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第1部 第2章 雑用係とハチャメチャラビット
09 俺の身体使ってください◆
しおりを挟む「あっつ……毒……が?」
皇宮の第三皇子宮につき、俺はアウラの指示ですぐに部屋を開けてベッドまで彼を連れて行った。そこに行くまでの道中、誰ともすれ違うことなく、殿下の部屋に近づくにつれて人気も音も、色も失っていった。そこはガランとしていて、みんなに忘れられたような寂しさがあった。
医務室に運ぶべきではとも考えたのだが、殿下は頑なにそれを拒否したのだ。
ベッドの上に寝転んで、暑いといいながら服を脱ぐ。ボタンを無理やり引きちぎって上半身半裸になって、息荒げに呼吸を繰り返す。
部屋には明かりがなく、差し込む月明かりがわずかに手元を照らしている状態だった。
(あの場で何があったんだ? 飲み物に何か入っていた?)
すべて見ていたはずなのに、俺は気づけなかった。いや、一度殿下が飲み物に口をつける前に止まった。あのとき、殿下は何かに気づいたのだろう。だが、飲んだ、ということは何もなかったということか。それでも、あそこ以外で口をつけたものは何もない。だから、あのジュースに何かが混入していたとしか考えられないのだ。
またプライドから飲まなければいけないと思ったのだろうか。
「アウラ、朝になるまでこの部屋に誰も入れるな。何があっても、どんな手を使ってでもここに入れるなよ」
「……わかりました。アーベント様」
途切れ途切れながら、殿下はアウラに指示を出す。アウラは何か聞きたげに指を動かしたが、詮索しないと決めたらしく首を縦に振った。
「おい、雑用も外に出るぞ」
「……っ、待てアウラ。何があったかわからないのに、殿下を一人にするつもりか!?」
「詮索するなと言われたばかりだろ、愚か者……僕の予想が正しければ、飲んだのは催淫薬か何かだろう。どっちが盛ったか知らないけど、まあ大方……」
「催淫……」
「性欲を高める薬っていったら、低脳な雑用にもわかるか?」
「いや、わかるっていうか、何でそんなもの殿下が盛られなきゃいけないんだよ」
「知らない。もうこれくらいでいいだろ。雑用。ここには誰一人入れるなと指示された。貴様も例外じゃない」
「……けど」
アウラは俺を睨みつけると「すぐ出てこい」と背を向け部屋を出ていってしまった。
あのアウラがあんなふうに怒るなんて思ってもいなかった。それに、催淫薬っていうのであれば、欲を発散させなければ抜けないだろうし、もしかしたらそれ以外の効果も付与されているかもしれない。それなのに放っておくって、アウラらしくなかった。アウラだったら、自分の体を差し出すとかしそうなのに……
(……って、偏見が過ぎるな。それに、今はそう言ってられない)
「――おい」
「……っ、でん、か」
「聞こえなかったか。お前も外に出るんだよ」
地響きするような声で、ベッドのほうから殿下の声が飛んでくる。体が震えそうなくらい低い声に、俺は思わず言葉に詰まった。
「ま、待ってください。殿下を一人置いてなんて……」
「ああ、もう……詮索すんなっつったのに、全部話しやがったな、あのクソ兎……」
「……」
「で、聞いた上でお前に何ができるっていうんだ。それとも、哀れだと思ったか? あの場で気付いたくせに飲まざるを得なかった俺が。こんなクソしょうもない薬を飲まされて、苦しんでいる俺が……最悪だ」
と、殿下は舌打ちを鳴らしながら言う。
やはり気づいていたのか、と思うと同時に飲まざるを得なかったというのは、プライドというよりも、強制に近いのだろう。あの場で飲まなかったら、第二皇子を祝わなかった薄情者と指をさされるかもしれなかった。それだけじゃなく、グレイから受け取ったのに飲まなかったらまた何か言われるかもしれないと。あの状況で、殿下が断るなんていうことは絶対にできなかったと。
どっちが盛ったかは知らない。でも、こんな悪趣味なものを盛る人間はどうかしていると思う。
ベッドの上で息を荒くして苦しんでいる殿下を前に、俺は何もできなかった。
何ができる? という質問に対し、答えることも行動を起こすこともできない。
時間がたてば抜けるものなのだろうか。けれど、その間の時間は? こんなしょうもない、とか殿下は言っているものに苦しめられて、最悪の気分だろう。もしかしたら、殿下を狂わせて誰かを襲わせる作戦なのかもしれない。嫌われているのに、さらにそこに強姦という罪が上乗せされるのかもと。
「フェイ、出ていけ。それとも、お前が俺の相手をしてくれるのか?」
ハッと、鼻で笑うように殿下は言う。
ぎらついた眼が、暗闇の中で光っていた。理性を保つのも限界なんだろうと思った。その嘲笑は、俺に対してではなく、自分に対してのものだと気づいてからは、俺は殿下を哀れだとか、かわいそうだとか思えなくなった。
「……おい、どういうつもりだ」
「相手してくれるのかっていう答えですよ。いいですよ、俺の身体でもいいなら」
「正気だとは思えねえな」
ギシィ、とスプリングが軋む。殿下が、ベッドから起き上がった。汗で、前髪が張り付いている。顔の紅潮も、わずかな光を帯びてよくわかった。
「で? 俺の相手をしてくれるって?」
「はい」
「悪いが、お前の身体には興味ない。前にも言っただろ? それに、お前はまだヒョロガリだ。食欲すらそそられない」
「太らせて、食べる気満々じゃないですか……別に、主人の緊急事態に自分の貞操のこととか考えませんよ。安くないとは思ってる。ただ、アンタらしくないって思ったんですよ」
「あ?」
俺は黙って上着を脱ぎ捨てた。高い上物の上着も、シャツも取っ払えば、殿下と同じ上半身裸になる。確かに、殿下のいう通りまだあばらが見えるほど痩せている。アウラのけいこで肉がついたものと思っていたがまだまだらしい。
「こういうときに、気を使われるのが一番腹立つんですよ。どっちが今、苦しい状況なのかって……優しくしてとは言ってない。主人を奉仕するのは、使用人の役目でしょ?」
「男娼か、お前は……」
「はいはい、どーとでもいってください。今の殿下、怖くないんで」
牙が抜けているというか、ある意味牙むき出し、欲むき出しという感じなのだが、それでもいつもとは違う。
俺が、ことわりもなしにズボンのベルトを外しても殿下はされるがままだった。俺を拒む余裕すらないのだ。ベルトを剥ぎ取り、ボタンをはずし、口でチャックを下ろせば、むわっとした熱気が俺の顔に直撃する。パンパンに膨れ上がったそれは、布の上からでもその大きさを主張する。
「……はっ」
「やめろ。お前には無理だ」
熱の帯びた息を吐きながら殿下はそういう。だが、期待の入り混じった目が俺を見下ろしていることに気づかないわけがなかった。
もちろん、一度だってこんなことしたことない。野郎のものを咥えようなんて、どんな罰ゲームだと思う。けれど、これはある意味贖罪だと思った。
(俺があのとき、気づいて止めることができていれば……)
変化に気づいて何もできなかった自分への戒め。
「……っ、か」
「ああ……クソ、フェイ、お前……」
下着をずらせば、ぶるんと主張した剛直が俺の眼前に現れる。自分のサイズと比べるのもばかばかしいくらいに大きく、脈打つそれを見て、血の気が引く。だが、ここまできて引き下がれないと、それを掴もうとしたとき、殿下は俺の頭を乱暴につかんで股間に押し付けてきた。鼻先に柔らかいものが当たる。
「やめてもいいんだぜ。つか、やめとけ。お前の口には入らねえ……」
「……ん、む」
一瞬躊躇ったが、俺はそのまま殿下のそれを口に含んだ。汗と雄の匂いが混じって吐きそうになったが、どうだという意味も込めて俺は殿下を見上げる。殿下は、怒っているのか興奮しているのかわからない顔で俺を見下ろしていた。鮮血の瞳が俺を射抜く。
「……っ、お前な」
「んぶっ、はっ……」
じゅぼ、じゅぶっと、つたないながらに咥えてみるが、やはり入りきらない。無理すれば喉奥まで入るのだろうが、怖くてできなかった。そのため、怖気づいて途中から、先走りがだらだらと流れる先端を舐めていると、殿下は俺の頭を掴んだ。そして、無理やり頭を掴まれて前後に動かされる。俺の唾液と殿下の先走りが混ざり合って口の中がいっぱいになる。
一度口から取り出すと、それは腹につくほど反り返っていた。自分のものとは比べ物にならない凶悪さだ。
「ヘタクソ」
「や、やったこと、ないんですから……あたりま……んぎっ!?」
「日が昇る……挿れはしねえよ。股貸せ」
「でん……」
いつの間にか俺のベルトを外し、俺の下着を剥ぎ取ると、四つん這いにさせた。ぺちん、と尻を叩かれ、恐怖のあまり悲鳴を上げる。だが、後ろから降ってきたのはどことなく愉快気な笑い声だった。
そして、尻の割れ目にヌッと熱い棒が擦り付けられ、体から汗が噴き出した。さすがに、解してもいないそこに入れられたら腹も穴も裂ける。もちろん、その覚悟も持って殿下に食いついたのだが、いざそこにあてがわられると腰が引けてしまうのだ。
「だから挿れねえって。股閉じとけよ。緩めたら、こっちに挿れちまうかもしれねえからな」
「……でん、っ」
言われた通り四つん這いになりながら、足を閉じれば、こじ開けるように隙間に自身のそれをねじ込んできた。股の間で、殿下のものが暴れまわる。素股ってやつだろう。ぐちゅぐちゅと激しく出入りを繰り返しながら、尻の穴を掠めてくるたびに俺は声を上げた。
「はっ、やっば……たまんねえ」
「んぎっ、くっ……! うっ、でんっか……まてって……」
「ああ?」
「クソ……うっ」
「泣くな。無理やりやってるみたいで、気分わりぃ」
と、いらだったような声が後ろから聞こえる。八つ当たりでもするように、腰を早め俺の竿の下を擦る。
男の声なんて、聴くに堪えないよな、と俺は枕に顔を埋めた。これは、性欲処理であり、薬が抜けるまでの行為だ。それでも、暑いものが俺の下を掠めるたびに、なんともいえない快感をひろ負ってしまう。最近抜いていなかったことも相まってか、声が漏れそうになる。それを必死に抑えて、腰を高く上げれば、殿下の手が伸びてきて俺の竿に触れた。
「あ……っ、ん」
思わず声が出て、慌てて枕に顔を押し付けるが遅かった。
「……へえ?」
「ちが……これは……」
「いいぜ。声出せよ」
と、俺のそれをしごき始める。背中を駆け上がる快感を逃そうと腰を動かすも、それは逆効果だった。尻の割れ目を殿下のそれが往復して、さらに強く擦られてしまうのだ。俺はまた声を上げた。その声を聴いてか知らないが、殿下のがよりいっそ大きく、重くなった気がしたのだ。
(はあ……どうせ、薬でおかしくなってるだけだろ。素面に戻ったら、怒るかな、殿下……)
解雇とかになったらどうしよう、なんて考えながらも、俺の竿をしごく殿下の手につられて俺は達した。肩で息をしていれば、背後からため息が聞こえ、それと同時に先ほどより殿下は腰を早め、ラストスパートというように擦る。達したばかりで敏感なそこは、殿下の熱にあてられ、また立ち上がった。
「あーいい、お前、才能あるな」
「いらなっ……そんな才能っ」
「……くっ」
俺の肩に噛みつくんじゃないかという勢いで、殿下は顔を埋め気持ちよさそうにうめくと、そのまま俺の股で吐精した。腹に生暖かいものがかかり、ポタポタとシーツにもそれが落ちてシミを作っていく。
(……もう、ねむ…………)
前のめりになるように、俺はシーツへと沈むと、殿下がその上に乗っかってきた気がした。だが、眠気と体力の限界から暗く、そして重くなっていく瞼に逆らえず俺はそのまま目を閉じた。最後に耳に息を吹きかけるように殿下が何かをつぶやいたようだったが、俺はそれを聞き取ることができなかった。
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