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第4章 私達はハッピーエンドを掴みます!!
08 いざ決戦の日!!
しおりを挟む「へ、変じゃない?」
「大丈夫ですよ。アドニス様、お綺麗です」
ソワソワ落ち着かない様子で、鏡の前をいったりきたりする。いつもよりも気合いを入れたドレスと、髪型と、メイクはキャロル様が厚いのが苦手といっていたからそこそこにして貰って、でもやっぱりキャロル様の好みに合わせたくて色々試行錯誤した結果、いつもとそこまで変わらない感じになってしまった。
それにしても……と、姿見の前でクルリと回る。
(キャロル様のお誕生パーティーだからって、少し浮かれすぎているかも)
顔がいつも以上にほころんでいて、下手したらへにゃへにゃって崩れてしまうかもしれない。そんなだらしのない顔はキャロル様にみせたくないけれど、きっと、キャロル様もいつも以上に着飾ってくるだろうから、そんな姿を見たら平常心じゃいられないだろう。だって、主役! 主役だからこそ、一番目立つに決まってる。ただでさえ、何処にいても目を引く姿で、顔でいるのに。
(キャロル様って、かっこいいし、美しいんだもんなぁ)
自分の顔を見て、溜息をつく。
釣り合っているかなって、凄く心配になる。キールは中身はあんなのだけど、ちゃんとヒロインっていう可愛らしさがあって、中身を抜きにすれば守ってあげたくなるような小動物感で。一方シェリー様は、そういう可愛らしさよりも大人っぽさというか色気というか、美しいって言葉がこれ以上似合う人はいないってくらいの美貌の持ち主で。
ヒロインと悪役令嬢。そして、私は不遇令嬢で。叶うはずもなかった。ゲームで言えば、ヒロインの引き立て役の名前を与えられたようなモブだし。だからこそ、攻略キャラで、ヒロインと結ばれる可能性もあったキャロル様の婚約者になって、隣に立って。キールやシェリー様を見ているからこそ、自信をなくしてしまうのだ。
「アドニス様、そろそろお時間です」
「あっ、ごめんなさい。今行くわ」
うだうだ考えても仕方がない。
私は私。キャロル様が、私を選んでくれたんだから、それでいいじゃない、と言い聞かせて、馬車に乗り込む。人と比べたら自信をなくすのは当然なことだと、私は胸の中にしまった。
皇宮に近付いていくたび、心臓の音がうるさくなって、緊張からか、汗が滲み出る。キャロル様と会ったときに、汗だくだったら最悪だと、メイドにハンカチを貰って拭いていれば、いつの間にか到着していたようで、馬はピタリと止まった。
(決戦の日――!)
馬車の中で、思い出したけれど、今日はプレゼントとして、私からキャロル様にキスを送ることになっている。タイミングとかは勿論考えているし、人前では恥ずかしいから、避けたいけれど……
そんな思いを胸に抱きながら、必死にキャロル様がパーティーに参加して欲しいとせがんできたことを思い出した。何故彼はそんな必死だったのだろうか、と、ふと思う。自分の誕生日に婚約者に会いたいって気持ちは分かるけど、それだけじゃ無いような気がしたのだ。そういえば、今日のパーティーは、シェリー様は参加するのだろうか。ロイさんとの関係がどうなったかも気になるところだけど、一番は……
(キール、も来るのかな)
ライラ殿下が出席するなら来るような気もする、ともやっとした気持ちが心に生れる。そんなこと気にしていたら、せっかく祝うって決めてきた気持ちが、今日という大切な日を台無しにしてしまうのではないかと思った。考えないようにしよう、と私は再び、嫌な思いを頭の隅に追いやって、会場へと入る。そこは既に人で溢れており、いつもよりも飾り付けや、ごちそうが豪華な気がした。さすがは、第二皇子の誕生パーティーといったところか。
「アドニス!」
「シェリー様?」
会場でうろうろとしていれば、人の間を縫って、美しいブロンドヘアを靡かせながらシェリー様がやってきた。皆、彼女の美しさに目を奪われる。真っ赤なドレスは少し胸元が開いており、シェリー様だからこそ着ることを許されるドレスといった感じだった。どうしても、胸に目がいってしまうのは、私がそこまでないからか。
「シェリー様も出席していたんですね」
「ええ。第二皇子の誕生パーティーだからね。公爵家の公女として。アドニスは、婚約者として出席したんでしょ?」
「ま、まあそうなりますかね。直接きて欲しいって言われましたし。でも、誕生日だって知ったの二日前で」
「まあ、攻略キャラの誕生日って書いてなかったものね」
と、シェリー様は同情してくれた。
シェリー様と話していると、まわりの視線が気になったので、こそりと彼女に伝え、会場の端に移動することにした。シェリー様はその美貌から注目されやすいし。そんな注目される方と一緒にいたら、ますます肩身が狭くなる。
「この間はありがとう。アドニス」
「ええっと、この間とは誘拐されたときのことですか?」
「ううん、この間ロイのこと、相談乗ってくれたでしょ。その時のお礼がしたいと思って。アドニス、本当にありがとう。相談に乗ってくれて。貴方は、私にとって大切な友達……ううん、親友だわ」
と、シェリー様は優しく微笑んで私の両手を握った。
聞きたいことは一杯あったし、ロイさんとはどうなったのかも聞きたかったけれど、まずは、単純に嬉しいと感動を覚える。シェリー様の口から、友達だなんて言われるとは思っていなかったから、嬉しくて泣きそうになる。
こんなに素敵な人が、私なんかの事を親友と言ってくれるだなんて。私は、彼女の手を握り返した。
「二人して、本当に惨めねえ」
すると、後ろから声が聞こえてくる。聞き覚えのある声で、振り向けば、そこには桃色の髪の毛を揺らしたキールが立っていた。私達を見下すように、ふんっと鼻で笑う。彼女も、やはり参加していたのだと、私は顔を強ばらせる。
一気に雰囲気がしらけて、私は視線を下に落とした。そんな私の様子にいち早く気づいたシェリー様は、私を守るようにして、前に立った。
「何のよう?」
「用がなければ話しちゃいけないんですか~? 酷いですねえ。矢っ張り、悪役令嬢だわ」
「……言いたいのはそれだけ?」
「何よ。いつもより強気じゃない……アンタは私に勝てないのよ。所詮は、悪役令嬢……それに、アンタが友達って言ってるそいつは不遇令嬢。ヒロインの私に勝てるわけ無いのよ。幸せに何てなれないわ」
「……」
どっちが悪役よ、と私は彼女にバレないように、キールを睨み付けた。
キールは、私の事なんて眼中にないようで、シェリー様を見て、嘲る。
「そんな売春婦みたいな、ドレス着て……男を誘う気満々って感じで。品性疑っちゃうわ」
「き、キール! シェリー様をそんな悪く言わないで――」
これ以上、シェリー様の悪口を言われるのが嫌で、貶されるのが嫌で声を上げた瞬間、会場全体に声がかかった。
「皇太子殿下と、第二皇子の入場です」
キィ……と開かれた大きな扉の向こうに、輝く黄金が二つ見えた。
(キャロル様――ッ!)
その神々しい姿に、私は息をのんだ。
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