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第1部 第2章 雑用係とハチャメチャラビット
06 謎の荷物は俺宛
しおりを挟む「なんか、めちゃくちゃ荷物届いているんですけど。これ、なんですか?」
「一週間後に、第二皇子の誕生日パーティーがあるので、それに出席するための衣装でございます」
「え? 殿下、第二皇子の誕生日パーティーに出席するんですか?」
「はい……殿下もプライドが高い方ですし。それに、前皇后陛下の誕生日でもありますから」
「いろいろときつくないですか、それ」
玄関にはプレゼントの箱がたくさん積まれていた。それは、殿下の衣装で、これを着て誕生日パーティーに出席するのだとすぐにわかった。珍しく、服を買って来いといわれてメモを仕立て屋に渡したら三日後にこれらが届いたのだ。めんどくさくて、採寸だけ屋敷でやってもらって、お金とイメージだけをメモに書いたのだろう。中身はさっぱりわからない。だが、さすが皇族というべきか、お金のかかってそうな包装、そして中身がちらりと見え、そこには黄金のタイピンが入っていた。
連日のアウラのスパルタ特訓のせいで、体が痛く、この箱は軽そうだが持っていくのはめんどくさそうだなあと俺は眺めていた。グレーセさんはせっせと仕分けをしているようで、三つに箱を分ける。
(パーティーねえ……)
今回の開催地は皇宮。第四皇子の誕生日パーティーは、ごねられてここで開催したらしいが、第二皇子はやはり皇宮での開催らしい。
行きたくなければ、無理していく必要もないのに。それでも殿下は出席するというのだ。
第二皇子から手紙が送られてきたときは、握り物していたのに、それを捨てずにとっておいて出席すると手紙を返したのだろう。殿下からすれば、第二皇子を祝いに行くためではなく、あくまで母親の誕生日を祝いに行くのだろう。もうこの世にはいない、前皇后陛下の。
また、プライドが高い殿下だから、第二皇子に煽られれば嫌でも出席するのだろう。出席しないことが、逃げているといわれるからか。しかし、出席したところできっと殿下の居場所は……
「こちらは、フェイさんの衣装です」
「へえ、俺の……俺の!? え、何でですか」
「それは、殿下の付き人として参加してもらうためです」
三つに分けていた箱のうち、一つを手渡され、残りも貴方のです、とにこりと微笑まれてしまった。しかも、上等な箱に入っていて、きっと今着ている使用人の服よりも豪華なものだということが分かる。
「聞いてないんですけど。殿下に今から文句言ってきていいですか!?」
「やめたほうがいいと思います。今、殿下はパーティーのことで気が立っていますので」
と、静かにグレーセさんに諭されてしまった。
確かに、行きたくないけどプライドが許さないから行く、ともなれば殿下の気が立つのもわからないでもない。そういうときは、とにかく関わらないようにするのがいいのだが、夕食を運んでいくときや、急用でなぜか呼び出されたときは必ず顔を合わせないといけない。しかし、気が立っているのにもかかわらず、なぜか殿下は俺に近くに来るように言う。ひっかかれたらいやなんだけどなあ、と思いつつも、機嫌を損ねないようにと細心の注意を払って。そうすれば、八つ当たりされることもなく用事はすむのだが。
「で、俺も参加と……俺、そういうマナー的なことわかりませんよ。俺がいっても、殿下の評価を下げるだけなんじゃ」
「大丈夫です。フェイさんは気づいていないかもしれませんが、立ち振る舞いや、敬語も全然大丈夫ですので。あとは、波風立てぬよう空気になれば」
「空気……というか、アウラにいかせればいいんじゃないですか?」
「ああ、アウラ様も一緒ですからご安心を」
「安心できないです」
アウラだけでいいんじゃないかと思う。だが、アウラだけ……というもの心配である。さすがに、騒ぎは起こさないだろうし、殿下が信頼している騎士であるのなら問題はないと思う。が、魔法が使えない護衛ということもあって、何かあってからでは対応が……
(できるな。うん、問題ない)
やっぱり俺はいらないんじゃないかと思って、グレーセさんを見たが、微笑まれるだけで、これは決定事項のようだった。なぜ俺は殿下についていかなければならないのかわからない。護衛や付き人がいないことで、この人には権力がない! と思われるからだろうか。それとも、バカにされるからだろうか。
理由はわからないが、殿下を一人で(アウラはもちろんいるのだが)行かせるの、はなんとなく心苦しかった。殿下の置かれている現状というのを、はっきりと目で見たことはなかった。そういう意味では、今回チャンスなのかもしれない。殿下が言っていたことが本当なのか、そしてどんな状態なのか。殿下は、寂しい人だから。
「グレーセさん、殿下の荷物俺が持っていきましょうか?」
「ありがとうございます、フェイさん。では、頼みます」
いつもなら率先して殿下の荷物をもっていかないのだが、グレーセさんから殿下の荷物を預かって三階の一番端の部屋へ向かう。扉は不用心にも空いており中に入るが、そこに殿下の姿はなかった。
(屋根裏部屋か……)
腰に下げていた鍵で殿下の部屋を閉めた後、俺は荷物をそこにおいて三階へと向かう。頼まれていたものが届きましたよーというだけのつもりで屋根裏部屋へ続く階段を上る。二日前に掃除したはずの階段の手すりにうっすらと埃が乗っていた。
「……殿下、いますかー」
「誰だ」
「誰だって。フェイですよ。殿下の荷物届きました。誕生日パーティー出席するんですね」
低い声と、鋭い視線が俺を射抜く。誰だ、なんてここに入ってくる人間は決まっているだろう。
殿下は俺に気づくと、散らばっていた紙に目線を落としたうえで「フェイか」と夢の中にいるようなポヤポヤとした声でつぶやいた。寝起きで機嫌が悪いのか、と思いながら、散らばっている紙を踏まないようにと殿下のほうへ歩く。今まで、その紙の内容まで読まなかったのだが、ちらりと視線を落としてみれば、その紙には女性の絵姿と名前が書いてあった。
「なんすか、これ」
「見合い相手の写真だよ。送られてくるんだ、皇宮からな」
「へえ……そういうところは、皇族らしいっていうか。結婚するんですか?」
「しねえよ。一年後死ぬかもしれねえのに。残されたほうがかわいそうだろ?」
「……そういうもんですかね。殿下に結婚願望があるなんて知りませんでした」
「だからねえよ」
他の紙には、よくわからない言葉や、地図などが載っており見合いのための資料でないことはわかった。外交関係か、こおっ協付近の魔物の問題か。俺にはさっぱりわからないことだった。
嫌われている、信用されていないのに、仕事があるのだと不思議に思うが、もしかしたら面倒ごとを殿下に押し付けているのかもしれないと。なんだか不憫に思える。
「それで、パーティーの話か」
「なんで、俺まで行くことになってるんですかね。アウラだけでいいのに」
「あいつだけじゃ心配だ。一度、暴走しそうになったんだよ。それに、獣人騎士団も警備として参加するからな。暴れられたら困る」
「でも、俺止められませんよ?」
「お前がいれば、ちったあ、おとなしくしておくだろう。醜態は見せたくないやつだからな」
「ストッパーみたいなもんですか。俺の役割って」
殿下も、アウラが何かやりそうであると思っているらしい。かといって、俺がいたところでアウラを止められるわけもなく、あのバーサーカーラビットが何もしないことを祈るしかなかった。
「用事はそれだけか?」
「え、ああ、はい。そんだけです。あと、殿下の顔を見ておこうかなと思って」
「俺の顔が好きか?」
「いや、だからなんで……はあ、えっと…………グレーセさんが、パーティーのこといって。最近、機嫌が悪かったのってそれなのかなあとか。いろいろ」
「見りゃわかるだろ」
「そりゃ、見ればわかりますけど。嫌なら逃げてもいいんじゃないですか?」
俺なら逃げる、そう思って目を伏せた。
殿下は逃げることは択ばない人間な気がした。俺とは違う。逃げてばかりの俺とは違って、逃げはしないがあきらめている人間だ。まだ、わからないことばかりで、それでも少しはわかることがあって。機嫌が悪いとわかっていても、そばにいたら少しは機嫌が直るんじゃないかって思ってここにきた。野郎なんかが一人きて、機嫌がなるわけもないのに、なんとなく、いてあげたほうがいいって思ってしまった。
「逃げるなんて選択肢はない。そもそも、俺が選べる立場にいない」
「……殿下のそれは、すべて冤罪で……わかってますけど」
「お前や、俺の周りにいるやつがそう思ってくれていればいい。それ以上望まない。それでいいだろ、別に」
「……」
「まあ、目をつけられない程度にパーティーで出される食事を食べればいい。まだお前、全然肉がついてないからな。たくさん食べろ。ただ飯だ」
「全然ただ飯じゃないんですけどね。殿下がいうなら、そうします。当日頑張ってください」
「頑張ることは何もねえよ。顔を出して、すぐに帰るだけだ」
そういって、殿下はハンッと鼻で笑った。その嘲笑は、第二皇子を祝うなんてことしない、という気持ちの表れのようにも見えた。殿下らしい。
俺は、近くにある紙を拾い集め一つの束にして殿下の横に置いた。片付けろとは言われていないが、見合いは関係ないのなら片づけても問題ないだろうと判断したからだ。
「それ、燃やしてもいいぞ?」
「燃やしませんよ……ああ、でも本気で燃やすなら、外で焼き芋しましょ。燃料として使います」
「お前、容赦ねえな。そういうところ、気に入ってる」
「はーい、ありがとうございまーす。では、失礼します」
入ってきたときよりも、いくらか機嫌は直ったようだった。当日は、怖いけれど、まあ何とかなるだろう。
俺は、軽い足取りで屋根裏部屋を出て、玄関に残っていた自分の服を取りに戻った。
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