いって」
「温まっていいだろう」
「そういう問題じゃないっ、いぃんっ!」


 ゼロは俺の腰に手を置き、ゆっくりと動き出す。俺のチンコも擦れて気持ちいいし、何よりあのゼロのちんぽが擦れるということはまた違った刺激だった。ゼロのそれは亀頭から出ている先走りでどんどん滑りがよくなり、俺のものと合わさってより強い快楽を生んでいた。俺は腰をくねらせるように動かしながら、喘いだ。
 抜きあいとはまた違う刺激。へこへこと腰を動かすゼロ。まるでセックスみたいで、犬の交尾みたいで。
 バカみたいに頭が熱い。


「あぁんっ! はぁっんんっ……あぅ! あっ、ゼロ、やば……これっ」
「はぁ……ラーシェ。ラーシェ、可愛いな」
「ひんっ!」


 耳元で名前を呼ばれて俺は射精した。ビクンと体が揺れ、内ももをさらに引き締めてしまったせいで、ゼロもイったみたいだった。俺の尻に熱いものがかけられる。
 名前を呼ばれてか、かわいいっていわれてかわからないが、イってしまった俺をゼロはどう思っただろうか。ちょっとの屈辱と、まだ降りてこれていないふわふわとした感覚に俺は口をパクパクとさせることしかできなかった。
 ゼロはそんな俺を愛おしそうに見下し、そして俺の耳を舐め始めたのだ。
 ぴちゃぴちゃという水音と、ゼロの吐息、そしてこの体勢に頭がくらくらとする。俺はなんとか逃げようと腰を動かそうとするが、ゼロの力が強くて離してくれない。それどころか俺の耳の穴の中に舌を入れて来た。


「ちょちょちょちょ、ストップ、ストーップ! ゼロ、いい加減にしろ!」
「何故だ?」
「何故だって、お前、射精しただろ。あったまったし! これ以上は、ダメ、だ…………だめ」


 おかしい。
 だって、呪いのための性欲処理のはずなのに。どうして、こんなふうに求めあっているのか。それに、別に俺も嫌な気がしなくて。ゼロならって……


(なんだよ、この思考。何だよ、この感情! これじゃ、これじゃまるで……)


 そんなはずないのに、とゼロを見ると、ターコイズブルーの瞳と目があってしまう。俺は咄嗟に目をそらして「ダメだぞ」ともう一度くぎを刺す。するとゼロは俺から離れて、乾いた俺の服を持ってくるとパサりと俺の肩にかけた。


「もう、寒くないか。ある……ラーシェ」
「はは、おかげさまで。ゼロは?」


 何事もなかったかのように通常運転に戻るゼロ。さっきのはやっぱり、発情して頭がおかしくなっていただけなのだろうか、なんて考えながら俺は精一杯微笑んでやった。すると、ゼロは耳を少しだけ染めて「ああ、ラーシェのおかげで」なんて、また愛おしいものを見るかのような目でそういうと、するりと俺の耳から落ちた黒髪をすくいあげて笑ったのだった。

 
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