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第3章 矢っ張り不遇令嬢の名はダテじゃないです!!

06 楽しいお出かけのはずが

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「城下町って初めてきたんですけど、凄く賑わってますね」


 シェリー様に連れられて、やってきたのは帝都の下町。公爵邸から少し歩いたところにあったから、馬車を使わず、お忍びという形で来た。公爵家の馬車は目立つからという理由で、シェリー様が断ったらしい。一応、城下町に行く、とは伝えてあるため何かあったらすぐ飛んでくるだろう、とシェリー様は言っていた。どうやら、シェリー様の父親も過保護なようで、言葉には出さないが、その過保護っぷりにシェリー様は少し恥ずかしいと感じているとか。
 そんな感じで、お忍びでシェリー様と街に繰り出したわけだが、そこは活気があって、人がたくさんいて、屋台も沢山出ていた。あまり、こういう所にはきたことがないので、物珍しさに、首をあっちにこっちにと向けてしまう。落ち着きがない女と思われてしまうかも知れない。
 護衛として、ロイさんがついてきてくれているから安心感はあるんだけど……


「シェリー様」
「何? アドニス」
「もしかして、ロイさんと喧嘩でもしました?」


 ロイさんの様子が可笑しいというか、まずそもそも無口で、シェリー様、シェリー様と媚びるようなロイさんが全く口を開かないのだ。シェリー様も、いつもはロイさんをもっと構ってあげる印象なのに、私がいるから、という理由じゃなくて、あえて避けているような感じがしたから。これは、ただごとではないのでは? と、思ってしまったのだ。
 私が、ロイさんについて訪ねれば、シェリー様は、言いたくないというように少し悲しげに目を細めた。聞いちゃいけない事だったんだろうか、と私は今更ながらに後悔する。人の恋路に足を突っ込んで、失礼な女だと自分の言動を恥じる。シェリー様も人間だし、言いたくないことの一つや二つあるだろう。それに、ロイさんのことなら尚更。


(でも、シェリー様の首筋には確かにキスマークがあって……ロイさんがつけたものなんだよね)


 他の人がつけたとは考えにくいし、それをロイさんが許すはずもないだろうし。だからこそ、何で二人の空気が悪いのか分からなかった。深く突っ込みたいけれど、シェリー様が聞かないでというオーラを放っているので、私はそれ以上聞くことが出来なかった。


「そ、そう。喧嘩したのよ。ラブラブでも喧嘩することがあるから、アドニスも気をつけるのよ?」
「あっ、はい。そうですね。ラブラブな時期こそ気をつけなきゃですよね」


と、私は咄嗟に返事をする。

 それから、シェリー様はおすすめのお店があるといって指を指しながら走り出した。私は、はぐれないようにとシェリー様の後を追いながら、後ろを振返る。そこには、ロイさんがいて、私達を見守ってくれているようだった。見守る、というよりかは監視、と言う言葉の方が似合いそうだけど。


(でも、何か、怖い顔してる……)


 いつも私に向ける顔は、怖くて嫉妬にまみれているけれど、それとはまた違う顔で。でも、少し暗くて見えなかった。私が突っ込むべき話じゃないし、と再びシェリー様を追いかけて走る。気づかないうちに結構な距離が出来ていて、追いつくのがやっとだった。


「か、可愛い……!」


 シェリー様が連れてきてくれたのは小さなカフェで、とても可愛らしい雰囲気があった。店員さんも美人で可愛い女の子で、私達が店内に入ると、微笑んで出迎えてくれる。メニュー表には美味しそうなケーキの写真が並んでいた。因みに、変装として髪色は変えてきている。私は、シェリー様の美しい白葡萄のようなブロンドヘアに、そして、シェリー様は恐れ多くも私のサーモンピンク色の髪に。


(どれもこれも美味しそうだなあ)


と、悩んでいると、シェリー様はもう決めたらしく、どれにするの? と顔を覗かせる。


「どれも魅力的で、決められなくて」
「そう? じゃあ、二つ頼んじゃいましょ」
「いいいえ! 大丈夫です! 太っちゃいますし」
「じゃあ、今度また二人できましょ? そしたら、楽しみも増えるし、食べたいものが食べられるじゃない」


 名案! というように、シェリー様は手を叩く。こういう所は、矢っ張り年相応というか。それから、私はイチゴタルト、シェリー様はレモンパイを頼んで優雅な時間を過ごした。完全にロイさんは空気に徹していたけれど、シェリー様がそんなロイさんに構うこともなく時間が過ぎていった。主人と護衛、そんな冷たい関係の二人をみて、何だか可哀相に思えてきた。私が口を挟んで面倒な事にはさせたくなかったし、何も言わなかったけれど。


「シェリー様、今日はありがとうございました。とても、美味しかったです」
「ふふ、美味しかったって。よっぽど、あのお店の味が忘れられないのね」
「あ、ああ! 違います。楽しかったです! 今日は、本当にありがとうございました」


と、慌てて訂正すれば、シェリー様は面白かったのかクスッと笑ってくれた。矢っ張りシェリー様の笑顔はとても素敵で、見ているだけで幸せになる。

 帰りは、公爵邸までもどってそこから、侯爵家の馬車に乗って帰る予定になっている。あまり遅いと、パパ様が心配するだろうし。それに、明日の夜にはキャロル様が戻ってきてくれるから、それまでに色々と用意しないと、と思った。
 そんな未来の予定に頬を緩ませつつ、来た道を戻りつつ、少し人通りが増えてきた道をシェリー様と離れて歩けば、あっという間に人混みに飲まれてしまう。次の曲がり角で、待っていようと、右に曲がった瞬間、誰かに腕を捕まれ、口を布のようなもので覆われてしまう。


「うーっ!?」
「暴れるなって。なあ、此奴であってるよな。ブロンドヘアの公爵令嬢って」
「ああ、多分な」


と、暗い路地へと引きずり込んだ黒服の男達は私をジロリと見つめた。


(何? 誘拐?)


 男達は、何やら詠唱を唱え初めて辺りを見渡していた。誰かに見られたら不味い、と言う雰囲気で。


(でも、ブロンドヘアの公爵令嬢って……シェリー様のことよね?)


 彼らは間違えて私を誘拐しようとしている、というのがすぐに理解できた。こういう時に、『不遇令嬢』の文字が頭に浮かんでくる。こうやって、間違われて、誘拐先で目的の人物と違うって殺されて……
 もしかしたら、死亡フラグがたってしまったのではないかと私は、必死にその場で暴れた。


「うーっ、うーッ!」
「アドニス!」


 暴れる私を、必死に取り押さえる黒服の男。力差がありすぎて、すぐに押さえ込まれてしまい手も縛り上げられる。そんな時、聞き覚えのある声がして、顔を上げれば、私のサーモンピンク色に髪を染めたシェリー様がたっていた。


(こっちに来ちゃダメです! シェリー様!)


 そう、叫ぼうと思ったが、口を塞がれているため、言葉にならない。
 シェリー様は、私の姿を見て、顔を青くする。でも、その場から去ろうとせず、私を助けようと近付いてくる。このままじゃ、シェリー様まで。男達の目的は、シェリー様であって、私ではない。だから、逃げるべきはシェリー様なのだと。


「アドニス? 此奴、公爵令嬢じゃないのかよ」
「まあ、いい。どっちも連れて帰れば良いんだ。ほら、さっさとしろ」


と、一人の男が私を抱え、もう一人の男が、シェリー様の腕を捕まえ、私と同じように口元を布のようなもので覆った。すると、シェリー様は糸が切れた人形のようにカクンと気を失ってしまい、男に軽々と担がれてしまった。その光景を見て、早く誰かに知らせないと、と気持ちだけが焦る。しかし、私もシェリー様と同じ末路を辿ることになる。


「お前も、眠ってろ」


 フワッと、甘い匂いがしたかと思えば、途端に睡魔が襲ってきて、私は意識を飛ばした。
 最後に見た光景は、ロイさんらしき人が、こちらに走ってくる姿だった。


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